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テレワークが変えた暮らし[4]愛犬のために伊豆高原へ移住。40代で仕事を変えずに実現

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テレワークが変えた暮らし(〇)  40代でも仕事を変えずに愛犬のために移住が実現

伊豆高原への移住とともに、新幹線通勤&週に1~2度のテレワークを同時に始めたOさん(45歳)。
職場を変えずに、住まいを変えることは、案外できること。暮らしは確実に豊かになったと実感するOさんに、移住の経緯、リモートワークの実情、伊豆高原の住み心地などお話を伺った。

お気に入りの場所、伊豆高原で見つけた「森の中の小さな家」

今年9月、妻と愛犬とともに伊豆高原に移住したOさん。それまでに月に2、3度日帰りで伊豆や下田方面に遊びに来ていた。目的は、愛犬のグラム君のため。「3時間車を運転して、静岡県下田市の爪木崎の遊歩道まで遊びに行っていました。1時間ほど散歩して、その帰りに美味しいもの食べて、温泉に入ってというのが休日の定番ルート。何度も足を運ぶうちに、このあたりで暮らしてみたいなぁと思うようになったんです」。
そこで、よい土地があれば買って家を建てようと考え、土地を探すことに。条件は、東京都内から2時間以内の立地で、海が見える、開放的な高台の土地。

釣り場でもある近くの漁港にて。海と崖がそびえる景観は、それだけで非日常の風景だ (写真撮影/片山貴博)

釣り場でもある近くの漁港にて。海と崖がそびえる景観は、それだけで非日常の風景だ
(写真撮影/片山貴博)

よく足を運んだ爪木崎の須崎遊歩道。海沿いの景観が美しい(写真撮影/本人)

よく足を運んだ爪木崎の須崎遊歩道。海沿いの景観が美しい(写真撮影/本人)

「2年ほど探していたでしょうか。でも、もともと温暖な気候で別荘地や移住者に人気のエリアなので、なかなか見つからなかったんです。もしかしたら、条件の良い土地には、すでにもう家が建っているのかもと考え、中古の一戸建ても候補に入れました」
その中で見つけたのが、300坪の広大な丘に建つデザイナーズ別荘。1階がコンクリート打ち放し、2階はログハウス調の外観が印象的だ。「高台なので、視界が抜けていて、開放的なのが気に入りました。海も遠くにですけど見えるんですよ」

もともとは有名建築家が軽井沢で建てた別邸のレプリカ。お風呂に温泉をひいているのもこの土地ならでは (写真撮影/片山貴博)

もともとは有名建築家が軽井沢で建てた別邸のレプリカ。お風呂に温泉をひいているのもこの土地ならでは (写真撮影/片山貴博)

エントランス前のウッドテッキからの眺め。「階段の上り下りは正直大変ですけど、空が近く感じる開放感が何より贅沢」(写真撮影/片山貴博)

エントランス前のウッドテッキからの眺め。「階段の上り下りは正直大変ですけど、空が近く感じる開放感が何より贅沢」(写真撮影/片山貴博)

常に犬とともに暮らしていたOさん。グラム君は3代目の愛犬 (写真撮影/片山貴博)

常に犬とともに暮らしていたOさん。グラム君は3代目の愛犬 (写真撮影/片山貴博)

英国デザインの『シェイカーキッチン』にリフォーム。ホーローのシンクや、伝統的なデザインなどは、妻のこだわり(写真撮影/本人)

英国デザインの『シェイカーキッチン』にリフォーム。ホーローのシンクや、伝統的なデザインなどは、妻のこだわり(写真撮影/本人)

週に1、2日はテレワーク。緑の借景を望める特等席が仕事場

伊豆高原の家と出合い、川崎市の住まいは売却。移住を決めた。ただし、職場を変えるつもりはなかったので、上司にテレワークを申請。現在は週に1、2日は在宅で仕事をしている。「職種はIT系で、もともとテレワークの制度はある会社でした。というか、この制度がなければ移住はしなかったかもしれません。テレワークをするのは主に金曜日か月曜日。なるべく社外の打ち合わせなどは入れず、火曜日から木曜日にクライアントとのアポイントを集中させるようにしました。社内の打ち合わせなどは電話会議で十分です。移住後は、スケジュールを効率よく組むように意識するようになりました」
テレワークをするときは、主にリビングの一角、緑の借景が望める特等席で。心地いい空間で仕事の効率も高まる。「ただし電話のときだけは、寝室か車に閉じこもってしています。以前、海外オフィスと電話していたときに、グラムが乱入して大変だったんです(笑)」

テレワークは特等席で。通勤がない分、8時台から仕事を開始できる(写真撮影/片山貴博)

テレワークは特等席で。通勤がない分、8時台から仕事を開始できる(写真撮影/片山貴博)

往復4時間の通勤は貴重な仕事時間に

週に1日から2日はテレワークだが、それ以外は新幹線通勤になる。最寄駅の伊豆急行線伊豆高原駅まで車で3分程度、熱海駅で乗り換え、新幹線で品川駅へ。所要時間は約2時間だ。「大変でしょう、ってよく聞かれるんですけど、これが全然大変じゃないんですよ(笑)。伊豆高原駅は始発もあるので座って通勤できますし、新幹線と合わせて約2時間はパソコンを広げて仕事をしています。メールをチェックしたり、返信したり、資料を確認したり。帰りもそう。いわば往復4時間がビジネスタイムになっているようなもの。退社時間は早くなりましたが、その分車内で仕事をしているので、案外、業務時間は変わらないかもしれません」

伊豆急行線の車内。窓からの眺望を楽しみながら仕事ができる。「ただ、最近は帰りの新幹線が座れないことがあり、それはけっこう痛手です」(画像提供/本人)

伊豆急行線の車内。窓からの眺望を楽しみながら仕事ができる。「ただ、最近は帰りの新幹線が座れないことがあり、それはけっこう痛手です」(画像提供/本人)

釣り、キャンプ、SUP……趣味を気軽に満喫できる伊豆暮らし

「仕事面で言えば、案外、移住前と移住後でさほど業務自体は変わらないと思います」というOさん。だが、休日の過ごし方は変わった。
まず愛犬との暮らし。「海が近く、山も近く、お散歩する場所には困りません。愛犬は体を動かすのが大好きなので、思う存分走り回れてうれしそうです。それに、伊豆高原界隈って、別名、犬高原と言われているほど、犬フレンドリーな街。テラス席はもちろんのこと、犬と一緒に外食できるレストランが多く、気兼ねせず食事ができます」
趣味も満喫している。例えば夫婦共通の趣味であるスタンドアップパドルボード(SUP)や、釣り、キャンプなどのスポットが多く、気軽に足を運べる。「週末がいわば非日常なので、旅行に行く頻度は減りましたね」
もともと別荘地なので利便性が高く、近所のスーパーまで徒歩10分。海の幸、山の幸に恵まれた土地柄、新鮮な魚介類や野菜が手に入る。「それでいて、お洒落なサンドイッチ屋さんや美味しいイタリアレストラン、カフェもあって、今はお店を開拓するのが楽しみ。ただ、夜遅くまで空いているお店は少なくて、夜は真っ暗です。日の出とともに起き、就寝時間も早くなりました。人間本来の暮らしに戻った気がします」

近場の漁港で釣り。「犬の散歩がてら立ち寄る程度なので、いつもこれくらいの軽装なんです」(写真撮影/片山貴博)

近場の漁港で釣り。「犬の散歩がてら立ち寄る程度なので、いつもこれくらいの軽装なんです」(写真撮影/片山貴博)

愛犬グラム君お気に入りの散歩スポット、小室山。芝生広場があり、ボール遊びを楽しむ(画像提供/本人)

愛犬グラム君お気に入りの散歩スポット、小室山。芝生広場があり、ボール遊びを楽しむ(画像提供/本人)

支出はダウン。テレワークで仕事の効率はアップ

暮らしのコストも下がった。以前の川崎市のマンションに比べれば、伊豆高原の住まいのほうが価格も安く、ローンの支払い額も大幅に減額に。駐車場代もない。新幹線通勤を含めた定期代は、会社支給の上限があるため、一部は自腹だが、休日の遠出に伴う費用がゼロになった。ローンの支払いを含めてトータルの支出は4分の1程度に減った計算になる。当然、家の改装費などのコストもかかるが、以前支払っていた管理費・修繕積立金はなくなった。
「不満点は今のところありません。移住して、テレワークを始めて実感したことは、会社に行かなくても仕事は成り立つということ。満員電車でゆられている通勤時間は、僕にとっては無駄でした。新幹線通勤で移動時間を有効に使えるのもアリですが、テレワークで移動そのものがなくなれば、身体が楽になり、仕事の質は上がると思います」
今後は、敷地内に家庭菜園やドッグランをつくろうと画策中のOさん。友人たちが遊びに来る計画もあり、「やりたいことが次々出てくる」そう。「最初はそれこそ、定年後に田舎暮らしと漠然と考えていましたが、体力もある40代の今のうちに決断して良かったと思います。友人からは”いいなぁ、田舎暮らし”とうらやましがられています。私たちは子どもがいないので移住の自由度が高いというのもありますが、きっかけさえあれば意外と簡単なのではないのでしょうか。今後はテレワークの頻度がもっと上げられたらと思っています」

近所を散歩。妻は移住を機に仕事を辞めたため、こちらに友人はいないが、犬の散歩を通して犬友達ができつつあるとか(写真撮影/片山貴博)

近所を散歩。妻は移住を機に仕事を辞めたため、こちらに友人はいないが、犬の散歩を通して犬友達ができつつあるとか(写真撮影/片山貴博)

運動量が多い犬種のため、雪の日も台風の日も散歩がマスト。丘や海辺も散歩でき、グラム君もすっかりこの環境が気に入ったそう(写真撮影/片山貴博)

運動量が多い犬種のため、雪の日も台風の日も散歩がマスト。丘や海辺も散歩でき、グラム君もすっかりこの環境が気に入ったそう(写真撮影/片山貴博)

新幹線通勤とテレワークの二本柱で、仕事を変えずに住環境を大きく変えたOさん。ハードルが高いと思われがちな田舎暮らしも、これなら40代でスタートできるかもしれない。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169613_main.jpg

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テレワークが変えた暮らし[5] 近所のシェアオフィス活用で、子育てと仕事をフレキシブルに

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テレワークが変えた暮らし[3] 近所のシェアオフィス活用で、子育てと仕事をフレキシブルに

テレワーク(リモートワーク)を導入する企業が増加するのに比例して、シェアオフィスの開業も相次いでいる。シェアオフィスは駅中や駅近にあるイメージが強いが、テレワークをする日は駅を利用しない場合もあるだろう。自宅の近くで仕事をしたいという需要も予想されるなか、住宅地にシェアオフィスを併設した複合施設「Tote駒沢公園」が11月にオープンした。近所に住み、利用している男性に話を伺った。
駒沢オリンピック公園横に新しいシェアオフィスができたワケ

東急田園都市線「駒沢大学駅」から10分ほど歩くと、駒沢オリンピック公園の正門にたどりつく。この真横に2019年11月22日にオープンしたのがUDS株式会社が企画、建築設計・監理、建物管理を手がける「Tote(トート) 駒沢公園」。1階が洋菓子店、2階に2020年4月開設予定の保育園があり、3階にはシェアオフィス&スタジオ「Tote work & studio」がある。上層階は賃貸住居になっている。

Tote 駒沢公園(写真撮影/高木真)

Tote 駒沢公園(写真撮影/高木真)

Tote 駒沢公園がこうした複合施設となった背景には、「駒沢公園地域をより盛り上げたい」というオーナーの思いがあった。

Tote work & studio には完全個室オフィスのROOM PLAN(1~3名向け)、専用デスクのDESK PLAN(1名向け)、フリーデスクのLOUNGE PLANがあり、いずれも24時間利用可能だ。12部屋の個室と8つのデスクはオープン時からその多くが契約されていたと言い、以前からの注目度の高さが伺える。部屋に入ると、シックかつシンプルな内装で、大きな窓からはたっぷりと明るい日差しが差し込み、パークビューが窓いっぱいに広がる。

取材時はまだオープンの翌週ということもあり、実際の利用はこれからといった感じであった。そんななか、公園の見える窓際の席でPCに向かっていた古場健太郎さんにお話を伺うことができた。

自宅近くのシェアオフィスで一日中集中できる

古場さんは38歳。Tote駒沢公園よりも桜新町駅寄りの自宅に、妻と5歳、1歳の子どもの4人で暮らしている。勤務先の ゼットスケーラー株式会社は、クラウド上でデバイス、ロケーションおよびネットワークに関係なく、アプリケーションにセキュアに接続できるセキュリティサービスを取り扱っている、外資系IT企業だ。会社は大手町にあり、セールスエンジニアとして働く古場さんは、週に1-2度出社するかしないか。顧客訪問の帰りなどにここで仕事をしているという。

明るさが印象的なフリースペース(写真撮影/高木真)

明るさが印象的なフリースペース(写真撮影/高木真)

古場さんは、勤務先のテレワーク事情に関して「まだ日本法人には16名しかいないので、個人の裁量に任されています」と話してくれた。また、外資系企業のため、働き方がわりと自由だとか。これまでも、アメリカのスタートアップ企業などに勤めてきて、以前は家で仕事をしていた。

しかし、「5歳と1歳の子どもとの暮らしは楽しいですが」と前置きをした上で、家で集中することが難しいと思うようになってきたと話す。「自宅の自室でがんばってみたのですが、家にいると子どもが寄ってきて、『ちょっと遊ぼう』ということになります。ですから、メールのやりとりだけくらいだったらよいのですが、資料づくりなど、アイデアを出さなければならない仕事は自宅だと難しいと感じるようになりました」(古場さん)

しばらくWi-Fiの使えるカフェなどを利用していたが「やっぱり、何時間もとなると居づらいですね。途中で追加注文をしなければならないような気がしてきます」と、なかなか居場所づくりが難しかったようだ。セキュリティの面は、自社がテレワークを実現するセキュリティサービスを扱っていることもあってクリアできていた。むしろ率先して外で仕事をしたくて、1日中ずっといられる場所を求めていた。

そんなとき見かけたのが、建設中だったTote駒沢公園だ。パンフレットを見てすぐに契約した。決め手は何だったのだろうか?「場所ですね。家から近かったのがよかったです」と。古場さんの利用するフリープランは月額1万5000円と、都心のシェアオフィスと比べてリーズナブルなのも魅力だった。

自由に使えるキッチン設備や複合機(写真撮影/高木真)

自由に使えるキッチン設備や複合機(写真撮影/高木真)

(写真撮影/高木真)

(写真撮影/高木真)

実際に使ってみてどのように感じたのだろうか。「僕は、人の目が少しはあったほうが仕事がしやすいんです。家の近くで仕事に集中できる場所ができて仕事がはかどるようになりました」(古場さん)。Tote 駒沢公園にはテレビ会議ができる個室のスペースもあるので、周りの声など気にせず会議に参加をすることもできる。

また、子育ての仕方やライフスタイル面でも、さっそく変化を感じているようだ。

テレワークで家族との時間のバランスが保てるように

古場さんは、現在の自宅を購入して6年目になるという。その前は代々木公園の近くに住んでいて、子どもが生まれるタイミングで引越してきた。三軒茶屋から桜新町の方面に進むと自然が多くなるにしたがって空が広がっていくのが気に入り、公園近くの住宅地を選んだ。

現在は妻が1歳の子どもの育休中のため、5歳の子どもを保育園に送って10時くらいからここで仕事を始める。家から10分ほどの場所だからこそできる仕事の仕方だ。

病院勤めの妻は固定時間で働かねばならない仕事のため、育休復帰した後は古場さんが子育てにさらにコミットしなければならないだろうが、この場所ならそれほどライフスタイルを変えなくても済みそうだ。

「妻と働き方に関して話すこともあります。妻の仕事は勤務時間がきっちり決まっているので、台風で電車が動かなくても出勤しなくてはならないのです。それに比べて、自分のほうは働く時間を自分で選択できる。自分がテレワークで働くことで、妻の仕事とのバランスがとれると考えています」(古場さん)

古場健太郎さん(写真撮影/高木真)

古場健太郎さん(写真撮影/高木真)

新卒から外資系で、比較的融通の利くワークスタイルで働いてきた古場さん、「会社は9時に席に座るのも仕事」という概念がなく、「(9時に出社することが)仕事として利益にならないのなら、柔軟に働くほうがいい」という信念があると語ってくれた。

オフィスでは「ちょっとこれが聞きたい」というときにすぐに他の社員に聞けるのがメリットだ。テレワークではそれは難しいように思われるが、Slackやメールで話が弾めば、電話をかけて会話をするようにもしているという。そうすることで、オフィスにいるようなライブ感を補える。「日本だと会社にいることが重視されるのがまだまだ現状ですが、コミュニケーションが必要な場合も、ツールを使えば必ずしもその場にいなくてもいいと思うんです。重視されるのは『結果』ですから」(古場さん)

駒沢大学駅は多くのIT企業がオフィスを置くが渋谷から電車で3駅の場所にあるため、IT関係の人が多く居住しているという。「これは貴重なことで、今後はこのTote 駒沢公園で出会った人たちと交流して、新しいコミュニティをつくったり、プロジェクトができたりすればとも考えています」と古場さんの声は明るい。

テレワークに必須というノート型ホワイトボード。客先で説明をするときに使ったり、自分のアイデアをまとめたりする(写真撮影/高木真)

テレワークに必須というノート型ホワイトボード。客先で説明をするときに使ったり、自分のアイデアをまとめたりする(写真撮影/高木真)

「テレワークについて、社外の友人と議論をしたことはありません。働き方の違いについては話題を避けているところがあります。それぞれの選択肢が違うので、ポジティブな会話にならないような気がして」と古場さんは話す。「みんな仕事をすることには変わりはありませんから、その時間を誰もが有効に使えるようになることが大切だと思うんです」という古場さん。今後もこのシェアオフィスに腰を据え子育てと仕事に邁進していくのだろう。

今、ワークライフバランスが重要視されてきている。「仕事とプライベートの両立を考えると、今後このような住宅街の中にあるシェアオフィスが増えていくと思います」と古場さんも感じている。仕事と家庭の両立は容易とはいえないが、自宅近くのシェアオフィスや、今回取材した「Tote 駒沢公園」のようなシェアオフィスが併設された賃貸住宅を利用すれば、プライベートと仕事の距離を縮めることができる。育児や介護のために通勤等が難しく、選択肢から外れていた仕事にも挑戦できるかもしれない。

取材後、筆者の家からもTote駒沢公園が自転車で20分くらいで通える距離にあると気づいた。案外、自分の仕事にあった場所、あるいはテレワークにぴったりな仕事場が見つかる可能性がある。ぜひ一度、地図を広げてご自身の行動範囲を再確認してみてはいかがだろうか。新しい働き方と暮らし方が、近くにあるかもしれない。

●取材協力
Tote work & studio
ゼットスケーラー株式会社元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169653_main.jpg

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山手線29駅、家賃相場が安い駅ランキング! 2020年版

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山手線29駅の駅、家賃相場が安い駅ランキング! 2020年版

新しい年を迎え、今年の目標に新しい家探しや引越しを掲げる人もいるだろう。2020年は東京でオリンピックが開催予定であり、「東京に住む」ということを意識するタイミング。そこで東京の交通主要路線の一つといえる、山手線の全29駅の家賃相場を調査。ワンルーム・1K・1DKの物件を対象に、家を探すならどの駅が狙いどころかを考えてみた。
山手線29駅の家賃相場が安い駅ランキング!2020年版

順位/駅名/家賃相場/(駅所在地)
1位 田端 8.30万円(北区)
2位 西日暮里 8.40万円(荒川区)
3位 大塚 8.60万円(豊島区)
3位 巣鴨 8.60万円(豊島区)
3位 目白 8.60万円(豊島区)
6位 日暮里 8.70万円(荒川区)
7位 駒込 8.80万円(豊島区)
7位 高田馬場 8.80万円(新宿区)
9位 池袋 8.90万円(豊島区)
10位 鶯谷 9.40万円(台東区)
11位 新大久保 9.50万円(新宿区)
12位 大崎 9.90万円(品川区)
13位 五反田 10.68万円(品川区)
14位 上野 10.80万円(台東区)
15位 御徒町 11.00万円(台東区)
15位 神田 11.00万円(千代田区)
17位 秋葉原 11.05万円(千代田区)
18位 品川 11.20万円(港区)
18位 目黒 11.20万円(品川区)
20位 代々木 11.50万円(渋谷区)
20位 東京 11.50万円(千代田区)
22位 新宿 11.60万円(新宿区)
23位 田町 11.75万円(港区)
24位 有楽町 11.80万円(千代田区)
25位 浜松町 11.95万円(港区)
26位 渋谷 12.00万円(渋谷区)
27位 恵比寿 12.10万円(渋谷区)
28位 原宿 12.85万円(渋谷区)
29位 新橋 13.00万円(港区)

1位は田端駅。山手線では唯一、北区にある駅で、都心というよりも下町情緒や住宅地の印象が強い。多忙で帰宅の遅いビジネスパーソンには深夜の買い物の便などが気になるところだが、駅直結の商業施設「アトレヴィ田端」などがあり、そこはさすがに心配無用といっていいだろう。

田端駅は山手線と同じくJRの京浜東北線も利用でき、快速運転の停車駅。横浜や埼玉方面へのアクセスは抜群だ。また、2位の西日暮里駅とは同じく京浜東北線が利用できる隣駅で、駅間距離は約700mと徒歩圏内。どちらが最寄駅になったとしても、駅までの距離を気にする必要はあまりないため、好みの間取りにこだわれそうだ。とはいえ、西日暮里駅は京浜東北線の各駅のみの停車駅であり、千代田線の急行の停車駅でもある。どの路線を利用するのかを念頭において物件を検討したい。

対象となる物件数がいちばん多かったのは9位の池袋駅で、ランキング中唯一3000件を超えている。山手線沿線を選ぶ一番のメリットは、都心に住めることと繁華街への移動の手軽さだろう。池袋駅には東京有数の繁華街があり、同じく繁華街である渋谷駅や新宿駅が11万円以上であることを考えれば、ねらい目といってよさそう。とにかく“都会”に住むことが目的ならば、ぜひともチェックすべきだろう。

渋谷駅や新宿駅に比べると少し地味でごちゃごちゃしたイメージもあったが、再開発が進み、19年11月には、同年のNHK大河ドラマを手掛けた宮藤官九郎脚本のテレビドラマ「池袋ウエストゲートパーク」などで知られる池袋駅西口公園がリニューアル。屋外舞台などが設置され、公園隣の東京芸術劇場とあわせ、アートの発信地に生まれ変わっている。駅東口も、豊島公会堂跡地に「東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)」が同月にオープンとなり、宝塚歌劇団の公演が行われるなど、池袋駅は大きく様変わりしている。

物件数の多さで次点だったのは3位の大塚駅だ。駅前は路面電車の都電荒川線が走り、少しノスタルジックな雰囲気があるが、周辺には大規模マンションの建設が目立つ。そのマンションの間に、隠れ家的な風情の飲食店も散在。派手なにぎやかさよりも、地元でくつろぎながら都会的な楽しみも両立という、オトナな過ごし方をできる場所といえるかもしれない。

都電荒川線(写真/PIXTA)

都電荒川線(写真/PIXTA)

とにかく家賃が高いという印象の新宿区だが、そのなかでお手ごろなのは7位の高田馬場駅だ。早稲田大学(戸山キャンパスなど)の最寄駅の一つであり、学生街のイメージが強いが、単身者にとってうれしい大ボリュームのラーメン店やとんかつ屋、多彩なエスニック料理店など、あちこちにみかける、食の街でもある。

早稲田大学/戸山キャンパス(写真/PIXTA)

早稲田大学/戸山キャンパス(写真/PIXTA)

独自のセレクトに定評がある名画座映画館「早稲田松竹」など、趣味や知識を広げたい学生にとって興味が尽きないであろうスポットも数多い。もちろん学生以外にとっても、その魅力は変わらない。

人気のある路線は、それだけ大きな吸引力があり、理由がある。自分が住むつもりで改めて探してみれば、これまで知らなかった、そして求めていた以上の楽しみや生活が、きっと見つかるはずだ。

●調査概要
【調査対象駅】SUUMOに掲載されている山手線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分以内、10平米以上~40平米未満、ワンルーム・1K・1DKの物件(定期借家を除く)
【データ抽出期間】2019/5~2019/7
【家賃の算出⽅法】上記期間でSUUMOに掲載された賃貸物件(アパート/マンション)の管理費を含む⽉額賃料から中央値を算出(3万円~18万円で設定)元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169528_main.jpg

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【シングル編】山手線で中古マンションの価格相場が安い駅ランキング 2020年版

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【シングル編】山手線で中古マンションの価格相場が安い駅ランキング2020

東京都内を走るさまざまな路線のなかでも、要と言えるJR山手線。およそ50年ぶりとなる新駅「高輪ゲートウェイ駅」開業を2020年春に控え、注目度が高まっている。都内の主要駅を多く抱えるだけに沿線には人気の街が多く、物件の価格相場も安くはなさそう……。実際のところはいかほどなのか、沿線の中古マンション価格相場を調査した。専有面積20平米以上50平米未満のシングル向け物件の価格相場が安い駅をランキングしたので、さっそく見ていこう。●山手線で中古マンション価格相場が安い駅ランキング【シングル編】
1位 鶯谷 3130万円 台東区
2位 日暮里 3265万円 荒川区
3位 上野 3280万円 台東区
4位 御徒町 3330万円 台東区
5位 高田馬場 3380万円 新宿区
6位 池袋 3485万円 豊島区
7位 巣鴨 3499万円 豊島区
8位 大塚 3680万円 豊島区
8位 新大久保 3680万円 新宿区
10位 代々木 3830万円 渋谷区
11位 西日暮里 3839.5万円 荒川区
12位 恵比寿 4230万円 渋谷区
13位 五反田 4280万円 品川区
14位 品川 4284万円 港区
15位 田町 4380万円 港区
16位 新宿 4480万円 新宿区
16位 目黒 4480万円 品川区
16位 秋葉原 4480万円 千代田区
19位 渋谷 4590万円 渋谷区
20位 神田 4675万円 千代田区
21位 浜松町 5189.5万円 港区
22位 大崎 5830万円 品川区

安い駅トップ4にランクインしたのは、台東区~荒川区にある連続する4駅

東京都内を走る環状線・JR山手線の駅は全29駅。そのうち調査条件(SUUMO掲載物件数が11件以上)にあう22駅を、価格相場が安い順にランキングした結果が上記の通り。

最も価格相場が安かったのは、台東区に位置する鶯谷(うぐいすだに)駅。ここ10年以上連続で、JR山手線で乗車人数が一番少ない少々マイナーな駅だ。とはいえ、駅の西側には徳川将軍家の菩提寺でもある「東叡山 寛永寺」や、「東京国立博物館」、「上野恩賜公園」などの文化的施設も多く、駅東側は寺院も多い静かな住宅地。コンビニやスーパーもあるので日常の買い物にも困らないだろう。

2位と3位には1位・鶯谷駅の両隣の駅がランクイン。2位・日暮里駅はJR線のほかに京成本線と日暮里・舎人ライナーが通っており、京成スカイライナーに乗れば最速36分で成田空港(空港第2ビル駅)に行くことができる。駅前には商店街「谷中ぎんざ」が続き、休日にぶらぶらと食べ歩きをしながら買い物をするのも楽しそう。そして商店街を抜けつつ日暮里駅から10分ほど歩くと、東京メトロ千代田線・千駄木駅にたどり着く。

谷中ぎんざ(写真/PIXTA)

谷中ぎんざ(写真/PIXTA)

3位・上野駅は東京メトロ銀座線と日比谷線に加えて新幹線も利用でき、各地への出張が多い人にも便利。駅直結の「エキュート上野」をはじめ周辺には商業施設も多数そろう。日用品から家電、ファッション用品まで、仕事帰りに駅近辺で買い物を済ませられるのはうれしいところ。また上野駅は現在、公園口改札の移設整備を進めている。2020年7月予定の工事完了後は、上野公園へのアクセスがグッと楽になりそうだ。

そして4位・御徒町(おかちまち)駅は、上野駅の隣駅。つまり日暮里駅~鶯谷駅~上野駅~御徒町駅と並んだ駅が、トップ4を独占したわけだ。御徒町駅は上野駅から歩いて10分ほどしか離れておらず、街並みも大きくは変わらない。すぐ近くには東京メトロ銀座線・上野広小路駅、東京メトロ日比谷線・仲御徒町駅、都営大江戸線・上野御徒町駅があるので、都内各地へアクセスしやすい点が魅力だ。

価格を抑えて物件探しをするなら「北半分」がキーワード?

今回のランキング最下位、つまり最も価格相場が高かったのは品川区にある大崎駅。価格相場は5830万円で、最も安かった1位・鶯谷駅よりも2700万円も高い結果になった。そんな大崎駅には東京臨海高速鉄道りんかい線も通り、お台場エリアにある東京テレポート駅に1本で行くことができる。、加えて湘南新宿ラインや埼京線も使用でき利便性が高い。駅周辺はかつて工場地帯だったが、1980年代から始まった再開発により現在は様相がガラリと変化。大手企業がオフィスを置くビルやホテル、住居棟、商業施設が建ち並ぶ複合施設「大崎ニューシティ」や「ゲートシティ大崎」など、大型施設が駅を取り囲んでいる。

大崎ニューシティ(写真/PIXTA)

大崎ニューシティ(写真/PIXTA)

さて、環状になったJR山手線を時計に見立てたとき、3時の位置にある東京駅と、9時の位置にある新宿駅を結んで環を貫くようにJR中央線が走っている。そして今回のランキングのトップ10のうち10位を除く9駅は、JR中央線で分断された北半分に位置していた。つまり、JR山手線沿線で安い物件を探す一つの目安が、「北半分にあるかどうか」と言えるだろう。

次回は専有面積50平米以上80平米未満のカップル&ファミリー向け物件の価格相場をランキング。「JR山手線の北半分のほうが安く住める」という法則は、物件の広さが変わっても通用するのか……?次回をお楽しみに。

●調査概要
【調査対象駅】山手線の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数35年未満、物件価格相場900万~5700万円、専有面積20m2以上50m2未満、敷地権利は所有権のみ
【データ抽出期間】2019/5~2019/7
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169492_main.jpg

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賃貸住宅の建物や入居者の管理は誰がする?入居者、家主、管理業者とのトラブルは?

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賃貸住宅の建物や入居者の管理は誰がする?入居者、家主、管理業者とのトラブルは?

賃貸住宅に住んでいる場合、家賃の支払い状況を確認したり、設備機器の故障に対応したりと、入居者や建物を管理する存在が必要だ。ところが、「誰が管理しているか分からない」という入居者が、約1割もいるという。調査結果から、賃貸住宅の管理の実態について詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」を公表/国土交通省ご存じですか?住んでいる賃貸住宅を誰が管理している?

国土交通省の「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」は、賃貸住宅管理業者と家主・入居者とのトラブルなどの実態を調べるために調査したもの。賃貸住宅管理業者、家主、入居者の三者に調査している。

調査結果で驚いたのは、入居者の中には、賃貸住宅を誰が管理しているか知らない人がいるということだ。入居者に「あなたがお住まいの賃貸住宅を管理している管理者(管理業者)をご存知ですか」と聞いたところ、結果は【画像1】のようになった。

「専門業者が賃貸住宅の管理をしており、業者名も知っている」、「家主が自ら賃貸住宅の管理をしている」と、管理者を分かっている入居者は4分の3に達する。かたや、「専門業者が賃貸住宅の管理をしているが、業者名は分からない」が13.5%だったが、業者名が分からないのは、契約書などで調べれば分かるのでまだよいほうだ。「誰が賃貸住宅の管理をしているか分からない」人が9.4%と約1割もおり、「そもそも賃貸住宅の管理の意味が分からない」人も2.3%いた。

居住中の賃貸住宅の管理者の把握状況(対象:入居者)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

居住中の賃貸住宅の管理者の把握状況(対象:入居者)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

ちなみに、調査では「賃貸住宅の管理とは、家主から委託を受けて家賃や敷金の受領を行うほか、契約の更新、契約終了時の資金の精算や、入居中の設備の修繕や共用部分の清掃、入居者からの相談などにも対応するもの」という説明が添えられている。

賃貸住宅の管理は、家主がする場合も、委託した管理業者がする場合もある

入居者への調査結果【画像1】でも分かるように、賃貸住宅の管理は、家主が自らする場合もあれば、管理業者に委託している場合もある。家主への調査結果から、その状況を見てみよう。

「所有している賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理はどのように行っていますか」と家主に聞いた結果が、【画像2】の通りだ。

所有する賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理方法(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

所有する賃貸住宅の入居者募集や契約、入居中の管理方法(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

家主が「全て自ら管理している」(18.5%)のは 2 割近く。「入居者募集から契約までを業者に委託し、それ以外の管理は自ら行っている」が25.5%と、入居中の管理を家主が自ら行っている場合も多い。一方、過半数は、管理の一部または全てを業者に委託していることが分かる。

一般的には「入居者募集から契約まで」は仲介を行う業者が、「入居以降や更新時の契約、退去まで」は管理を行う業者が担当するが、どちらも行っている業者が多いので、家主が「入居者募集と賃貸住宅管理を同一の業者に委託している」割合は92.1%とかなり高くなっている。

では、どういった管理業務を業者に委託しているのだろうか。賃貸住宅(サブリース以外)の管理の実施者を聞いたのが、【画像3】だ。「入居時の契約支援」や「賃貸借契約の更新」、「敷金精算・原状回復」など、契約や退去に関する業務を委託している場合が多いようだ。「家賃督促」、「入居者からの苦情対応」、「建物・設備の維持管理・点検・修繕等」も委託している割合が高い。一方、「修繕積立金の管理」や「賃料等の集金」、「入居者からの苦情対応」、「空室管理」は家主が自ら行う割合が比較的高かった。

管理業務の実施内容と実施者(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

管理業務の実施内容と実施者(対象:家主)(出典/国土交通省「賃貸住宅管理業務に関するアンケート」より転載)

入居者、家主、管理業者が感じる不満・トラブルは?

では、不満やトラブルについて見ていこう。

まず、入居者に居住中の管理に関する不満の有無(単一回答)を聞くと、「不満を持ったことがある」は44.5%。不満を持った内容については、以下が特に多いTOP3だった。
「建物の清掃等手入れが不十分」(37.7%)
「そもそも家主や管理業者が何をどこまで対応してくれるのか不明確」(33.3%)
「トラブル発生時の対応が遅い」(30.4%)

次に、入居中や契約更新時、退去時等のトラブルの有無(単一回答)を聞くと、「トラブルを経験したことがある」が 30.3%。経験したトラブルの内容については、以下が特に多いTOP2だった。
「水もれや設備の故障等修繕の必要性が発生した際、対応に著しく時間がかかった」(29.8%)
「入居者同士でのトラブルが発生した」(23.4%)

今度は、家主に入居者とのトラブルの有無(複数回答)を聞くと、半数近くは「特にトラブルはない」(47.9%)と答えた。経験したトラブルでは、以下が特に多いTOP2だった。
「滞納家賃が発生し、家賃が適切に入金されない」(23.6%)
「入居者からの修繕などの要望対応に手間やお金がかかる」(18.9%)

さらに、賃貸住宅の管理業者に「受託管理している賃貸住宅で発生しているトラブルで対応が困難なもの」(複数回答)を聞くと、最も多いのが「借主間・近隣住民との間の苦情対応」(52.3%)だった。入居者相互、あるいは近隣住民との苦情については対応が難しいと考えている事業者が多いようだ。

次いで、「退去時の原状回復の箇所や費用負担に係る家主・借主との協議」(41.9%)、「借主に対する家賃の督促」(32.5%)、「修繕の箇所や費用負担に係る家主・借主との協議」(31.0%)が続き、入居者と家主との間の意見調整や、家主同様に家賃滞納の督促に困難さを感じていることが分かる。

さて、見てきたように、家賃の督促や故障・修繕の対応、他の入居者への苦情、家主との費用分担など、広範囲に重要な問題が生じた場合、誰に相談すればよいのか、どう対処してくれるのか、は賃貸住宅に住むうえで極めて重要なことだ。

賃貸住宅を決める際には、管理者が誰で、どれだけ管理実績があるかなども確認しておくことが必要だ。間違っても、入居している賃貸住宅を誰が管理しているか分からない、といったことのないようにしてほしい。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/pixta_47708053_M.jpg

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子育てのIT活用はどこまで進んだ? 保育園専用や育児用アプリの現状と課題

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子育てのIT活用はどこまで進んだ? 保育園専用や育児用アプリの現状と課題

スマートフォンの普及に伴い、便利さや効率の良さを求めて、パパ・ママたちの「子育てのIT活用」が進みつつあります。保育園では私立を中心に「保育園アプリ」を導入するところも増えてきました。

そこで今回はITジャーナリストの高橋暁子さんにお話を伺い、保育園専用や育児用のアプリを紹介しながら、そのメリットを探っていきたいと思います。
パパ・ママと保育園が時短で情報共有。注目の保育園専用アプリ

保育園アプリの主なサービスとしては、連絡帳としての機能や写真の共有などがあります。

「保育園アプリを使えば、保護者は仕事の隙間時間で子どもの様子が確認できる。園側も、朝の個別の電話対応や育児日誌に手書きで書き込む手間がなくなるので、仕事に忙殺されなくて済む。メリットは双方にとって本当に多いですね」(高橋さん)

高橋さんのママ友の体験談では、「仕事中に、保育園アプリで園から、『本日、〇〇ちゃんはちょっと咳こんでいました』と連絡があったのを確認。社内ですぐ小児科に予約をして、その日のうちに病院に受診できた」とのこと。

お迎えのときに知らされた場合は、間に合わなかったかもしれません。保育園アプリが活躍する、いい例ではないでしょうか。

ITジャーナリストの高橋暁子さん(写真撮影/斉藤カオリ)

ITジャーナリストの高橋暁子さん(写真撮影/斉藤カオリ)

高橋さんがおすすめする保育園専用アプリは「コドモン」と「キッズリー」です。

株式会社コドモンが提供するアプリ「コドモン」は、ICカードとタブレット端末を使い、入退室の時間を正確に記録して、保護者に通知。ファミリーサポートなど、パパ・ママ以外の人に子どもの送迎をお願いしたときには特に安心感があります。

2019年4月に利用施設3000園を突破した、子育て施設業務支援システム「コドモン」。つまり、日本全国の保育所など34763施設(※厚生労働省発表)の約10%で導入が実現していることになる

2019年4月に利用施設3000園を突破した、子育て施設業務支援システム「コドモン」。つまり、日本全国の保育所など34763施設(※厚生労働省発表)の約10%で導入が実現していることになる

また、緊急の連絡にも対応し、「言った、言わない」などの伝達ミスも避けられます。さらに、毎回のお便りや写真の配布などがペーパーレスになり、保護者はアプリ上で各自確認することができます。

園内での様子を先生が撮影して共有された写真は各自で好きなものを注文してもらい、郵送されます。パパ・ママは子どもの様子を写真で確認でき、欲しいものを選べてとても便利です。

保育園側にとっても、保育士さんたちの仕事の効率を格段にアップさせるのに役立っているようです。例えば、指導案・要録作成や保育料の計算、子どもの給食管理など、多数の機能がついていて充実しています。

2016年度グッドデザイン賞を受賞した、ユニファ株式会社の保育園専用アプリ「キッズリー」はかわいい見た目で使いやすい設計。保育園からの連絡が保護者のほか、登録すれば祖父母にも届くしくみです。

「キッズリー」は園児の登園から遅刻、欠席状況をママも保育園も共有。朝の慌ただしい時間でもスマートに報告、連絡できる。その日あったことはアプリの連絡帳でお迎えまでに届けられるから、パパ・ママと保育者の会話も弾む

「キッズリー」は園児の登園から遅刻、欠席状況をママも保育園も共有。朝の慌ただしい時間でもスマートに報告、連絡できる。その日あったことはアプリの連絡帳でお迎えまでに届けられるから、パパ・ママと保育者の会話も弾む

登園・欠席・遅刻などの連絡から、緊急連絡の場合などはアラートで知らせる機能もついています。
「園からのお知らせ」ではスピーディーに連絡が届き、「カレンダー」機能では、運動会やクリスマス会などのイベント情報が入るため、前もってイベントの日を知ることができます。「保育園とママのコミュニケーション」に特化した、連絡帳を中心とした機能が充実。必要な機能が分かりやすく、保護者が使いやすいのが特徴です。

保育園専用アプリだけじゃない。話題の子育て×IT活用

保育園専用アプリ以外でも「快適な子育てを支援するIT活用」として、ぜひ注目したいアプリとして高橋さんが2つ教えてくれました。

まずは、株式会社ファーストアセントが提供する「パパっと育児@赤ちゃん手帳」というアプリです。これは、0歳~6歳くらいまでの子どもの成長記録がグラフによって見える化でき、無料でバックアップ機能が付いていたり、記録が電子書籍にできたりと、便利で優秀なアプリです。

「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の「泣き声診断」機能。これを使えば、初めて育児をするパパやママも、泣いている赤ちゃんの気持ちが分かって一安心

「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の「泣き声診断」機能。これを使えば、初めて育児をするパパやママも、泣いている赤ちゃんの気持ちが分かって一安心

注目すべきは「泣き声診断」という機能。赤ちゃんの泣き声を聞くだけで、どんな気持ちなのかが分かる機能です。約2万人のモニターから集めた泣き声データを元に、赤ちゃんの泣き声から「お腹がすいたよ」などの感情が分かるというもの。モニター評価では正答率は80%との結果が出ています。初めてママになる人なら、赤ちゃんの気持ちが分かると育児もしやすくなるでしょう。

2つ目は、株式会社AsMamaの「子育てシェア」です。これは、知人間共助のアプリで、知っている人だからこそ、親も子どもも安心できる「送迎や託児のシェア」が依頼できるというもの。基本無料で登録でき、万が一のときは保険加入もできます。

さらに、相互の人間関係を深めるために、おさがりの洋服の受け渡し、教科書やおもちゃなどの貸し借りなどのシェアもこのアプリ内で可能です。

また、ごはんやお出かけなどに誘い合う「予定のシェア」もでき、家族ぐるみの楽しい時間の共有もできます。このアプリを使えば、近隣に頼れるママ友がいなくても、サポートし合える関係を無理なくつくることができます。

「託児送迎をシェアできる関係がアプリでできれば、こんなに心強いことはありません。政府が推進する『シェアリング・エコノミー』(個人が保有する遊休資産〔無形のものも含む〕の貸出しを仲介するサービス。総務省より)の活用とも言えます」(高橋さん)

近くに頼れるママ友がいないという人も多いと思います。しかし、今では人間関係の構築もITによって可能なのです。子育てママにとっては、かなり利用価値の高いアプリではないでしょうか。

高橋さんによると「2011年の3月11日に起こった、東日本大震災のとき、安否の確認は電話では繋がりにくくなり、到底無理な状況でした。でも、ITの情報技術なら連絡が取れ、子どもの安否も確認できたんです」とのこと。

また、成人の95%がスマホを持っていると言われ、保育園アプリも普及してきている現在も、課題はあります。

「『保護者のスマホの保持率が100%ではないこと』によって、実は妨げになっている部分もあります。スマホを持っていないパパ・ママには、出欠や連絡などの個別の対応をしなくてはなりません。それも手間にはなりますし、対応として、スマホを持つか持たないかの部分で差別になるのもいけないので、完全普及までは難しいのが現状です。
保護者でも、“スマホを使いこなせない”人もいれば“スマホが好きではないので、昔ながらの携帯電話しか持たない”人もいます。その部分はどうしても個人の感覚によるものなので、統一は不可能でしょう」(高橋さん)

便利なだけでなく、いざというときの子どもの状況も確認しやすい「子育てのIT活用」。スマートフォンを持っていない人への対応などの課題を解決しながら、今後は便利&快適に拡大していってほしいと思います。

●取材協力
・ITジャーナリスト 高橋暁子さん元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169685_main.jpg

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「リノベ・オブ・ザ・イヤー2019」に見るリノベーション最新事情。“断熱性能”など4つのキーワード

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「リノベ・オブ・ザ・イヤー2019」に見るリノベーション最新事情。“断熱性能”など4つのキーワード

「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」の授賞式が2019年12月12日に開催され、1年を代表するリノベーション作品が決定しました。7回目となる今回も、住宅から地域再生までさまざまなジャンルの作品が注目され、リノベーションの大きな可能性や魅力、社会的意義を感じさせてくれました。受賞作品から最新傾向を探ってみましょう。
【注目point1】性能向上リノベーションの時代が到来

今回の「リノベーション・オブ・ザ・イヤー 2019」では、エントリー279作品からグランプリ1、部門別最優秀賞4、特別賞13、計18作品が選ばれました。顕著な傾向として一番に挙げられるのは「性能向上リノベ」。住宅性能を高めるリノベーションに大きな注目が集まりました。

グランプリをはじめ、部門別最優秀賞、特別賞(性能向上リノベーション賞)を含めると性能向上リノベは5作品が受賞しています。選考委員によると、一次審査を通過した60ノミネート作品を対象とする最終審査会では、性能向上リノベが全部門で最優秀賞を争ったほどの充実ぶりだったそうです。

2019年は、地球温暖化、プラスチックゴミ問題といった環境保護・エコ意識の高まりが世界的に顕著となった年でした。また、日本では気候変動によるとみられる災害が多発し、住まいの安全について改めて考えさせられる年でもありました。耐震性や断熱性という住宅性能を向上させることは、暮らしの快適性を高め、化石燃料の使用を削減するだけでなく、地震や猛暑等から命を守る重要なことだと認識させられます。

そうした潮流はリノベーション業界でも形となって現れています。選考委員からは、「日本のリノベーションに性能向上の時代が到来した」「性能向上リノベは以前からあったが、質と量が飛躍的に向上した」との評もあり、転換の年となったことを感じました。なかでも、注目されたプロジェクト2つを紹介します。

総合グランプリ
『鹿児島断熱賃貸~エコリノベ実証実験プロジェクト』株式会社大城

長年空き家だった約35平米・2DKの賃貸の集合住宅を、断熱性能が高い広いワンルームに改修(株式会社大城)

長年空き家だった約35平米・2DKの賃貸の集合住宅を、断熱性能が高い広いワンルームに改修(株式会社大城)

もともとは無断熱で夏暑く、冬はタイル張りの浴室とトイレが冷蔵庫の中のように冷え切ってしまうほど寒いという悪条件の賃貸住宅でした。増え続ける空き家問題を解決する糸口となるよう、「賃貸だから性能が劣っても仕方がない」と思われがちだった温熱環境の悪さを改善し、快適な住空間を提供することで長く住み続けてもらいたいという意図のもと計画されたプロジェクトです。

断熱改修によってHEAT20・G2グレード(冬の体感温度が概ね13℃を下回らない)という高い断熱性能を達成。400万円という低予算でも省エネ性能がここまで高められるという見本になっています。

鹿児島大学の協力で改修前後の室温と電気使用量を計測し、そのデータを専門知識がなくても分かるように入居者募集時に表示するなど、不動産市場での物件情報提供のあり方も提示。入居者がすぐ見つかったとのことで、「エコリノベ」が空室対策の有効な手段となっていることも分かります。

住宅エネルギー性能を不動産広告に表示する義務があるEUのように、日本でも今後、光熱費や性能を可視化する制度が期待されますが、それを先取りした先進的な取り組みだという点も評価されました。

地元のガス会社が物件オーナーでありながら、事業と相反する省エネを実現させている点も、年々高まっている省エネ志向の社会世相を反映していると思われます。

無差別級部門・最優秀賞
『古くなった建物に、新築以上の価値を。~戸建性能向上リノベ実証PJ』YKK AP株式会社

全国各地に建ついずれも築35~100年という、5軒の木造2階建てを高性能リノベーション(YKK AP株式会社)

全国各地に立ついずれも築36~100年という、5軒の木造2階建てを高性能リノベーション(YKK AP株式会社)

この作品も、空き家問題、居住性能の低いストック住宅問題を解決すべく立ち上げられた性能向上プロジェクトです。断熱性(HEAT20 G2グレード)、耐震性(震度6に耐え得る耐震等級3相当)を同時に実現。

窓・建材メーカーのYKK APが、全国5カ所で各地の企業とコラボ。完成した家の見学会をリノベーション企業向けに開催してノウハウを共有し、性能向上リノベの活性化に取り組むといった、全国規模の企業だからできる先駆的な試みだと感じます。

【注目point2】「再販リノベ物件」の可能性の広がり

「再販物件」とは、不動産会社やリノベーション会社が中古物件を購入し、リノベーションを施した上で販売する物件のこと。一般的には、売却しやすくするため万人受けするデザインや間取りが求められがちですが、近年、再販物件はどんどん多様化しています。

なかには、万人受けはしないものの、「こんな暮らしがしたい」という人への訴求力のあるもの、また、性能やコストに工夫のあるものなど、「中古住宅を綺麗に改修して快適な家に変えて売る」という再販物件の概念を大きく逸脱する秀作に注目しました。

1000万円未満部門・最優秀賞
『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』株式会社リビタ

浴室をバルコニー側に、ガラス張りの洗面室をリビング兼寝室に面して配置した大胆な間取り(株式会社リビタ)

浴室をバルコニー側に、ガラス張りの洗面室をリビング兼寝室に面して配置した大胆な間取り(株式会社リビタ)

2DK・約47平米のマンションを、リラックス=バスタイムととらえ、部屋全体をお風呂空間に見立てるというコンセプトで設計。コンパクトな住戸では珍しい1616サイズの広めのユニットバスをバルコニー側に移動して、新宿の夜景を望むビューバスを実現しています。洗面室も広めにとり、ガラス引き戸で開放的に。

こうしたバスタイムに特化した物件が売れると判断した背景には、それだけ住み手のニーズが多様化・細分化していること、不動産市場が成熟してきていることが挙げられるのではないでしょうか。

特別賞・和室リノベーション賞
『SHOGUN Castle』有限会社ひまわり

何の変哲もないマンションの一室を、絢爛たる和の空間に(有限会社ひまわり)

何の変哲もないマンションの一室を、絢爛たる和の空間に(有限会社ひまわり)

6畳の和室を囲む3面の壁と天井用に、日本画家に原画の書き下ろしを依頼。原画を特殊スキャンして壁面に転写した、世界にひとつだけの空間に仕上がっています。和の美を極限的に追求し、空間の存在価値を高めていることに、遊び心と個性を感じさせます。再販物件でここまでこだわるのかと感じた作品です。

特別賞・性能向上リノベーション賞
『最小限の予算で★耐震適合★2世帯住宅』株式会社まごころ本舗

築40年超とは思えない、スタイリッシュで新しい内装(株式会社まごころ本舗)

築40年超とは思えない、スタイリッシュで新しい内装(株式会社まごころ本舗)

耐震・断熱改修に予算を多く割くため、「仕入れ、設計、施工、販売」を全て自社で行い、設備や内装材は価格比較サイトや楽天を活用して最安値を入手するなど、徹底して費用を抑えた物件です。そのため、2世帯プランへの間取り変更も合わせて1000万円以下という低コストで実現しています。

マンションに比べ、戸建て住宅はどうしても性能改善にコストがかさみます。ワンストップ販売とコスト配分の取捨選択によって改善した点で、再販物件事業の可能性を示した良い見本となっています。

【注目point3】新たな空間を生み出す秀逸アイデア

リノベーションは、「こんな暮らしがしたい」「こんな場所をつくりたい」という熱い思いを具体的な形に変えてくれる、究極のオーダーメード。時には、「こんな空間見たことない」というユニークなプランや、逆転の発想を形にした特徴ある家が目立っていました。

施主のライフスタイルによってリノベーションはどんどん多様化・細分化されているのを感じます。

500万円未満部門・最優秀賞
『我が家の遊び場、地下に根ざす』株式会社ブルースタジオ

ジメジメしてあまり活用されていなかった地下の物置を、ライブラリーとシアタースペースにチェンジ。秘密基地のようなワクワク空間です(株式会社ブルースタジオ)

ジメジメしてあまり活用されていなかった地下の物置を、ライブラリーとシアタースペースにチェンジ。秘密基地のようなワクワク空間です(株式会社ブルースタジオ)

特別賞・R1ペット共生リノベーション賞
『イヌはイエ。ヒトはケージ。』株式会社ニューユニークス

施主の食事中、元気いっぱいな愛犬と家族がストレスなく過ごせるよう、DKをケージですっぽり囲んでしまったという逆転の発想(株式会社ニューユニークス)

施主の食事中、元気いっぱいな愛犬と家族がストレスなく過ごせるよう、DKをケージですっぽり囲んでしまったという逆転の発想(株式会社ニューユニークス)

特別賞・ベストデザイン賞
『浮かぶガラスの茶室がある大阪長屋』9株式会社

築79年という長屋を再生。コンクリートをはね出してつくったガラスの茶室など、新たなしつらえが目を引きます(9株式会社)

築79年という長屋を再生。コンクリートをはね出してつくったガラスの茶室など、新たなしつらえが目を引きます(9株式会社)

【注目point4】古き良き時代を継承する

古来より、住まいは手を入れながらずっと住み継いでいくものでした。いつの間にかスクラップ&ビルドの時代となり、古民家などはどんどん建て替えられることに。しかし、国が200年住宅を推奨する現在、住まいを継承することは再び当たり前の時代となってきました。古いものが持つ味わいや温かみ。それらが再生により蘇った家は心まで温めてくれます。そうした作品も要注目です。

1000万円以上部門・最優秀賞
『5世代に渡り受け継がれる、築100年の古民家』株式会社アトリエいろは一級建築士事務所

家族5世代が暮らす築100年超の古民家。子世帯の同居を機に再生。煤(すす)で真っ黒になった大黒柱や縦横にかかる大梁など、この家の魅力が輝きを取り戻しました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

家族5世代が暮らす築100年超の古民家。子世帯の同居を機に再生。煤(すす)で真っ黒になった大黒柱や縦横にかかる大梁など、この家の魅力が輝きを取り戻しました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)


特別賞・事業継承リノベーション賞
『郊外大家さんは農と緑でバトンタッチ』株式会社ブルースタジオ祖父、父、息子と3世代に渡って賃貸物件の大家業を継承。劣化した建物をリノベし、地域に開かれた庭をつくり、本業の農業をベースにしたグリーンショップを開くことで見事な再生を果たしています(株式会社ブルースタジオ)

祖父、父、息子と3世代に渡って賃貸物件の大家業を継承。劣化した建物をリノベし、地域に開かれた庭をつくり、本業の農業をベースにしたグリーンショップを開くことで見事な再生を果たしています(株式会社ブルースタジオ)

特別賞・エリアリノベーション賞
『継なぐまちの記憶「アメリカヤ横丁」』(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

取り壊される予定だった昭和の趣が色濃い長屋を賃貸住宅と店舗として再生。昭和のころのような活気や人々の繋がりが取り戻されました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

取り壊される予定だった昭和の趣が色濃い長屋を賃貸住宅と店舗として再生。昭和のころのような活気や人々の繋がりが取り戻されました(株式会社アトリエいろは一級建築士事務所)

特別賞・地域風景デザイン賞
『二軒長屋のブロック造の家』株式会社スロウル

北海道で多く建てられた二軒長屋。今では徐々に姿を消しつつありますが、性能を高めて内装を変え、快適な家に変化させたことで、昔ながらの町の風景を留めています(株式会社スロウル)

北海道で多く建てられた二軒長屋。今では徐々に姿を消しつつありますが、性能を高めて内装を変え、快適な家に変化させたことで、昔ながらの町の風景を留めています(株式会社スロウル)

「こんな暮らしがしたい!」に特化したリノベーションが目立つように

かつてリノベーションといえば、空間全体で「優れたデザイン」「おしゃれな住空間」という物件が数多く見られました。しかし近年は、「こんな暮らしがしたい!」という気持ちに重点を置いたリノベーション事例が多くなってきたと感じます。

例えば、上で紹介した『my dot.-東京の中心で風呂に住む-』のように入浴しながら夜景が見える浴室をプランの要にしてしまった家や、『イヌはイエ。ヒトはケージ。』のように愛犬ではなく人間を囲む家、『我が家の遊び場、地下に根ざす』みたいな秘密基地をつくってしまった家と、「したい暮らし」がかなり具体的。

それは、リノベーションが施主のライフスタイルや世の中が求めているものを、より鮮明に具体化できるからなのでしょう。今年一番注目された、「性能向上リノベ」然り、リノベーションの可能性は時代とともにどんどん変化し、広がっていくものなのだと感じました。

赤絨毯に正装が決まっている受賞者のみなさん。2020年も素敵な作品を期待しています(写真提供/リノベーション協議会)

赤絨毯に正装が決まっている受賞者のみなさん。2020年も素敵な作品を期待しています(写真提供/リノベーション協議会)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169717_main.jpg

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中古住宅買取再販市場が急成長!その理由は?メリットや注意点は?

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中古住宅買取再販市場が急成長!その理由は?メリットや注意点は?

矢野経済研究所が、中古住宅買取再販市場の市場規模を予測した。住宅市場の縮小が懸念されるなか、中古住宅買取再販市場については大幅に拡大すると予測している。市場はなぜ大きく成長するのだろう?中古住宅買取再販市場について深掘りしていこう。【今週の住活トピック】
「中古住宅買取再販市場に関する調査(2019年)」を発表(2020年1月7日)/(株)矢野経済研究所中古住宅買取再販市場は、2025年には2018年の約4割増に拡大する

矢野経済研究所が国内の中古住宅買取再販市場を調査したところ、2018年の市場規模は成約件数ベースで3万2500戸(中古戸建と中古マンションの合計戸数)と推計した。これが2025年になると、成約件数ベースで4万5000戸になり、2018年比で38.5%増にまで拡大すると予測している。

中古住宅買取再販市場規模推移と予測(出典:矢野経済研究所「中古住宅買取再販市場に関する調査(2019年)」より転載)

中古住宅買取再販市場規模推移と予測(出典:矢野経済研究所「中古住宅買取再販市場に関する調査(2019年)」より転載)

同社はその理由をいくつか挙げている。
「新築よりも比較的販売価格が割安な中古住宅に対する消費者需要の増加がある」
「従前からの主力事業者である中小不動産会社のほか、大手デベロッパーやその系列不動産会社なども新規参入しており、市場が活性化している」
「リフォーム・リノベーションを必要とする築年数の経過した住宅ストック数(既築住宅数)の増加を背景に中古住宅買取再販物件の供給は必然的に増える」

そもそも中古住宅買取再販って?市場が拡大する理由は?

さて、中古住宅買取再販市場について、もう少し詳しく見ていこう。

「買取再販」とは、中古住宅を事業者が買い取って、リフォームやリノベーションを実施したうえで、事業者が売主となって再度販売するもの。

築年数の経過した「古い住宅」は、今の住宅より性能が低かったり、老朽化が進んで見栄えが悪かったりする。個人が売主の場合は、リフォームして売り出すと費用がいくらかかるか分からないし、時間も手間もかかるので、改修しないで安く売り出すことが多い。

一方、一般の個人と違って事業者であれば、大量発注することでリフォームコストを抑えたり、改修内容をパターン化することで工期を短くしたりできる。こうして新築住宅に近い状態にして売り出せば、性能や見栄えなどの不安も解消されるうえ、新築住宅より割安な価格なので、買い手を見つけやすくなる。

事業者が、個人の中古住宅を安く買って、改修費用を抑え、新築住宅より割安な価格で売ることで、利益を出すというビジネスモデルだ。事業者だけでなく、リフォームなどへのハードルが高い売主にとっても、リフォーム済みで安心して購入できる買主にとっても、メリットのあるビジネスモデルなので、国土交通省なども税制優遇等で支援をしている。

買取再販の中古住宅を買うときに注意することは?

では、こうした買取再販の中古住宅を購入する場合に、どんなメリットや注意点があるだろうか?

冒頭の買取再販の説明の際に、「リフォーム・リノベーションを実施」と書いた。一般的に「リフォーム」は新築当時の性能に改修すること、「リノベーション」は今の生活水準に応じた性能を引き上げる改修をすることといわれている。しかし、これらの違いは明確ではなく、混在して使われることも多い。

つまり、「リノベーション住宅」として販売されているものが、必ずしも性能を引き上げているとは限らず、内装だけを改修して見栄えをよくし、リノベーション済みと説明している場合もある。逆に「リフォーム済み」という説明でも、性能を引き上げた改修がされている場合もある。

特に、構造に関する部分や給排水管などの設備については、表面を見ただけでは分からないので、どこまで改修されているかを確認することが大切だ。具体的に、改修前はどういった状態で、どの部分をどこまでどのように改修したかを確認しておかないと、住み始めてから想定外の不具合が生じるリスクもある。改修箇所の履歴を残し、一定期間の保証を付ける事業者なら安心だろう。

自分で改修内容まで確認することにハードルを感じるという人は、(一社)リノベーション協議会の「適合リノベーション住宅」かどうかを目安にする方法もある。建物検査をしたうえで改修工事を行い、その履歴を保管したり、改修箇所に一定の保証を付けたりしている。また、数は少ないが、国土交通省が定める「安心R住宅」かどうかをチェックする方法もある。

買取再販の中古住宅を買うと資金計画がラク

一方、買取再販の中古住宅は、資金計画の点でもメリットがある。

買主が自らリフォームする場合、中古住宅の購入費用とリフォーム費用をそれぞれ捻出することになり、資金計画が複雑になる。中古住宅+リフォーム一括で借りられる住宅ローンもあるが、中古住宅の契約時点でリフォーム工事の見積もりが確定している必要があるので、スピード感が求められるというハードルがある。また、中古住宅を取得した後リフォーム中でも、購入費用のローンの返済が始まるなど、資金計画の面では検討事項が多くなり、かなり複雑な判断をしていくことになる。

買取再販の中古住宅であれば、リフォームプランを自分で決めることはできないが、まとめて住宅ローンが利用できるので、資金計画が立てやすいメリットがある。

ただ、売主が事業者になるので、消費税が課税される。その反面、住宅ローン控除の拡充やすまい給付金、次世代住宅ポイントなどの対象になるので、それは相殺されると考えてよいだろう。

筆者は中古住宅を購入するなら、築年数がそれほど経っていない場合も含めて、住宅の状態に応じたリフォーム・リノベーションを行うことをオススメしている。古い住宅であれば性能を引き上げることで快適に暮らせるし、まだ新しい住宅でも壁紙を変えるなどで自分らしさを取り込めば愛着を一層感じることができる。

リフォームにこだわりがあるなら、自らプランをつくることを選べばよいし、それほどこだわりがないなら、買取再販住宅を選ぶという選択肢もある。ただし、市場が成長しているとはいえ、中古住宅市場に占める買取再販住宅の割合はまだそれほど多くない。消費者の選択肢が増えるように、さらなる成長を期待したいものだ。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169774_main.jpg

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移住者をドラフト会議で指名!? 南九州の移住支援がおもしろい!

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移住者をドラフト会議で指名!? 南九州の移住支援がおもしろい!

2014年、「地方創生」の掛け声のもと、日本全国で移住相談窓口やHP開設など移住支援施策が活発化した。それから5年が経過し、地域によって成果の明暗は分かれつつある。いまだ多くの人にとって「移住」のハードルは高く、地域の関心は「関係人口」を増やすことに移り始めた。そんな「関係人口」を考える上でヒントとなり得るプロジェクトが「南九州移住ドラフト会議」だ。
「真面目じゃないけど本気の移住支援施策」

宮崎県東臼杵郡美郷町、渡川地区。公共交通機関でたどり着くことは難しく、車で向かう道中には鹿やたぬきが頻出。山々に囲まれた人口約350名の「限界集落」廃校跡地に、この日各地から100名近い人々が集まった。そこで行われていたのが「南九州移住ドラフト会議 クライマックスシリーズ」だ。

「南九州移住ドラフト会議」とは、移住支援プログラムをプロ野球のドラフト会議に見立て、「球団=各地域」が「選手=移住志望者」を指名する、ユニークな取り組みだ。各地域がSNS上でPRを行う「オープン戦」、移住に関するハードルやリスクマネジメントの考えを地域側・移住志望者側双方が学ぶ「移住力強化キャンプ」を経て、各地域が移住志望者を指名する「ドラフト会議」が行われる。他地域と競合した場合は抽選を行い、当選地域が期限付きの「独占交渉権」を獲得するなど、徹底的にプロ野球の仕組みを模している。2015年に鹿児島(カ・リーグ)で始まった同プロジェクトは今年で4回目。2016年より宮崎(ミ・リーグ)、2019年より熊本(ク・リーグ)が加わり、現在は「3リーグ制」になっている。

ドラフト会議中にはオリジナルのスポーツ紙も配布(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議中にはオリジナルのスポーツ紙も配布(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議の様子。2019年は、3県から12地域が「球団」として参加した(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

ドラフト会議の様子。2019年は、3県から12地域が「球団」として参加した(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)


約半年に渡り行われてきた同プロジェクト最後のイベントが、この日行われた「クライマックスシリーズ」だ。各地域は、10月に指名した選手とこの日までどのような交流を行ってきたか、思い思いの方法でプレゼンテーションを行った。

愛知県から参加し、宮崎県西臼杵地域から指名された「選手」のひとり、小仲さんは参加理由を次のように語った。
「地方での暮らしに興味があり、友人から誘われて参加しました。絶対に移住しなければいけないわけではなく、関係人口を増やす取り組みと聞いて。気軽さがいいですね。自分としては希望の地域などは無いので、指名してくれるところがあれば、という気持ちでした」

一方の「球団」側はどうか。地域側担当者のひとりは、移住ドラフト会議の魅力をこう語る。
「移住志望者との出会いの場であると同時に、他地域とつながる場、他地域の取り組みを知ることができる場にもなっていますね。まちづくりの取り組みって『県域』で情報が流通していて、立地的に近くても隣県の成功事例は案外知れなかったりするので」

また別の担当者は、主催者の「真面目じゃないけど本気の移住支援」という言葉に共感した、と語る。
「移住に関して、『真面目な制度』はたくさんあるし、関わっている方々もきちんと仕事をしている。でも、移住者の人生に本気で向き合えているか?というと疑問が残るものも多い。移住ドラフトは、『真面目』ではないですが、移住者の人生を最初に考えている。同時に、地域に必要な人、合う人とは?と自分たちの地域を見つめ直す機会にもなっています」

夫婦で参加した「選手」をそれぞれ別の地域が指名。結果、夫婦のために、指名した地域同士が「連携協定」を結ぶ一幕も(写真撮影/ゆげさおり)

夫婦で参加した「選手」をそれぞれ別の地域が指名。結果、夫婦のために、指名した地域同士が「連携協定」を結ぶ一幕も(写真撮影/ゆげさおり)

参加者が「関わりやすく、離れやすい」仕組みであること

プロジェクトの発起人であり、鹿児島リーグ「コミッショナー(責任者)」の永山さんはこう語る。

「地域側が『あなたが欲しい』と言える場が無かったんですよね。地域側は『誰でもいい』『みんなに来てほしい』と言ってしまいがちなのですが、移住ってある種結婚に近いと思うんです。『誰でもいいから結婚して』と言われて、結婚する人なんていない。『あなたと一緒に何かしたい』と言える場が必要だと思い、ドラフト会議という仕組みを考えました」

「南九州移住ドラフト会議」の発起人・永山由高さん。鹿児島を中心に、まちづくりのプロジェクトに広く携わる(写真撮影/ゆげさおり)

「南九州移住ドラフト会議」の発起人・永山由高さん。鹿児島を中心に、まちづくりのプロジェクトに広く携わる(写真撮影/ゆげさおり)

プロジェクトを通じて、全参加者の約1/4にあたる25組が実際に移住しているという。一方、残りの3/4も、地域とつながりを持ちながら活躍している。

「実際に移住された方ですと、地域のゲストハウスの女将になっていただいたり、地域の中心的な商社のNo.2になっていただいた事例もあります。

関東圏など他の地域に暮らしながら、南九州各地域をサポートしてくれている方もいます。例えばカメラが趣味の方に、お祭りのポスター写真を撮ってもらったり。プロジェクトのキャッチコピー考案や、マーケティングのサポート、商品パッケージのデザイン、新施設のロゴマークをつくっていただいた例もありますね。関東圏でイベントをする際に売り子をしてもらったり、商品開発時のモニターとして協力してもらうなど、もう少しライトな付き合い方もあります」

東京で行われた移住説明会をサポートした「指名選手(写真中央)」(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

東京で行われた移住説明会をサポートした「指名選手(写真中央)」(画像提供/南九州移住ドラフト会議事務局)

永山さんをはじめとする関係者はこのプロジェクトを「壮大なコント」と表現する。

「絶対に移住してほしいわけではなく、移住後『やっぱり違うな』と思ったらまた違うまちに行っていただいてもいいんです。参加者が『関わりやすく、離れやすい』仕組みであることが大切で、あまり大きなものを背負おうとしないこと。
参加者はそのまちの未来を背負っているわけではなく、自分たちの人生を少しでも楽しいものにするために集まっている。その感覚は、関係者間で共有できていると思います」(永山さん)

取り組みも4年目となり、周囲の反応も少しずつ変化してきているという。

「それぞれのやり方で移住施策に真面目に取り組んできた行政や企業の方々に、『ちょっと肩の力を抜くこと』の意味を感じていただけているのかなと思います。

例えばスポンサーとしてサポートしてくれているソラシドエアさんは、航空券等のサポートだけでなく社員さんや社長も積極的に関わってくれています。このプロジェクトに協賛したからといって、何百人何千人が飛行機を利用するわけではないと思うのですが、こういう関わりが大事だと考えてくださっている。

同様に、行政機関の方々にも、『遊び』を持つことの重要性は伝わってきていると感じます」(永山さん)

「地域のキーパーソン」とつながれることが一番の価値

2018年に参加し、2019年9月に宮崎県新富町へ移住、地域おこし協力隊として働きはじめた二川さんにお話を聞いた。

2018年、新富町に「1位指名」された二川智南美さん(画像提供/二川智南美)

2018年、新富町に「1位指名」された二川智南美さん(画像提供/二川智南美)

「地方創生がテーマの映画を見て、自身の“地方熱”が高まっていた時期だったんです。ずっと東京で編集の仕事をしていたのですが、今後は地方の魅力的な方々を発信したいという気持ちになって。そんなときに友人から誘われて、軽い気持ちで参加しました」

地方に関する情報収集を始めたばかりで、参加地域とは全く接点がなかったそう。

「いつか移住したいな、そのときのための判断材料や人脈ができたらいいな、くらいの気持ちでした。すぐ移住するとは思っていなかった」

新富町から“指名”を受けたのち、実際にまちを訪れ、4日間ほど滞在。しかしその1回で、すっかり新富町に惚れ込んでしまったそう。

「現地を案内していただくなかで、自分の思い描いていた“住みたいまち”のイメージにぴったりだなと思ったんです。地元と似ている、というのもあったかもしれません。立地や人口、人との距離感、よくも悪くも不便なところ。旅が好きで日本全国さまざまな場所を訪れましたが、ここまで強く住みたいと思ったことはなかった。特別な何かがあるわけではなくて、まちの雰囲気や暮らしている方々の印象が自分に“合っている”と感じたんです」

宮崎県児湯郡新富町(画像提供/PIXTA)

宮崎県児湯郡新富町(画像提供/PIXTA)

宮崎県のほぼ中心に位置する、自然豊かなまち(画像提供/二川智南美)

宮崎県のほぼ中心に位置する、自然豊かなまち(画像提供/二川智南美)

そう感じていたのは二川さんだけではなかった。指名した新富町の担当者も、彼女を選んだ理由について「このまちに合っていそうだから」と伝えたそうだ(もちろん、彼女の持つスキルが地域にとって必要だったという理由もあるだろう)。

「その後、ドラフト会議に参加していたいくつかの地域をまわりましたが、新富町のことが頭から離れなかった。東京に帰ってしばらく考えましたが、2019年の1月ごろには『行きたい』という意志を新富町の担当者へ伝えました」

そして地域おこし協力隊として2019年9月に移住に至った。現在は、編集のスキルを活かしてまちの広報誌改革を行っている。移住後の満足度は非常に高いようだ。

「人間として生きるためのものがちゃんとある、と感じています。安くて新鮮でおいしい食べ物や、地域のコミュニティ。道ですれ違うときに挨拶するようなまちに住みたい、という思いがずっとあったのですが、それもここで叶いました。

仕事を通じて、少しずつ知り合いも増えてきました。最近はまちの施設でやっているバドミントンに参加したりしています。いきなり溶け込もうと頑張りすぎず、焦らず、少しずつ関係を広げていけたらいいですね」

あらためて、移住ドラフト会議への参加について振り返り、こう語る。

「移住する・しないに関わらず、地域の人とつながれるというのは魅力的だと思います。地域で、外部の人を受け入れるために活動しているキーパーソンは誰なのかを知って、その場でつながれたことはすごく価値があった。その方々と会って話したからこそ、地域を訪れるハードルが下がりますよね。指名されたまち以外も含めて、『あの人に案内してもらおう』と顔が浮かぶ。それって観光で訪れるだけでは分からないことですよね。

南九州に限らず、まちづくりに関わっている方々は全国につながりがあるようなので、『どこかしらのまちとつながりを持ちたい』という気持ちがあるなら、参加して損はないんじゃないかなと思います」

2018年の参加者同士のコミュニティも、いまだ健在だという。
「東京にいたからかもしれませんが、『地方移住に興味がある』という人が周囲にほぼいなかったんですよね。移住ドラフトに参加したことで、同じ感覚を持った方に会えたのもうれしかったです」

新富町にて。まちの広報誌リニューアルに向けて、調整を重ねている(画像提供/二川智南美)

新富町にて。まちの広報誌リニューアルに向けて、調整を重ねている(画像提供/二川智南美)

「楽しんでいる」地域こそが、人を惹きつける

「これまでの移住施策は、地域側に悲壮感があった。『我々が困ってるから、どうか来てください』と」

地域側担当者のひとりが語ったそんな言葉にはっとさせられた。南九州移住ドラフト会議で最も印象的だったのは、地域側も移住志望者側も、一貫して「楽しそう」だったことだ。そこには、「この人たちと関わっていきたい」と思える、前向きなエネルギーがあった。

結果としてそれは、外からの移住者だけでなく、地域に暮らす住民側にも効果があるのかもしれない。参加者のひとりである鹿児島の大学生はこう語った。
「今までは、大学を出たら東京や海外で働きたいという気持ちが強かった。でも、移住ドラフトに参加して、面白い大人に出会って、九州で働くのも悪くない、という気持ちになりました」

本プロジェクトは来年以降も継続していく意向だという。次回対象地域についても検討中とのことだ。年々注目度が増し、進化し続けている取り組みだが、永山さんは「課題は山積み」と語る。

「事務局体制の強化、選手コミュニティ盛り上げ、参加地域同士のつながり強化など、まだまだやりたいこと、できていないことはたくさんあります。

地域において、人が採用できず営業停止している民間企業などもたくさんあるのですが、これからはその会社の魅力だけでなく、地域の魅力がきっと大事になってくる。鹿児島って、南九州って、九州って面白いねと言ってもらえるように、より楽しい、わくわくする環境をつくる必要があると思っています」

2020年、さらに進化するであろう本プロジェクトの行方に期待したい。

●取材協力
・南九州移住ドラフト会議元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169771_main.jpg

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”アート後進国”日本を変える? 絵画サブスクのある暮らしとは

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”アート後進国”日本を変える? 絵画サブスクのある暮らしとは

ZOZO創業者の前澤友作氏によるバスキアの絵画購入や、「美意識」をテーマにしたビジネス書がベストセラーになるなどの影響で、最近アートに関心をもつ人が増えている。その一方で、日本は諸外国と比べて生活の中にアートが浸透しておらず、”アート後進国”といわれている。

そんななか、利用者数を伸ばしているのが、絵画のサブスクリプションサービス「Casie(カシエ)」だ。毎月定額で商品をレンタルできるサブスクリプションサービスは購入に比べるとハードルはかなり低く、これまでアートに触れてこなかった人でも気軽に原画を生活に取り入れられる上、芸術家の支援にもつながるという。

株式会社Casie代表取締役社長CEOの藤本翔さんに話を聞いた。

SNS時代に「人と違う部屋をつくりたい」

『Casie』はアートビギナーを対象とした絵画のサブスクリプションサービス。画家たちによる一点物の原画を毎月定額でレンタルでき、2019年1月のWEBサービスオープン以来、一般家庭を中心にユーザー数を伸ばしている。

取り扱う絵画は6,500点以上。絵画のサイズによってライト、レギュラー、プレミアムの3つのプランがあり、どのプランも月1回まで交換可能だ。リビング、玄関、ダイニング、寝室などに絵画を飾ってみると、「想像以上の迫力に感動した」という感想が数多く届いている。

「これまで家にポスターを飾っていたのですが、原画は人生で初めてでした。やっぱり原画って素敵ですね。世界に同じものが一つもないことに価値を感じています。開封したときに絵の具の香りがフワッとして、とてもカラフルな可愛いペガサスの絵だったので、子どもたちも大興奮していました」(利用者の声)

Casieでレンタルしたペガサスの絵を部屋に飾った親子(写真提供/Casie)

Casieでレンタルしたペガサスの絵を部屋に飾った親子(写真提供/Casie)

届く絵は自分で指定することもできるが、おまかせも可能。藤本さんによると、特に好みの作家が固まっていないビギナーに「おまかせ」の利用者が多いそうだ。

「絵画って現物を見ないと分からないし、価格は高いし、購入しようと思うと意思決定が大変なんです。でもサブスクならどんどん交換できるので、その過程で自分の好みも分かってきます。弊社ではお部屋にどんな絵画が合うかといった相談にも乗っており、一人一人にぴったりな絵を届けるようにしています」(藤本さん)

利用者を伸ばしている背景には、「人と違う部屋をつくりたいニーズがある」と藤本さん。SNSで「自分だけの個性を表現したい!」と考える人たちに、世界に一つの原画を飾ることがマッチしているという。

Casieでレンタルした絵画を部屋に飾った様子の投稿(Instagramより引用)

Casieでレンタルした絵画を部屋に飾った様子の投稿(Instagramより引用)

また藤本さんによると、壁や床のインテリアはソファーなどの家具よりも部屋の印象を左右する。模様替えのたびに部屋のイメージをガラッと変えたい人、気分転換をしたい人にも、絵画サブスクのニーズがあるようだ。

アートを飾る人が増えなければ、芸術家は育たない株式会社Casie代表取締役の藤本翔さん(写真提供/Casie)

株式会社Casie代表取締役の藤本翔さん(写真提供/Casie)

アートのニーズの高まりにサブスクリプションサービスという形で応えた「Casie」。サービスを始めた背景には「日本の芸術家を支えたい」という藤本さんの想いがある。

一般家庭でアートが飾られることの少ない日本は、実は“アート後進国”。欧米や東南アジアではごく一般の家庭にもアートが飾られているにもかかわらず、日本ではアートが生活に浸透していない。

「アートには『資産価値』と『インテリア』という二つの文脈があります。前者については前澤友作さんのバスキア購入で注目されたように、一部の富裕層が行っているものですが、後者の『インテリア』文脈のマーケットはまだ日本で確立していません」

藤本さんによると、日本におけるアートの販売市場規模は3300億円。その7割は画廊や百貨店向けの売り上げであり、一般人が購入するハードルは高い。アート初心者は自宅に絵画を飾りたいと思ったとしても、原画を手にする機会は限られていた。

「インテリアとしてのアートの文脈を育てなければ、資産価値としてのアートの文脈も十分に育ちません」と藤本さん。アートのマーケットの規模が小さいということは、日本のアーティストが創作を続けながら生計を立てるのが難しいということを意味する。

「日本のアーティストを取り巻く状況を変えるためには、アートを飾ったり、購入したりする人を増やす必要があるんです」

Casieに作品を預けているアーティスト「Moeistic Art」さん(写真提供/Casie)

Casieに作品を預けているアーティスト「Moeistic Art」さん(写真提供/Casie)

絵画サブスクはアーティストを救うか?

アーティストを想ってCasieを運営する藤本さんは、芸術家ではない。起業する前は会社員をしていたそうだが、どのような想いからこの事業を立ち上げたのだろうか?

「僕の父が生前、絵を描く仕事をしていました。自分の描きたい絵だけを描いて生計を立てていくことは当時も難しく、商業用の絵を描いたりしていました。才能あるアーティストは創作活動に全エネルギーを投下するので、作品発表や販売に向けたエネルギーを残しておくことができません」

日本の芸術家人口は約50万人(2010年国勢調査を元にCasieが算出)。そのうち芸術家の仕事だけで生活できているのはわずか15.6%(2000年 文化庁「我が国の芸術文化の動向に関する調査」より)。才能や意欲があっても作品が売れず、生計が立てられないために創作を断念する人は後を絶たない。

そんななか、Casieが現在契約しているアーティストは約300人(2019年1月時点)。そのうち9割以上が日本で活動するアーティストだ。レンタル料金の35%、売れた場合は販売価格の60%が彼ら・彼女らに還元される。

さらに利用者のもとにはアートだけではなく、作家について詳しく記載されたプロフィール資料などが一緒に届けられる。単にアートを鑑賞するだけではなく、描かれた背景を知ることで、利用者が作家を好きになる仕組みだ。

絵画と一緒に利用者に送られる同梱物。(写真提供/Casie)

絵画と一緒に利用者に送られる同梱物。(写真提供/Casie)

一人一人が自分の家や部屋にアートを飾ることが、日本にアート文化を定着させる第一歩。その先に、芸術家が才能を発揮できる社会が待っているのかもしれない。

●取材協力
Casie (Instagram)元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169822_main.jpg

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「東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版」「家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念」【12月人気記事まとめ】

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「東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版」「家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念」【12月人気記事まとめ】

新しい年がはじまりました。今年の目標に、家の引越しや購入を考える人も多いのでは。SUUMOジャーナルで昨年12月に公開した記事では、そんな人にも改めて参考になる「東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版」や「家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念」が人気でした。TOP10の記事を詳しく紹介します。
2019年12月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

1位 東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版
2位 テレワークが変えた暮らし[1] 理想の子育てと移住が叶った! 東京から山梨県北杜市へ
3位 家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念
4位 デュアルライフ・二拠点生活[22] 東京と長野県松本市。温泉街の一軒家を家族でセルフリノベ
5位 テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦
6位 奄美大島の空き家をみんなでDIY。街のみんなの夢をかなえる場になるまで
7位 リトル・コリアだけじゃない! “ごちゃ混ぜ”多国籍タウン、新大久保の最新事情
8位 台風被害からみえてきた、災害に備えた家づくり
9位 日本一の「自転車のまち」へ。サイクリストが集う茨城県土浦市の暮らし
10位 分譲マンションのシェアリングサービス、ついに傘も登場!
※対象記事:2019年12月1日~2019年12月31日までに公開された記事
※集計期間:2019年12月1日~2019年12月31日のPV数の多い順

1位 東京23区の家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

東京タワー(写真/PIXTA)

東京タワー(写真/PIXTA)

高額で知られる東京の家賃。その中で穴場の街や狙い目の駅を探すならどこがおすすめ? 昨年のトップがランク外になるなど動きのあった2019年版の最新ランキングから見えてきた注目の地域は、葛飾区。昨年のランク外から6位に急上昇した京成立石駅をはじめとする駅の周辺環境や魅力について紹介しています。

2位 テレワークが変えた暮らし[1] 理想の子育てと移住が叶った! 東京から山梨県北杜市へ

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

東京・南青山の企業(取材当時)に在籍しながら、移住者に人気の山梨県北杜市に移り住んだ夫婦の体験談。アウトドア好きのふたりが「いつかしてみたかった」という田舎暮らしを「今」だと思った理由、南アルプスや富士山に囲まれた自然豊かな環境での子育ての話などを聞きました。

3位 家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

「家賃を払い続けても、最後に何も手元には残らない」とは、よくいわれる言葉。ですが、その家賃を払い続けていると借りていた家がマイホームになる、賃貸と分譲のハイブリッドな新しい不動産システムがあります。その仕組みや利用者の声を紹介、解説します。

4位 デュアルライフ・二拠点生活[22] 東京と長野県松本市。温泉街の一軒家を家族でセルフリノベ

(写真撮影/高木真)

(写真撮影/高木真)

平日は東京で働き、週末は旧城下町らしい歴史的建造物と豊富な温泉に恵まれた長野県松本市で妻子と過ごす向井さんの生活を紹介。定住を考えたときに出合った築50年の一軒家で、古い家を改装して住むという昔からの夢をかなえました。薪の火つけは、息子の仕事。家のリノベ作業を通じた、家族にとって心地いい場所の探求が、家族の大切な時間になっているそうです。

5位 テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦

(写真撮影/イマデラガク)

(写真撮影/イマデラガク)

4年前に千葉県から石川県金沢市の移住をきっかけに、社内初のテレワーカーになった女性の経験談。本人だけでなく社内でも業務の効率化が進み、地元企業とのパラレルワークも両立させています。一方、テレワークならではのデメリットも……。

6位 奄美大島の空き家をみんなでDIY。街のみんなの夢をかなえる場になるまで

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

夫の転勤などで自分の意思ではない要因でキャリアを閉ざされてしまった女性たちの手により、古民家がリノベーションされて生まれた奄美大島の地域食堂。世代を超えて地域の人々をつなげる役割を果たし、「住まいのリフォームコンクール<コンバージョン部門>」で優秀賞も獲得した挑戦からは、コミュニティ活動の持続へのヒントも見つけられそうです。

7位 リトル・コリアだけじゃない! “ごちゃ混ぜ”多国籍タウン、新大久保の最新事情

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

もはや韓国人だけでなく、中国やベトナム、ネパールなどさまざまな国や地域から人が集う多国籍タウン、新大久保。異国情緒あふれる飲食店やディープな「イスラム横丁」までの最新事情や、どのようにして外国人コミュニティが形成されたかを紹介します。

8位 台風被害からみえてきた、災害に備えた家づくり

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

2019年も全国で台風被害が相次ぎました。台風などで被害を受けやすい建物の特徴は「1階が半地下」「軒のない屋根」「防水機能が劣化したバルコニーや屋上」……万が一に備えるために、気を付けるべきことを解説します。

9位 日本一の「自転車のまち」へ。サイクリストが集う茨城県土浦市の暮らし

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

官民一体でサイクリングに特化したまちづくりを行っている茨城県土浦市。筑波山や霞ヶ浦など県を代表する風景を楽しめるサイクリングロードや、小さな子連れや手ぶらでもサイクリングできる環境整備などが功を奏し、首都圏から訪れる人も増えています。取り組みの深化を探りました。

10位 分譲マンションのシェアリングサービス、ついに傘も登場!

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

大規模分譲マンションでは車や電動アシスト自転車など各種シェアリングサービスが広がっていますが、最新トレンドとして注目されそうなのが、傘。思わぬ便利さから、一度利用するとリピート率が高いそう。プラスチックごみ削減が地球環境問題としても注目される昨今、ごみの減量にもつながりそうです。

松本市のデュアルライフ連載記事では、定住も意識した体験談であり、テレワーク連載記事とあわせ、いつにもまして地方への移住への関心の高さをうかがわせました。働き方改革が掲げられる近年ですが、より満足できる生活のために、自分主導で働き方を改革していくことも、また重要なことであるのかもしれません。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169843_main.jpg

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“暖房をつけても寒い”は家に問題が! 解決策は「住まいの温活」

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“暖房をつけても寒い”は家に問題が! 解決策は「住まいの温活」

寒さが本格化するこの季節。思わず暖房をガンガン効かせたくなるけど、光熱費がかさむし、地球にも優しくない。そこで考えたいのが、住まいそのものを寒さから守ること。外の寒さを閉め出し、暖かさを逃さない家にする「住まいの温活」の方法について、断熱リフォームからDIYの方法まで、旭ファイバーグラス株式会社渉外技術担当部長の布井 洋二さんに話を聞いた。
暖房しても寒いのは、暖房の熱が外に逃げているから

冬、家の中を暖房しても寒いのは、なぜだろうか? それは、暖房の熱が外に逃げてしまうから。一戸建ての場合、暖房の熱は、窓などの開口部や外壁、床や屋根から失われてしまい、特に開口部からの流失は58%に上るというデータもある。せっかく暖房をつけても、窓や壁、床や屋根から、暖かさが逃げてしまうのだ。

では、どんな家なら、熱を外に逃さないのか。よく言われるのは、「家全体をくるむように断熱する」ということ。気密性を高め、隙間なく断熱することで、熱に逃げる隙を与えないのだ。そこで、開口部や壁、床、屋根など、外気に面していたり、土と接していたりする部分ごとに断熱を施すことになる。

すでに住んでいる家でも、断熱材を追加で施工したり、窓を替えたりする「断熱リフォーム」によって、断熱性能をアップすることは可能。一戸建て、マンションそれぞれについて、その方法を布井さんに聞いてみた。

冬、外気がマイナス2.6度のとき、18度に暖房した部屋から外に逃げていく熱の割合は、開口部(窓)が58%と最大。外壁や換気による流失が15%ずつあり、床や屋根からも熱が失われている(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

冬、外気がマイナス2.6度のとき、18度に暖房した部屋から外に逃げていく熱の割合は、開口部(窓)が58%と最大。外壁や換気による流失が15%ずつあり、床や屋根からも熱が失われている(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

2月の東京で、断熱材なしの一戸建てと断熱材100mmを施工した一戸建て(ともに窓は無断熱・単板ガラス)を設定20度で暖房した場合を比べると、断熱材なしのケースでは1日に逃げる熱の合計が断熱したときの約3倍だ(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

2月の東京で、断熱材なしの一戸建てと断熱材100mmを施工した一戸建て(ともに窓は無断熱・単板ガラス)を設定20度で暖房した場合を比べると、断熱材なしのケースでは1日に逃げる熱の合計が断熱したときの約3倍だ(一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

一戸建ての断熱リフォーム費は数十万円から数百万円程度に

まず、一戸建て。簡易な方法としては、1.最下階の床下に断熱材を施工する「床断熱」、2.天井裏から吹込み断熱施工を行う「天井断熱」、3.内側、あるいは外側から断熱材を施工する「壁断熱」、4.今の窓の内側に内窓を設置することによる「窓の断熱」、この4つの部位の断熱が挙げられる。

このうち、床(最下階床)、天井、壁(外壁)それぞれを断熱リフォームした場合の費用の目安は下図の試算例が参考になる。昭和55年省エネルギー基準世代の築25~20年前後、床面積135平米の一戸建ての場合、天井にグラスウールを吹込み断熱する「天井断熱」だと1棟36万円。最下階の床下にグラスウールを充填すると「床断熱」だと同101万円、外壁に外側から断熱材を張り付ける外張付加断熱工法による「壁断熱」だと同387万円となっている。

「壁の断熱については、内張断熱工法も。断熱材にもよりますが、1平米あたり2万~5万円ほどかかるようです。得られる断熱性能は今の省エネ基準以下となるケースが多いでしょう」(布井さん)

窓の断熱にかかる費用は、内側に設置する内窓次第。標準的な掃き出し窓の場合、一間分に複層ガラス(数枚の板ガラスの間に乾燥空気やガスなどが封入された窓)を取り付けると、材料費・工事費で6万円台。腰高窓の場合は、3万円台が目安となる(いずれも取り付けや進入に障害がなかった場合)。例えば、1階の掃き出し窓二間分と腰高窓二間分、2階の掃き出し窓二間分と腰高窓五間分に内窓を設置するなら、トータル約50万円という計算だ。

「さらに念入りに断熱するなら、部位ごとの断熱を組み合わせます。例えば、1階のLDKに床断熱と窓の断熱を、2階の寝室に天井と窓の断熱を施す、といった具合です。さらに大掛かりなものとなると、建具や仕上材をはがしてから行うスケルトンリフォームしかないと思われますが、廃棄物の処理を含めてかなりの高額に。規模にもよりますが、一戸建てを新築するよりも数百万円安いくらいの金額、つまり1000万円を超えるレベルでないと、工事を引き受けるリフォーム会社はないように思われます」(布井さん)

(出典:「住宅・すまいweb 環境とすまい・まち」断熱改修のすすめ・戸建住宅編 (社) 住宅生産団体連合会、(株)岩村アトリエ/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

(出典:「住宅・すまいweb 環境とすまい・まち」断熱改修のすすめ・戸建住宅編 (社)
住宅生産団体連合会、(株)岩村アトリエ/一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会HPより転載)

〈試算条件〉
築25~20年前後の住宅モデル
1982~1991年(昭和55年省エネルギー基準世代)
延床面積:135平米(1階:80平米 、2階:55平米 )
改修費用:平米単価(消費税別)および1棟あたりの費用(消費税込み)を算出
〈年代相応の断熱仕様(リフォーム前)〉
天井:グラスウール10K 50mm
外壁:グラスウール10K 50mm
開口部:アルミサッシ+単板ガラス
床:押出法ポリスチレンフォーム保温板1種 20mm
(*平成25年省エネ基準の6地域を想定)

高断熱住宅なら、エアコン1~2台で十分な暖かさが得られる

次に、マンション。簡易なやり方としては、一戸建てと同様、1.外に面している壁を内側から断熱する内張断熱工法による「壁断熱」、2.今の窓の内側に内窓を設置することによる「窓の断熱」がある。窓の断熱については、一戸建てと同程度と考えられるだろう。

「大掛かりな断熱リフォームは、大規模修繕と併せて実施するケースが多く、屋上断熱防水工事や、妻壁(建物の短い方の辺の壁)の外断熱改修などを、マンション全体で行うことになります」(布井さん)

なお、一戸建て・マンションのいずれのリフォームでも、床暖房を設置することは少なくない。床暖房の設置も、住まいの「温活」の手段となり得るだろうか?

「床暖房も一つの手段です。ただし、断熱性能や気密性能が十分でないと、効果は限定的。床の表面温度だけが上がっても、隙間から冷気流を感じたり、窓や壁の表面温度が低いままだと、冷放射を受けて寒く感じてしまうからです。また、床暖房の下側を断熱していないと、せっかくの熱が基礎や地盤面に奪われてしまい、非効率。光熱費もかさんでしまいます」(布井さん)

加えて、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が定める断熱性能基準「G2」、などの高断熱住宅で、冬季に昼間の日射が期待できる場合は、ごくわずかの暖房エネルギーでまかなえるので、床暖房がなくても十分温かいケースもあり得るとのこと。また、「G2」よりワンランク下の「G1」クラスや省エネ基準レベルの住宅の場合、エアコンを併用する形で床暖房を用いるケースも多いが、前述の「G2」以上の断熱性能があれば、容量の小さなエアコン1~2台だけ(床下エアコンも含む)あれば、床暖房がなくても十分なケースも多いそう。もちろん、プランや周りの状況によるということだが。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

リフォームしなくても手軽なDIYによる“セルフ温活”が可能

「断熱リフォームに効果があることは分かったけど、とてもそこまではできない」という場合は、ちょっとした工夫や自分でできるプチDIYを試してみよう。

「家の中で一番、熱の逃げ道となっている『窓』の対策が効果的です。例えば、緩衝材の『プチプチ』や、中空のポリカーボネート板を窓ガラスや窓枠の内側に張るといったやり方があります。ただし、見栄えが悪く、気密性の向上も望めないので、効果は限定的。気密性を高めるためには、パッキンなどの交換も効果がありますが、自分でやるのは難しいかもしれません」(布井さん)

カーテンを厚手のものや遮熱カーテンに替えるといった方法も。また、床にホットカーペットやラグを敷いたり、フローリングに薄手の畳を載せることでも、暖かさを体感できる。ドアの隙間に張る隙間テープで冷気流を防ぐこともできるが、この場合は、換気のためにドアの下の部分を欠き取る『アンダーカット』が施されていることもあるので要注意。手間や材料費、見た目の悪さなどのデメリットも検討した上で、効果的なやり方をぜひ上手に暮らしに取り入れたい。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

中空ポリカーボネート板や「プチプチ」は、ホームセンターなどで手に入る(写真/PIXTA)

中空ポリカーボネート板や「プチプチ」は、ホームセンターなどで手に入る(写真/PIXTA)

高断熱リフォームなら次世代ポイント制度の対象になる

これから住宅を購入しようという人なら、あらかじめ高断熱の住まいを選ぶのも「温活」のひとつかもしれない。

「日本では、高断熱住宅であることの公的な認定制度は、『BELS』や省エネ基準レベルの断熱性能が最高等級の『住宅性能表示』しかありません。ただ、外皮性能(室内から屋外に逃げる熱の量の合計を、外壁や屋根など外皮の面積で割って算出した値。UA値)の良さは、一つの目安にはなると思います。公的ではありませんが、HEAT20の『G1』『G2』や、ほぼ同じレベルの外皮性能の必要なZEHの『強化外皮基準』『更なる強化外皮基準』などが参考になるでしょう。また『BELS』では、『外皮基準』として外皮性能(UA値)の数値も表示されているので、その数値が自分の地域のHEAT20のG1・G2レベル相当かどうかを比較するのも良いでしょう」(布井さん)

2019年10月の消費税率引き上げに伴い、一定の省エネ性能を満たす住宅の新築やリフォームに対して、さまざまな商品と交換できるポイントを発行する「次世代住宅ポイント」制度もスタートしている。「長期優良住宅」「ZEH」などの認定住宅など一定の条件を満たした新築住宅を購入した場合に加えて、リフォームで「開口部の断熱改修」「外壁、屋根・天井または床の断熱改修」を行った場合も対象に。期限があるので、利用を希望するなら、早めの検討・着手が必要だ。

「温活」した高断熱住宅で得られる自然な暖かさ

「住まいの温活」は、家の中を暖かくて居心地の良い空間にするだけでなく、室内の温度差を解消してヒートショックを防いだり、光熱費が節約できたりといったメリットもあるし、夏の暑さも和らげてくれる。
「ただし、こうしたメリットを享受するには、断熱性だけでなく、気密性も高める必要があります。隙間があり、気密性の低い家は、まるで穴の空いたセーターや布団のようなものですから」(布井さん)。
だからこそ、断熱性とセットで気密性の高い住宅の暖かさは格別なのだという。
「HEAT20の『G2』クラス相当かそれ以上の家を訪れると、暖かさを実感するというよりも、ふんわりとした暖かさのおかげで、暖かさ自体を忘れてしまいます。高断熱の家とはそんな空間なのです」(布井さん)
 
布井さんは、HEAT20のサポート委員として、日本の住宅の方向性を示す取り組みにかかわっている。
「省エネ性能に優れた住宅の生産を促す『トップランナー』制度の対象拡大や、省エネ基準の説明の義務化により、これからは、省エネ基準が、最低限、満たすべきレベルとなりますが、このレベルだと、家の中で部分的に暖房を付けたり消したりする程度では、暖房していない空間はかなり低温になり、ヒートショックなどのリスクは残ります。一方、HEAT20の『G2』クラスの断熱性能を備えた住宅は、わずかな光熱費で全館暖房が可能になるので、家の中の温度差が小さく、健康的で快適な空間に。断熱リフォームを行うのであれば、ぜひ『G2』レベルを目指していただきたいですね」という布井さんのメッセージでこの記事を締めくくりたい。

●参考サイト
HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)
次世代住宅ポイント元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169871_main.jpg

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テレワークが住まいを変える!?2020年の住まいトレンドは「職住融合」

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近年恒例となった、リクルートホールディングスの「2020年のトレンド予測」が発表された。これは、住まい・飲食・雇用など7領域の「新たな兆し」を見出して、2020年のトレンドになると予測したキーワードを発表するもの。筆者が専門とする「住まい領域」のトレンド予測は、『職住融合』。住まいと職場が融合するのはなぜなのか?【今週の住活トピック】
「2020年のトレンド予測」を発表/リクルートホールディングス自宅や住宅の共用部にワークスペースを設ける事例が増加中!?

「働き方改革で、住まい選びが変わる」と、筆者も常々思っていた。

住まい領域は「新たな兆し」として、テレワークの普及により働く場所が多様化することで、「家なかオフィス化」や「街なかオフィス化」が進む兆しを挙げた。さらに、職住の距離に関する制約が薄まり、職場に縛られない「街選びの自由化」が進む兆しも指摘した。

まず、テレワークの実態を見ていこう。
リクルート住まいカンパニーの「テレワーク×住まいの意識・実態調査」2019年によると、会社員・公務員でテレワークを実施している人はすでに16%に達し、実施意向のある人も26%いた(画像1参照)。

実は、総務省の「令和元年情報通信白書」を見ても、企業のテレワーク導入率は2018年には19.1%に達している。いずれも2割近い数値を示しており、筆者が思っている以上にテレワークが普及しているようだ。

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

テレワークで働く場所になるのは、自宅の一部であったり、街のカフェなどの商業施設やコワーキングスペース、シェアオフィスであったりするだろう。つまり、“家なかオフィス”や“街なかオフィス”の誕生だ。

とはいえ自宅で働くなら、パソコンの置き場所や仕事の資料などの収納スペースも必要になるし、そのためのデスクや椅子も必要だ。自宅にそうした工夫をすることで「家なかオフィス化」が実現するのだが、DIYやリノベーションで自宅に快適なワークスペースをつくる動きが多く見られるのだという(以下の画像参照)。

トレンドを発表したSUUMO編集長の池本洋一さんは、それぞれ事例を挙げて説明した。なかでも、ガラス張りの小部屋を施工するリノベーションでは、光や視線は遮らないものの音を遮断してくれるのがポイントなのだそうだ。

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

さらに、働く人が自ら「家なかオフィス化」するだけでなく、住宅を供給する事業者も「プチ書斎プラン」や「パパ・ママ専用書斎プラン」などを提案する住宅の供給、ワークスペースを設置した賃貸住宅の提供を行う事例も出てきている。とはいえ、狭い自宅にワークスペースが設けづらい、自宅では集中しづらいということもあるだろう。

最近では、新築マンションや賃貸住宅の共用部に、居住者が利用できるワークスペースを設ける事例が増えている。ブースタイプやライブラリータイプ、ミーティングルーム併設など、その形式も多様化しているのが興味深い。

「職場の近くに住む」必要性が軽減?街選びの選択肢が広がる

さて、テレワークを活用すれば、「毎日の通勤時間を短縮するために職場の近くに住む」という呪縛から解放される。先ほどの「テレワーク×住まいの意識・実態調査」2019年の結果でも、「テレワークをきっかけに引越しをしたか」を聞いたところ、「引越しを実施した」(10%)、「前向きに検討し始めている」(27%)、「検討していないが引越ししてみたい」(15%)とかなりの割合で、テレワークを機に転居を視野に入れていることがうかがえる。

さらに、「テレワークが導入/促進された場合、通勤時間がどの程度長くなっても引越しを検討するか?」については、「60分以上」(13%)、「30~60分未満」(30%)など、通勤時間が長くなることを許容する人が多くなっている(以下の画像参照)。

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

「2020年トレンド予測 住まい領域」資料より転載

つまりテレワークが普及すれば、通勤に便利という発想ではなく、自然豊かな場所や子育てしやすい場所を生活拠点に選ぶ人も現れる。一方、すでに多くの居住者がいる都市の郊外エリアやベッドタウンに目を向けてみよう。通勤時間がネックで働けなかったという人も、テレワークの普及によって、家なかオフィスや街なかオフィスで働ける可能性が出てくる。

住まい選びの重要項目である「街選び」の選択肢が広がるというわけだ。

また、テレワークのメリットとして「通勤時間の減少」や「ストレスの軽減」「仕事の質の向上」などを挙げる人が多いことや、テレワークで引越しを実施した人では「子ども/家族との時間」や「趣味に費やす時間」などに価値を感じる人が多いことなども紹介された。

テレワークはもちろんのこと、働き方改革が進んでいけば、これまでの「住まい選びの常識」が常識ではなくなっていくだろう。生活の拠点をどこに置くか、自宅の部屋をどう使っていくか、広さや間取りをどう考えるかなど、もっと自由な発想で住まいを選べるような時代が近づいているように思う。

最後に、その他の領域のトレンド予測キーワードを紹介しておこう。
多くの領域のトレンドの背景に、少子化による人手不足の影響が見られる。人手不足解消のために、多国籍人材やシニアの就労を促進したりテレワークの促進で働きやすい環境を整えたりする必要があり、その流れが住まいにも波及するという2020年になるようだ。

2020年のトレンド予測キーワード
「おもて無グルメ」(飲食領域)
「アルダイバー」(雇用領域(アルバイト))
「健朗シニア」(雇用領域(シニア))
「出勤オフ派遣」(雇用領域(派遣))
「ワクモチ進路」(進学領域)
「らしさCAR」(自動車領域)

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/IMG_5329.jpg住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

テレワークが変えた暮らし[6]湘南で見つけた新しい生き方。「サーフィンを楽しむ70歳になりたい」

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テレワークが変えた暮らし[6]湘南で見つけた新しい生き方。「サーフィンを楽しむ70歳になりたい」

テレワーク(リモートワーク)を利用すると、出勤準備や通勤にあてていた時間が自由に使えるようになります。その時間で、サーフィンや畑などのやってみたかったことを始め、ついには新しい生き方を選んだ人がいます。住まいと街、働き方、生き方が溶けあった事例を紹介しましょう。
いつかは住みたかった湘南。理想の物件にひとめぼれ

東京生まれ、東京育ちのL・Iさん(40代女性)が一人暮らしを満喫しているのは、湘南・藤沢にある「鵠ノ杜舎(くげのもりしゃ)」。団地リノベや街のブランディングで知られるブルースタジオが手掛けたテラスハウスで、周囲に畑や丘もあります。

ブルースタジオが手掛けた「鵠ノ杜舎」。玄関まわりに自転車やサーフボードがあるのがいかにも湘南らしい(写真撮影/片山貴博)

ブルースタジオが手掛けた「鵠ノ杜舎」。玄関まわりに自転車やサーフボードがあるのがいかにも湘南らしい(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

(写真撮影/片山貴博)

L・Iさんが以前から漠然と「住めたらいいな」と思っていたこの地に引越したきっかけは、会社がテレワークを導入したこと。

「外資系企業に勤めていたのですが、週5日のテレワークが導入されたんです。それまで通勤しやすさを考えて都内や川崎市で暮らしていたんですが、これなら湘南に住めるかもしれないな、とぼんやりと考えていたときにこの物件を見学、“素敵すぎて手放したくない”と思いました」とほれ込んだそうです。

するとそこからLさんの人生は少しずつ変わっていきます。
「もともとスノーボードをやっていて、似ているかなと思ってサーフィンを始め、今では夏は朝、冬は昼に1~2時間ほど海に入っています。それから畑仕事も始め、今はハーブ類のローズマリー、セージ、タイムなどと、野菜を育てています」

海岸までは愛車で向かう。平日に波に乗り、人の多い休日に仕事をすることも(写真提供/L・Iさん)

海岸までは愛車で向かう。平日に波に乗り、人の多い休日に仕事をすることも(写真提供/L・Iさん)

Lさんが畑で育てているハーブたち(写真撮影/片山貴博)

Lさんが畑で育てているハーブたち(写真撮影/片山貴博)

手前はハーブ。奥の防寒対策をした苗シートの中で、キャベツなどの野菜の栽培にチャレンジ(写真撮影/片山貴博)

手前はハーブ。奥の防寒対策をした苗シートの中で、キャベツなどの野菜の栽培にチャレンジ(写真撮影/片山貴博)

ほかにはランニング、合間には友人や家族と外食をしたりと、充実した日々を送っています。
「藤沢や湘南の人って、とてもおしゃれでフレンドリー。海辺の街が心をオープンにするのかな。いい意味でゆるさがあって入りやすい。独特のカルチャーもあってとても居心地がいいんです」と新しくできた人間関係も楽しむように。

ワークスペースも整えて、ストレスフリーな環境に

もともと「手放したくない!」とほれ込んだ住まいというだけあって、家に合うインテリアを買いそろえ、好きな絵画を飾り、「ストレスを極限まで減らした」住まいに。仕事用にハーマンミラーの椅子、腱鞘炎になりにくいマウス、固定電話をそろえるとともに、家電はできる限りIot化、デスクまわりは整理整頓して、集中できる環境を整えているといいます。

ワークスペースのまわりが散らかっていると、気が散ってしまって仕事にならないといい、常にきれいにしているのだそう(写真撮影/片山貴博)

ワークスペースのまわりが散らかっていると、気が散ってしまって仕事にならないといい、常にきれいにしているのだそう(写真撮影/片山貴博)

「家の規制はあまりないんです。管理会社に相談をすれば釘を打ってもいいし、共用部分にあるBBQスペースを自由に利用したり、敷地内では住人みんなでウズラも飼っているんですよ。少し前には烏骨鶏(うこっけい)がいました」と楽しそう。

「家が素敵というのもありますが、自分でもたまに夢のような暮らしだなって思うときがあります。ストレスは本当に感じないですね」(Lさん)

ワークスペースの反対にはベッド。壁にはデイヴィッド・ホックニー(画面左上)などのアートをギャラリーのように飾っている(写真撮影/片山貴博)

ワークスペースの反対にはベッド。壁にはデイヴィッド・ホックニー(画面左上)などのアートをギャラリーのように飾っている(写真撮影/片山貴博)

ベッドサイドの窓からは丘が見え、気持ちよく目覚められるのだそう(写真撮影/片山貴博)

ベッドサイドの窓からは丘が見え、気持ちよく目覚められるのだそう(写真撮影/片山貴博)

人生設計を見直す。今の夢は70歳になってもサーフィンしていること

引越してきた当初は、週2日は出社、週3日はテレワークという暮らしをしていました。そこで、実感したのが通勤や出社にかかる時間と負担感です。

「通勤ってその前の準備も含めると2時間半くらい必要なんですよね。藤沢から東京都心だと3時間くらいかかるかもしれない。それに出社するための衣服や化粧品、ランチ、帰宅するまでの間のちょっとした買い物にもお金も使う。経済的にも時間的にもすごくロスが多いし、やっぱり通勤電車はすごく疲れる」と話します。

一方、テレワークだと通勤や出社で疲れることはありません。
「通勤のストレスがないので、仕事のクオリティが上がると実感しました。また、通勤や出社にかけていた時間やお金を、趣味や自分の使いたいもののために使える。仕事前後にスポーツができるから健康にもいいし」。自由時間=可処分時間が増えることで、健康や趣味といった仕事以外の「生きた時間」の使い方ができると実感したそう。

1階のキッチンとダイニング。海外の旅先で買った照明と日本の調理器具などが絶妙に調和(写真撮影/片山貴博)

1階のキッチンとダイニング。海外の旅先で買った照明と日本の調理器具などが絶妙に調和(写真撮影/片山貴博)

照明は海外で購入したもの。この家に引越してきた家具とも自然と調和(写真撮影/片山貴博)

照明は海外で購入したもの。この家に引越してきた家具とも自然と調和(写真撮影/片山貴博)

「それと、湘南の暮らしが良すぎて、だんだん東京にギャップを感じ始めたんです。電車に乗っていると余裕がなくなっていくような気がして、いやになってしまったんですね。勤務先は規模の大きい企業だったこともあり、できるだけ長く会社にいるつもりだったのですが、50代が近づいて退社するより、今退職して夢を描くほうがいいと、思い切ってチャレンジしました」

なんと退職を決意、現在はフリーの翻訳者として在宅で仕事をし、必要なときに都内へ出向くという生活にシフト。さらに、退職後に手づくりでオーガニックの石けんづくりをはじめ、新しい楽しみ(と収入源)を増やしています。

「不安もありましたが、先ほども話したように、フリーランスになって給料や収入が減ったとしても、出ていくお金も減るし、時間も有効に使えます。あと、つくった石けんは海辺のマルシェなどで販売して売り上げています」

ヤギのミルクを使ってつくった石けん。ハーブの一部には畑で栽培したものを使っている(写真撮影/片山貴博)

ヤギのミルクを使ってつくった石けん。ハーブの一部には畑で栽培したものを使っている(写真撮影/片山貴博)

これからの夢について、「70歳になってもサーフィンをしていたら、かっこよくないですか?」と笑いながら話します。テレワークをきっかけに、住まいも仕事も、生き方も大きく変えたLさん。すべてが自然体で心地よい、新しい生き方を見つけたようです。

●取材協力
鵠ノ杜舎元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169894_main.jpg

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1位 勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」
2位 団地から「街」へ。温浴施設などを備えた相武台団地の取り組み
3位 ”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用
4位 シングルマザー向けシェアハウスは母子家庭支援として成功する? リアルな生活事情も
5位 アドレスホッパーに聞いた「Hostel life」「ADDress」「HafH」の違いって?
6位 団地はどう変わっていく?「ハラッパ団地・草加」に見る新しい暮らし
7位 4割が住宅ローン選びに後悔!注意点はある?
8位 「名古屋駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版
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10位 あなたは「旧耐震マンション」の建築時期を知っていますか?
※対象記事:2019年11月01日~2019年11月30日までに公開された記事
※集計期間:2019年11月01日~2019年11月30日のPV数の多い順

1位 勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」

(写真提供/文藝春秋)

(写真提供/文藝春秋)

著名な経済評論家の勝間和代さん。かつては多忙さによる「汚部屋」「収納破産」な生活を送っていましたが、断捨離を決心したきっかけや、思い切った断捨離から約4年経過後の現在の生活、ライフスタイルの進化を伺いました。

2位 団地から「街」へ。温浴施設などを備えた相武台団地の取り組み

(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

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近年、魅力が見直されつつも、さまざまな課題も抱える団地。衰退の危機にさらされていた、相模原市の築50年を超えた相武台団地は、高齢者や子育て世帯などサポートの必要な人にとって暮らしやすい場所にするため、温浴施設を開設しました。新しい団地のあり方を紹介しています。

3位 ”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用

(画像提供/JR中央ラインモール)

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大規模な高架下スペースの再開発が進む昨今、JR東日本が手がけたのは初の高架下賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」。鉄道アクセスの良い商業施設だけでなく、コミュニティ空間としても活用されている高架下の今を探ります。

4位 シングルマザー向けシェアハウスは母子家庭支援として成功する? リアルな生活事情も

(写真/水野浩志)

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収入の不安定さが、シングルマザーの家探しの大きな課題になっています。それを支える手段として注目されているのがシェアハウス。彼女たちを対象にしたシェアハウスにお邪魔し、入居者や家主へのインタビュー。その必要性や日常の課題、運営のヒントまで伺いました。

5位 アドレスホッパーに聞いた「Hostel life」「ADDress」「HafH」の違いって?

(写真提供/野口福太郎さん)

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音楽や動画だけにとどまらず、暮らす場所にもサブスクリプション型サービスが広がっています。それぞれのサービスの違いを、3つのサービス全てを利用した、家を持たない生活を送る「アドレスホッパー」に聞いてみました。

6位 団地はどう変わっていく?「ハラッパ団地・草加」に見る新しい暮らし

(写真提供/ハラッパ団地・草加)

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1971年築の社宅をリノベしたハラッパ団地・草加は、全55戸が満室なだけでなく、40組以上も入居待ちがある人気物件。その理由は、敷地のゆとりなど団地ならではの設備面の魅力だけでなく、人とのつながりにあるようです。

7位 4割が住宅ローン選びに後悔!注意点はある?

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家選びは人生最大の買い物と言われていますが、その費用である住宅ローンは、数十年にもわたる人生最大の「借金」です。「借金」で後悔している人のアンケート調査結果から、住宅ローン選びについて深掘りします。

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リニア中央新幹線の設置へ再開発が進む名古屋駅へアクセスの良い駅の家賃相場ランキングから、オススメの駅をご紹介。車社会・愛知の中で電車移動にトコトコ注目したら、子育て向けの駅や学生に人気の駅など、さまざまな駅がピックアップされました。

9位 サブスク型住居サービス「ADDress」を体験。暮らしの新たな価値を見た

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

全国のゲストハウスやシェアハウスに滞在し放題のサブスクリプション型住居サービス「ADDress」を利用し、多拠点生活を実体験。実際に利用出来る物件の詳細や、会員と地域をつなぐスタッフとの話ともに、働く場所と住む場所の垣根を超えた未来を覗き見しました。

10位 あなたは「旧耐震マンション」の建築時期を知っていますか?

(写真/PIXTA)

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近い将来の大規模地震の可能性が指摘される中、誰もが気になるマイホームの耐震性。マンションの旧耐震と新耐震について、改めて確認。これからマンションを買う人も、すでにマンションを所有している人も参考にしてみてください。

リノベ団地の工夫とサブスクリプション型住宅サービスの詳細が、ともにランキング内に2本登場しているのが印象的でした。その根底でうかがえるのは、地域と、人どうしのつながりの重視。家を選ぶことは、人とのつながりを求めることと同義であるのかもしれません。

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年末大掃除シーズン到来!床拭きの頻度はどの程度?二極化する掃除実態

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年末大掃除シーズン到来!床拭きの頻度はどの程度?2極化する掃除実態

年末の恒例行事といえば一家総出の「大掃除」か思い浮かぶが、最近では年末に大掃除をしない家庭も増えてきた。しない理由は、年代によって多少異なるようだ。大掃除の実態や二極化している様子を、アイロボットジャパンの調査結果から見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
「年末の大掃除に関する意識調査」結果を公表/アイロボットジャパン恒例ではなくなる!?家族で年末に大掃除をするのは約半数

お宅では、年末に大掃除をするだろうか?

実はこの時期に、年末の大掃除に関する調査結果が公表されることが多い。花王が実施した「『2018年の年末大掃除』に関する調査」では、2018年の年末大掃除の実施率は58%だった。また、ダスキンが実施した「第15回 ダスキン 大掃除に関する意識・実態調査」では、2018年の年末大掃除の実施率は55.9%で、過去3番目に低い実施率だったという。

一方、アイロボットジャパンが「年末に家族で大掃除をしますか?」と聞いたところ、「家族で大掃除をする」が50.3%と半数に達し、「家族では行わないが自身で行う」の28.7%と合わせると、79.0%が年末に大掃除をすると回答している。

Q:年末に家族で大掃除をしますか(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:年末に家族で大掃除をしますか(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

さきほどの花王の調査で、「2019年の年末に大掃除をする予定があるか」を聞いたところ、77%が実施予定だと回答していることから考えると、質問の仕方が「昨年に実施したか?」と「年末に大掃除をするか?」とでは、回答が多少異なるのだろう。

ただ、家族で年末に大掃除をする恒例行事的な習慣は、薄れつつあると言えそうだ

大掃除をしない理由は、年代によって異なる?

では、年末に大掃除をしない理由は、どういうものだろう?
アイロボットジャパンの調査結果によると、48.8%が「年末は忙しいので別の時期に掃除をする」と、42.9%が「日常定期的に掃除をしているので大掃除はしない」と回答し、理由は大きく2つに分かれた。「大掃除は業者に頼むので自分ではやらない」は4.8%だった。

2大理由ともいえる、「日常掃除で済ます」と「年末以外に行う」については、年代によって傾向が異なる。20代・30代では「日常掃除で済ます」派が多く、40代・50代では「年末以外に行う」派が多い。

Q:年末に大掃除をしない理由(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:年末に大掃除をしない理由(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

実は、最近は「秋掃除」や「春掃除」が効果的だと言われている。理由はいくつかある。
・油汚れなどが緩んで落としやすい
・水が冷たくない、お湯の温度を維持しやすい
・寒くないので窓を開けたままにできる
・洗ったものが乾きやすい
そう考えると「年末以外に行う」派は合理的といえるだろう。

普段おろそかにしている玄関まわりや窓まわり、カビ取りなど、日常の掃除だけでは手が回らないことも多い。日常の掃除に加えて、気になったときに小まめに“小掃除”するのが効果的だ。まとめてやるとなると億劫になるので、小掃除を習慣化することで効率アップを図る人も多いだろう。

「年末に大掃除をしない」背景には、それぞれの年代で、自分たちのライフスタイルに応じた合理的な掃除の仕方を工夫しているから、という見方もできる。

床拭きの頻度に大きな違いがあった!年1回程度VS週1回以上

さて、SUUMOジャーナル編集部と調査結果を見ていて注目したのは、「床拭きの頻度」だ。
この調査でいう床拭きが、水拭きを指すのか、から拭きだけでも床拭きというかは分からないが、床拭きの頻度はかなり二極化していた。

「日常の床拭きの頻度」を聞いたところ、最多は「週1回以上」の33.6%で小まめに床拭きをしている様子がうかがえる。次いで多かったのは、「月に1回程度」の29.1%だった。一方で、「大掃除の時や年に1回程度」が15.3%、「まったくしない」が15.5%と床拭き消極派が約3割もいることが分かった。

Q:日常の床拭き掃除の頻度(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:日常の床拭き掃除の頻度(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

また、「自宅内で最も拭き掃除が必要と思われる箇所」を聞くと、1位が「リビング・ダイニング」(38.3%)、2位が「キッチン」(35.9%)だった。

敬遠されることもある床拭きだが、目には見えないホコリや汚れが床には残っているもの。消極派の方には、見直してほしい。掃除機をかけた後に水拭きでしっかり汚れを取り、水分を残さないように乾かすことがポイントだ。

ところで、江戸時代には、大掃除ともいえる“煤払い(すすはらい)”をした後、胴上げをしたということをご存じだろうか?

筆者の「連載:江戸の知恵に学ぶ街と暮らし」に執筆したが、江戸時代には電気はないので火を使うために室内に煤がたまり、その煤を払い落とす習慣があった。大掃除というだけでなく、正月を迎えるお清めの儀式でもあったので、大きな商店では煤払いの後に、食事や酒がふるまわれ、時には胴上げをするなどのお祭り騒ぎになった。『東都歳事記』にもそうした絵が描かれている。

年末に大掃除をしないとしても、新年を気持ちよく迎えるために、正月の準備はきちんとしたいものだ。

●取材協力
花王
ダスキン元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169347_main.jpg

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「恩送り基金」を創設し次世代へ託す。終活を楽しむ暮らし あの人のお宅拝見[15]

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「恩送り基金」を創設し次世代へ託す。終活を楽しむ暮らし あの人のお宅拝見[15]

今回お宅訪問したのは、元リクルートワークス研究所の名物研究員で筆者の大先輩の角方正幸さん。今年古希(70歳)を迎えた角方さんから『謝縁会』と名付けられた会への招待状が届き、「これはもしやいわゆる生前葬?」と不安なまま会に赴くと……。その件も交えて今に至る人生話を、プライベートな暮らしぶりを拝見しながら伺いました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にたずさわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「意志のある寄付で社会を変える」を自ら実践

角方さんは熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。もちろんお住まいは横浜市、駅前ながら遊歩道の緑を望む好立地にある一戸建て。

取材日は生憎の雨でどんよりですが、緑豊かな遊歩道に面した高台に建つお宅(写真撮影/相馬ミナ)

取材日は生憎の雨でどんよりですが、緑豊かな遊歩道に面した高台に建つお宅(写真撮影/相馬ミナ)

お部屋に招き入れていただくと「見て見て、コレ!」と、角方さんがうれしそうに手招きし、見せてくださったのがこちら。

バンダイ社がケンウッドと協力して開発されたエンターテイメント・オーディオ・ロボット(写真撮影/相馬ミナ)

バンダイ社がケンウッドと協力して開発されたエンターテイメント・オーディオ・ロボット(写真撮影/相馬ミナ)

ジャズの音楽が流れると、演奏しているかのように動きだした人形たち。ピアノ・ギター・ドラム・サックスなどのバンドマンと、よく見ると……歌手が美空ひばりだ!

『美空ひばりジャズを唄う』バージョン。音響は6.1chシステムの本格サウンド(写真撮影/相馬ミナ)

『美空ひばりジャズを唄う』バージョン。音響は6.1chシステムの本格サウンド(写真撮影/相馬ミナ)

「家に帰ってチョッと一杯やるときにこれをかけると、雰囲気のいいBarにでも居る気分だよ。こういう手づくり感のある物が好きなんだ」と、ご満悦。
DIYはじめ何事も手づくりが得意な角方さんらしい、お気に入りの一品です。

さて6月に開催された『謝縁会』のお話に。これも手づくり感たっぷりの素敵な会でした。
『謝縁会』は、寄付文化の創造を目指すパブリックリソース財団の理事でもある角方さんが考えた“新しい形の生前葬”。

「元気なうちに、ご縁のあった方々へ感謝を伝えたかったのと、『恩送り基金』を設立したので、その紹介もしようと思ってね」
“元気なうちに”というのも、角方さんは60代でガンなど3度も大病を経験したことから、古希70歳のタイミングで実施を決意されたそう。

会場の前方演壇に、角方夫妻がそろって着席。参加者は家族から仕事関係者、ご近所さんなど約150人が20テーブルに分かれて座り、これから何が起こるのかと興味津々。

演壇に飾られていた絵は、若き角方さんが描いた当時の“将来の妻”、今の奥様です! 油絵を描いていたことが、お二人の馴れ初めのよう(写真提供/角方さん)

演壇に飾られていた絵は、若き角方さんが描いた当時の“将来の妻”、今の奥様です! 油絵を描いていたことが、お二人の馴れ初めのよう(写真提供/角方さん)

会場には絵のほかにも、お仕事の軌跡や家族・友人たちとの思い出の写真など、角方さん作の数々が展示されていました。
昨今、お葬式でも故人を偲ぶものが飾られたりしていますが、ここは生前葬的『謝縁会』。華やかな飾り付けを前に、参加者とご本人が一緒に当時を懐かしみ、笑い声が響いていました。

縁ある方々からのスピーチ、色とりどりのお料理も縁あるものをチョイスされていて、心のこもったおもてなしをたくさんいただきました。
角方夫妻の歩みを紹介するビデオを一同感慨深く見入り、角方さんが恩送り基金として『角方基金』を創設した思いを知ることができました。

『謝縁会』当日参加者に配られた、プログラムと150人にもなった参加者の一覧表(写真提供/角方さん)

『謝縁会』当日参加者に配られた、プログラムと150人にもなった参加者の一覧表(写真提供/角方さん)

「若い人たちの教育支援が私のライフワーク。これまで皆さんからいただいた恩を、次世代に送る仕組みとして基金をつくることにしたんだ」
ご自身が1000万円を寄付して基金を設立。基金が支援する目的や活動団体に共感すれば、誰でも、いくらからでも、“意志のある寄付”をこの基金へできるのです。

感謝の気持ちを一番伝えたかったのは、やはり奥様。全員集合の写真撮影にて3時間強の会を締めくくった(写真提供/角方さん)

感謝の気持ちを一番伝えたかったのは、やはり奥様。全員集合の写真撮影にて3時間強の会を締めくくった(写真提供/角方さん)

「『謝縁会』参加者からも寄付をいただきましたが、全く知らない方からも支援目的を知って寄付があり驚いています」。そんな寄付文化を日本にも根付かせようと自ら実践されています。
基金からの支援先には、教育の格差是正や障害者教育などの活動をしているNP0をいくつか選定しているそうです。

企業人、地域人、家庭人としての「三位一体」の人生

『謝縁会』に招かれた方々には、仕事関係者である私が知らない角方さんの縁者がたくさんいらっしゃいました。
常々、角方さんがモットーに掲げている ~企業人、地域人、家庭人としての「三位一体」の人生~ を垣間見た気がします。

今のお住まいへは、2001年に同じニュータウン内のマンションから転居されたそう。
3人の子育て中だったマンション時代も管理組合理事長に始まり、『みどりの会』なるものを設立して竹炭づくりを夜通し楽しむなど、住民のコミュニティーづくりを“地域人”として率先されてきたようです。
「この家を買ったのも、面白い縁があってねー!」と、今に至る話を聞かせてくれました。

庭の向こうに見える隣家を指して
「実は分譲時に、私たちが申し込んだのは隣の家なの。ただ、妻が子ども3人に個室が欲しいと5LDKを希望していたのに、残っていたのは4LDK。この家に申し込んだのは偶然、知人だったんだけど、反対に知人家族は大きな和室を希望。4LDKの方が広い和室だったので、お互いの要望が一致。余分な費用がかかったけれど交換できる手続きを取り、めでたく入居したという経緯(笑)」

リビングに面してウッドデッキのあるお庭の向こうが、入居前から懇意のお隣さん。もちろん『謝縁会』にもご出席(写真撮影/相馬ミナ)

リビングに面してウッドデッキのあるお庭の向こうが、入居前から懇意のお隣さん。もちろん『謝縁会』にもご出席(写真撮影/相馬ミナ)

お話を伺っていると、愛猫ココちゃんがニャオニャオ「外へ行きた~い」とアピール。

とっても人懐っこいココちゃん(12歳)角方さんに似て、ご近所付き合いが良く、あちこちでオイシイ思いをしているらしい(写真撮影/相馬ミナ)

とっても人懐っこいココちゃん(12歳)角方さんに似て、ご近所付き合いが良く、あちこちでオイシイ思いをしているらしい(写真撮影/相馬ミナ)

ドアを開けるとココちゃん、まずはお隣へご挨拶に?

ココちゃんが渡っている橋は、フェンスを切ってお隣の勝手口に直結してる!(写真撮影/相馬ミナ)

ココちゃんが渡っている橋は、フェンスを切ってお隣の勝手口に直結してる!(写真撮影/相馬ミナ)

「当初は子どもも3人いたし、お互い物のやりとりやら行き来が多かったので、玄関回るより早いでしょ。これも全部、私がDIYでつくったんだけどね」
えっ?ウッドデッキも、パーゴラもテーブルセットも全部、角方さんの手づくりとは驚きです!

なんと!立派なピザ窯も手づくり。レンガを積んで本格的。水道栓までつくり付け、余った木材で緑のラティスもつくってしまった角方さん(写真撮影/相馬ミナ)

なんと!立派なピザ窯も手づくり。レンガを積んで本格的。水道栓までつくり付け、余った木材で緑のラティスもつくってしまった角方さん(写真撮影/相馬ミナ)

「これも見て」と扉を開けた中からは、ダーツのボードが現れました。

「ちゃんと競技用の距離から、投げられるようにセットしてあるんだよ」。人が集まっても飽きさせない遊び心満載のガーデンテラス(写真撮影/相馬ミナ)

「ちゃんと競技用の距離から、投げられるようにセットしてあるんだよ」。人が集まっても飽きさせない遊び心満載のガーデンテラス(写真撮影/相馬ミナ)

私は“企業人”角方さんを調査研究のプロとして尊敬してきましたが、今回DIYガーデンを拝見して“家庭人”角方さんの一面に驚くばかり。

DIYの工程を写真と共に「2002年手作りガーデン日記」としてファイリング。これは角方さんらしいシステマチックな記録(写真撮影/相馬ミナ)

DIYの工程を写真と共に「2002年手作りガーデン日記」としてファイリング。これは角方さんらしいシステマチックな記録(写真撮影/相馬ミナ)

その工程は、土台づくりから始まっていました。設計図もご自分で書いた様子(社会工学科卒なのに)。
「子どものころから絵より図工が上手かったんだ、親父の影響かな……」。
その創作力が角方さんの息子さんにも受け継がれていく、家庭人としての“恩送り“。

庭にウッドデッキ用の土台をコンクリートで打った基礎。息子さんもホームセンター通いからお手伝いされたそう、今となっては素敵な思い出になっていることでしょう(写真提供/角方さん)

庭にウッドデッキ用の土台をコンクリートで打った基礎。息子さんもホームセンター通いからお手伝いされたそう、今となっては素敵な思い出になっていることでしょう(写真提供/角方さん)

手にはパソコンを刷毛に変え、デッキを塗装中の角方所長(笑)。

お手入れもされているだけあって、18年経っても頑丈でツヤツヤのウッドデッキでした(写真提供/角方さん)

お手入れもされているだけあって、18年経っても頑丈でツヤツヤのウッドデッキでした(写真提供/角方さん)

このウッドデッキで、ご近所さんや家族親戚を招いてBBQやピザパーティーを楽しまれるそう。

同時に新築入居した5軒の家族が、持ち回りで毎年催すパーティーの様子。今年で19回目だそう!(写真提供/角方さん)

同時に新築入居した5軒の家族が、持ち回りで毎年催すパーティーの様子。今年で19回目だそう!(写真提供/角方さん)

予想外なDIYの実力に圧倒されてしまいましたが、角方さんの全ての原動力は周りの皆が喜ぶ顔なのだと感じました。素晴らしい“家庭人” “地域人”の姿を初めて拝見しましたが、そこは“企業人”角方さんのスタンスと変わらぬ姿。~企業人、地域人、家庭人としての『三位一体』の人生~、そのものです。

角方基金で次世代の社会に“恩送り”、家族・孫には“愛情送り“

70歳今なお現役で、リアセック キャリア総合研究所所長の角方さん。ご自宅でもお仕事をされるようで、寝室には大きなデスクの書斎コーナーが。

「この椅子は姿勢が良くなるんだよね」と、バランスチェアに腰掛けてお仕事(写真撮影/相馬ミナ)

「この椅子は姿勢が良くなるんだよね」と、バランスチェアに腰掛けてお仕事(写真撮影/相馬ミナ)

背後も全面書棚でしたが、正面の棚には独立された3人の息子さん家族との写真などが並べられています(写真撮影/相馬ミナ)

背後も全面書棚でしたが、正面の棚には独立された3人の息子さん家族との写真などが並べられています(写真撮影/相馬ミナ)

「3時ころには、妻が孫を連れて帰ってくるはず」と、おっしゃっていた矢先にお孫さんが学校から帰宅。

「お帰り~!」近居のお孫さんは共働きの両親が帰宅するまで、祖父母宅で過ごすのが日課。お孫さんも第二のわが家のようにリラックス(写真撮影/相馬ミナ)

「お帰り~!」近居のお孫さんは共働きの両親が帰宅するまで、祖父母宅で過ごすのが日課。お孫さんも第二のわが家のようにリラックス(写真撮影/相馬ミナ)

実は角方さん宅の窓からは、小学校の通学路になっている遊歩道を眺めることができます。

取材日も朝の通学時に、お孫さんを見つけて手を振る奥様。孫育てを楽しんでおられます(写真撮影/角方さん)

取材日も朝の通学時に、お孫さんを見つけて手を振る奥様。孫育てを楽しんでおられます(写真撮影/角方さん)

「子どもたちが下から眺めると面白いだろうと思って、風見鶏を飾ってるんだ。毎年、新しいものを買ってきてね」
一年くらいで壊れるため毎年行く軽井沢で購入されるらしく、これまた手づくりクラフト感のある風見鶏。

通学路からこれを見つけて笑う子どもの顔、素敵な情景が目に浮かぶ(写真撮影/相馬ミナ)

通学路からこれを見つけて笑う子どもの顔、素敵な情景が目に浮かぶ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

古希の『謝縁会』を終え、次にやりたいことは何ですか?と尋ねると
「ゴルフでエイジシュート(※)を達成したいんだよね」と、これまた違う角度から答えが返ってきて驚き(笑)。
※ゴルフの1ラウンド(18ホール)を、自身の年齢以下の打数でホールアウトすること

「元気なうちにやらないと意味が無いんだよ!」と、病気や認知症など判断力を失う前に人生のしまい方を考えるべきと教えてくれました。『謝縁会』や『角方基金』、高齢社会の新しい選択肢を見せてくれる団塊の世代は、いつもわれわれのロールモデルです。

角方正幸
株式会社リアセック キャリア総合研究所所長。
1949年東京生まれ。1972年東京工業大学社会工学科卒業後、三井情報開発株式会社総合研究所を経て1984年株式会社リクルート入社。リクルートリサーチ、ワークス研究所で教育・労働分野を調査研究。2009年リクルート初の男性定年退職者に。同年より現職、神奈川県参与、株式会社大学改革代表取締役に就任。2012年パブリックリソース財団理事、NPO「まちと学校の未来」監事、桜美林大学大学院客員教授
株式会社リアセック キャリア総合研究所
公益財団法人パブリックリソース財団
角方基金(オンライン寄付サイト「GiveOne」内)元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169459_main.jpg

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「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

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「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

2019年も残りあと数日となりました。今年の不動産界隈ではどのような出来事がおこったのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に、5つのキーワードで2019年の不動産市場を振り返っていただきました。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:災害とその対策
キーワード2:マンション管理の「質」に焦点
キーワード3:省エネ義務化 見送り
キーワード4:住まい選びはますます多様に
キーワード5:不動産価格は今がピーク?

詳しくみていきましょう。

●キーワード1:災害とその対策

台風15号や19号は国内各地に甚大な被害をもたらしましたが、浸水が発生したのはおおむね被害が想定されていた地域も多く、あらためて「ハザードマップ」の有効性がクローズアップされました。現在は不動産を売買・賃貸する際にハザードマップの説明をすることは必ずしも義務化されておらず、浸水可能性の有無を知らずに買ったり借りたりしているケースも。しかし今後の気候変動の趨勢(すうせい)を考えれば、法改正でハザードマップの説明が義務化される可能性は高く、また金融機関の担保評価項目に織り込まれることとなれば、資産価格への影響も必至だとみておいたほうが良いでしょう。

災害大国ニッポン。自身や家族の安全・安心のためにも、また不動産の資産性を守るためにも、ハザードマップの確認は必須。万一の際の避難場所の確認や防災グッズの準備も欠かせません。また、各地で大型地震の予測がされているほか、昨今は想定していなかった地域でも大型の地震が発生しています。「地理院地図」(国土地理院)などで、地盤の性質について確認しておくこともマストといえます。

●キーワード2:マンション管理の「質」に焦点(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

主に1990年代後半から建設されてきたタワーマンションが続々と大規模修繕の時期に差しかかったこともあり、マンションの「持続可能性」に注目が集まりました。マンションの大規模修繕はおおむね15年ごとに行われますが、その原資となる修繕積立金の設定は、新築時に低めに設定されていたり、段階的な値上げを予定しているケースが多く、長期的な視野に立った修繕計画が大切です。一般的なマンションでは専有面積平米あたり200円程度の積立金が必要です。例えば60平米なら1万2000円程度の積み立てができているかということ。豪華な共用施設があるマンションやタワーマンションなどではもっとかかります。マンションへの永住意識が年々高まる中、購入者もマンションの持続可能性を見極め、所有者は管理組合運営に積極的にかかわるといった風潮が強まり始めています。

●キーワード3:省エネ義務化 見送り

2020年に一定の省エネ基準が義務化される予定であったところ、住宅などついては2015年に続いて見送りが決定されました。義務化された省エネ基準のない国は先進国では日本だけであり、世界的に見ればかなり後れを取っているといっていいでしょう。

しかし長期的に見れば、気候変動対策として、または「ヒートショック」などを防ぎ健康寿命を延ばすことを目的とした住宅省エネの追求は、やがて前進することになるはず。現行耐震基準にくらべて耐震性が低いいわゆる「旧耐震」の建物が、不動産取引や金融機関の融資、税制などで待遇に差があるように、やがて省エネ性の行程で、住んでいての快適性はもちろん、資産価格にも差がつく時代が来るでしょう。

●キーワード4:住まい選びはますます多様に

これまで住まいといえば「賃貸か持ち家か」といった2択でしたが昨今では、特定の住居を持たず定期的に居住地を移動する「アドレスホッパー」や、都心や地方といった複数の拠点を居住地とする「複数拠点居住」といった、新しいライフスタイルが台頭し始めています。

また「新築か中古か」といった2択も、ガス・電気・水道などのライフラインや構造躯体の性能を必要に応じて更新・改修したり、ライフスタイルに合わせ間取りや内外装を刷新する「リノベーション」の普及によってその境目もあいまいになってきました。

従来の常識や価値観にとらわれない多様な暮らし方は、今後もますます広がっていくでしょう。

●キーワード5:不動産価格は今がピーク?(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

国内最高価格を誇る銀座4丁目の交差点周辺の地価上昇率は2017年にピークを迎え2018年、2019年とその上昇率が鈍化。このペースでいくと2020年のその上昇率はほぼゼロないしはマイナスに転じそうです。2012年12月の民主党から自民党への政権交代以降、株価が上昇するのと同様に、都心部・都市部を中心に上昇を続けてきた国内不動産価格も潮目が変わる可能性が高いでしょう。

「不動産投資家調査」(日本不動産研究所)においても、2020年が不動産価格のピークとみる向きが多いようです。

また東京より不動産価格の高いロンドンや香港・上海・ニューヨークなどの米主要都市も、米中貿易戦争やブレグジット、香港デモといった世情を受けピークから下落が鮮明。東京都心部から始まった不動産価格の上昇は転換期を迎えそうです。

【最後に】

歴史を振り返れば、元号の変わり目には大きな社会変化が起きてきました。大正から昭和に変わった翌年には最大商社(鈴木商店)が破綻、2年後に世界大恐慌へ。昭和から平成となった年末に株価は4万円近くのピーク、翌年の大発会で大崩れし、その後戻ることはありませんでした。数年たち「あれがバブル崩壊だった」と気づきます。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉がありますが、1990年バブル崩壊から衰退の30年を経過した今、社会には30年サイクルがあるように思えます。1960~1990年はいわゆる戦後を脱し「モーレツ」な高度経済成長。1930~1960年は恐慌から戦争へと突入し敗戦とその処理。1900~1930年は日清・日露戦争に勝利し先進国の仲間入り。さらに30年前は明治維新です。

いま、世界の債務は2京円を超え過去最大。ブレグジットで揺れるEU、多額のデリバティブ商品を抱えるドイツ銀行、米中貿易戦争、香港デモなど、世界の金融システム、ひいては政治経済を大きく揺るがす可能性のある火種はいくらでも転がっています。

思えば1990年のバブル崩壊、2000年初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、金融ショックはおよそ10年ごとに起きてきました。前回リーマン・ショックの際には、米国政府がファニーメイやフレディーマックといった住宅系金融機関に公的資金を投入したところ批判が相次ぎ、民間金融機関であるリーマンブラザースを放置したところあのような事態となりました。リーマン・ショックから10年あまり、2020年以降の金融システムに変調があるか、着目しておきたいところですね。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169530_main.jpg

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お墓は必要? 将来どうする? 漫画で「墓活(はかかつ)」を考えよう

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お墓は必要? 将来どうする? 漫画で「墓活(はかかつ)」を考えよう

お墓って、先祖代々のもの。自分もそこに入り、子孫が弔ってくれるってイメージ。でも、「子どもは女子だけで嫁いで姓も変わってしまった」「お墓が田舎にあって管理が難しい」「一生独身を楽しむ予定」など、時代とともに必ずしも先祖代々の墓を継いでくれる人がいるとは限らない状況も増えているようだ。どうすればいいか答えが見つからず、結果的に面倒くさいお墓まわりの諸問題。「でも本当はいろんな解決法があるんだよ」、と漫画家・井上ミノルさんは『まんが 墓活』(140B 刊)で描く。少子化、人口減少、非婚の進むニッポン。現生の住宅と同じようにあちらのお家も多様化が進む。井上ミノルさんに、漫画に込めた思いを聞いた。
「代々墓」は続かない。でも選択肢はいっぱいあるお墓事情『まんが 墓活』(井上ミノル 著、140B 刊)

『まんが 墓活』(井上ミノル 著、140B 刊)

終活、墓じまい、墓友。どれもが、最近よく耳にする言葉だ。では、本のタイトルにある「墓活」とは、どういう意味なのだろうか。

「墓活とは、ご先祖の墓を移す墓じまいのことだけを指す言葉ではない、と考えています。自分自身と縁で結ばれた方を偲ぶ場所としてのお墓をどうするのか、まず、みんなで考えること自体が墓活だと思います」(井上ミノルさん:以下同)

「そもそも、幕府が統治制度として寺請制度を創設し、檀家、菩提寺という仕組みができました。また、先祖代々の墓という形も、そんなに長い歴史のあるものではないのです。明治になるまでは庶民には姓すらなかったわけで、江戸後期までは地域の集団墓や共同墓、または個人墓が普通だったようです。代々墓は明治期に制定された家長制度(家制度)のもとで一般化した形態だと思われます」

「わたしのお墓」のページより(画像提供/140B)

「わたしのお墓」のページより(画像提供/140B)

家長制度がなくなった時点で、代々墓のシステムが続かないのは、自然な話だと井上さんは言う。
本に紹介されているのは、みんながイメージで描く「代々墓」から離れた、新しいお墓の形だ。姓の違った者同士が入る合同墓や、夫婦だけのお墓など。お墓と呼べるものだけではない。納骨堂や、永代供養、散骨まで。仏像の内部にお骨を納めて供養する「お骨仏(こつぶつ)」まで紹介されている。

故人を悼み敬うお墓の形は、どんどん変わってバリエーションも増えてきているという。しかもお墓に入るのは、家を単位としたつながりだけではない。実際に宗教関係者の話として、「誰と入ろうが自由だと、お話しします。姓がちがっても、友人同士でも、同性のパートナーでも一緒のお墓に入ればいいと」

「気の合う仲間と墓を建てるのアリですか?」のページより(画像提供/140B)

「気の合う仲間と墓を建てるのアリですか?」のページより(画像提供/140B)

江戸時代から檀家制度のもと、お墓を守ってきたお寺も変わってきている。漫画の執筆にあたり、さまざま種類のお墓や、お寺の住職、宗教関係者などに取材を重ねたという井上さんが特に印象に残ったお寺のお墓は?と尋ねると、「大阪の堺にある由緒ある古寺・月蔵寺(がつぞうじ)の永代供養墓です」とのこと。「大阪芸大の先生が設計した空間は、水が流れ季節の草木に囲まれたデザインで、亡くなった人を偲びながら心地よく過ごすというイメージです。なんといっても自然と調和した明るく楽しい空間で、これなら人も集まりやすいだろうなぁって」。そこでは、法要だけではなくコンサートやイベントも催され多くの人が集まるという。

このお寺では、宗派を問わず受け入れている。「人が集まって気軽にご先祖様に会いに来ることができる場所でありたいと、住職さんは語ってくれました。お寺というのは、もともと地域のコミュニティのような存在だったのだと気付かされました」

本の中で数多く紹介されているように、お寺も宗派も超えてより開かれたものへと、変わってきているようだ。

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

堺市「月蔵寺」紹介ページより(画像提供/140B)

生きている人のために、「墓活」を考える

実際には思ったより自由で、選択肢が広がる墓活。井上さんに聞いた。究極、墓は要らない?
「お墓の前でおじいちゃんはこんな人だったんだよ。あの人はね、これが好きでね。と子どもたちに話ができる。そういう場所として、お墓はとても大切だと思うのです。でも、家だけを重視したつながりで、お墓を維持していこうとするならば、どこかで無理が生まれます。家という枠を超えて、自分につながる人を悼み、敬う場所は必要。なくならないと思います」

現実問題として、受け継ぐ人がいない、お墓を維持することに負担を感じると悩む人が多い。
「お墓という言葉や形にこだわらず、自分自身と深い縁で結ばれた人を悼み、敬う場所は、生きている人のためにあると思えばどうでしょう。日本では地域によっては、墓前で先祖に思いをはせながらお酒を酌み交わし、楽しむ葬礼文化も残っています。埋葬は、動物にはない人間の人間たるゆえんと、宗教学者の釈 徹宗(しゃくてっしゅう)先生もおっしゃっていました。だから、負担にならない方法で、面倒くさくない方法で、弔いを考えることが大事なのだと思います。ややこしい先入観を捨てて」

著者:井上ミノルさん(写真撮影/140B)

著者:井上ミノルさん(写真撮影/140B)

実に多彩な墓活。その選択に当たっては家族や親類縁者でも、それぞれ意見が異なってくることも多い。では、どうやって決めたらいいのか。

「永代供養墓も納骨堂も樹木墓地も、散骨も、実際にみんなで行って、話を聞いて、感じてみることです。素敵だなとか、あ、これはなんか違うなあとか」

お墓の引越しも、当然アリだと話す。「生活の場所が変わり、遠くへお参りに行くのを負担に感じたり、今のお墓が縁遠くなったら、お墓も引越しです。一度決めたら永遠に守り続けなければ、という考えも捨ててみてください」。現生の住宅と同じ、ライフスタイルに合わせてあちらのお家も考えるということか。

ただ、墓じまいをしようとすれば、役所に届けが必要であったり、日本ではお墓に関しては、法律によってさまざまな規制に守られている。散骨するにしても、どこに撒いてもいいというものでもない。そこは、よく注意してほしいと、井上さんは言う。

普段は話題にすることもはばかられる「お墓」の話。避けて通るのはなく、明るく家族みんなで話し合う。楽しいイラストで綴られた『まんが 墓活』がそのきっかけになれば、と井上さんは語った。

●取材協力
井上ミノル
イラストレーター&漫画家。神戸市生まれ。2000年にイラストレーターとしてデビュー。生来の国文好きを活かして、2013年にコミックエッセイ『もしも紫式部が大企業のOLだったなら』を刊行。続いて『もしも真田幸村が中小企業の社長だったなら』『こどもが探せる川原や海辺のきれいな石の図鑑』(以上、創元社)などを上梓。専門的で難しいことも、おもしろくて分かりやすいイラストで描くことでは定評がある。好奇心旺盛でお酒好きの二女の母。
Twitter●株式会社140B(イチヨンマルビ-)
【新刊情報】『まんが 墓活 それでどうする、うちの墓?』元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/169880_main.jpg

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日本に居ながら留学生活? 多国籍シェアハウスのリアルな住み心地を聞いてみた

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日本に居ながら留学生活? 多国籍シェアハウスのリアルな住み心地を聞いてみた

外国人と日本人が一つ屋根の下で暮らす、多国籍シェアハウス「ボーダレスハウス」。日本に居ながら、留学生活のように異文化に触れ合え、語学力が向上するとあって近年注目を集めている。国内では東京、大阪、京都に77棟(2020年1月時点)を運営しており、世界各国から集まった入居者は累計で10000名を超えるそうだ。その魅力や実態について、実際に住んでいる日本人、外国人の双方にお話を伺った。
住まいで語学を学びたい今回取材させていただいた杉並区のボーダレスハウス(写真提供/ボーダレスハウス)

今回取材させていただいた杉並区のボーダレスハウス(写真提供/ボーダレスハウス)

今回、訪れたのは東京都杉並区にある「ボーダレスハウス」。誕生は2017年。中庭テラスを挟んだ2棟にはそれぞれ12人ずつが暮らしている。

ボーダレスハウスに住むユイさん(左)とアリさん(右)(写真撮影/小野洋平)

ボーダレスハウスに住むユイさん(左)とアリさん(右)(写真撮影/小野洋平)

お話を伺ったのは、日本の大学に通うユイさん(左)とフィリピン出身のアリさん(右)。はじめにボーダレスハウスに入居することにした理由を聞いてみよう。

アリさん:私は来日時、日本に知り合いがいなくて不安だったからです。それと、フィリピンに住んでいたころになんとなく、自分のシェアハウスをつくりたいという夢があったからですね。実際に住むことで、いろんな国の人と友達になれますし、自分の夢を実現するためには良い勉強になると思って、ここを選びました。

―ユイさんはどういったきっかけでしょうか?

ユイさん:昨年、フィリピンで語学留学をしたのがきっかけです。英語が全く話せない私に対して、現地の方々はものすごく優しくしてくれました。そのときに“いつか英語が話せるようになったら恩返しする!”と約束してきたんです。帰国後、とにかく英語を早く話せるようになりたい。だけど、今の大学をやめて留学するのは難しい。そんな中で見つけたのがこのボーダレスハウスでした。

―実際に英語は上達しているのでしょうか?

ユイさん:昔は道を聞かれても拙い英語でしか伝えられなかったですが、今ではちゃんと説明できるようになりました。バイト先でも海外のお客さんが来られたときは、私から積極的に話しかけるようにもなりましたよ。

―すごい成長ですね。毎晩、レッスンをされているんですか?

ユイさん:レッスンまではいかないですが「この1時間は英語だけね」ってルールを設けたりして、とにかく毎日必ず誰かと英語で会話していました。

アリさん:逆に日本国外からやってきた私たちも日本語を学びたいときは「1時間は日本語だけね」ってルールも提案していたのでWin-Winな関係だと思います。人によっては、来日したばかりで日本語が喋れない方もいます。だから、普段は日本語に英語を混じえながら教え合っています。

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―日本人の入居者は、やはり「英語を学びたい」と思って入居される方が多いのでしょうか?

ユイさん:ボーダレスハウスには、「入居者の半分は外国の方」という決まりがあります。そのため、私のように“前に留学していました”とか“仕事で使えるようになりたい”など理由はさまざまですが、外国語を使いたい意欲的な日本人が集まっていますよ。

アリさん:日本語が話せない外国人にとっても、ボーダレスハウスは良い環境だと思います。というのも、英語が通じる入居者がいるため、日本語で表現するのが難しいことでも誰かしらに伝えられます。私もはじめは日本の方に言いたいことが伝えられず、ここで英語を使ってストレスを発散していました(笑)。

―日本人にとっては英会話スクールよりも上達が早そうですね。

ユイさん:本当にそう思います。英会話スクールほどお金はかからないですし、自分の好きなタイミングで練習ができますから。しかも、教科書の言葉ではなく、実際に使われている「活きた言葉」を自然に身につけられるのは、ここならではのメリットです。

アリさん:良くも悪くも留学とは少し違う環境です。無理して言葉を覚える必要はないですし、絶対に喋らないと生きていけない状況でもありません。だからこそ、自分に喝を入れられる人でないと、なかなか喋れるようにはならないのがボーダレスハウスの特徴だと思います。

国籍を超えたハウスメイトとの出会いハウスメイトで行ったスノーボード旅行(写真提供/アリさん)

ハウスメイトで行ったスノーボード旅行(写真提供/アリさん)

―ハウスメイト(同じ物件に暮らす人)同士の仲は良いですか?

ユイさん:ここは良いと思います。よくハウスメイト同士で旅行に行っていますし、最近ではクリスマスパーティーを開催しましたから。とにかくパーティーがみんな好きなんですよね(笑)。あと、パーティーに限らず、お互いがつくったいろんな料理を食べることができたり、教わることができるのも魅力だと思いますよ

―確かに、さまざまな国の食文化が学べそうですね。

ユイさん:普通に日本で暮らしていたら、きっと知らなかった調理法やつくらなかった料理に出会えるんですよ。前にいろんな形のパスタをつくってもらったときは驚きましたね。

アリさん:世界各国から人が集まっているだけあって、餃子パーティーやピザパーティーも本格的です。ここを退去する際に、自分の故郷の料理をふるまうのは恒例行事になりつつありますよ。

―楽しそう! 話を聞いていると、住みたくなってきます。

ユイさん:本当に住んで良かったと思います。私自身は、知らない人と住むことにストレスは感じないですし、「ただいま」と「おかえり」のコミュ二ケーションが取れるだけで幸せですね。前にバイト後、落ち込んで帰ったとき、みんなが心配して話しかけてくれました。私にとっては、もう一つの家族だと思っています。

アリさん:私も日本語以外に、お祭りにみんなで行けたり、日本料理を教わったりと、文化を多く学べてうれしいですね。

ハウスメイトで行ったクリスマスパーティー(写真提供/アリさん)

ハウスメイトで行ったクリスマスパーティー(写真提供/アリさん)

―逆に仲が良すぎて、騒ぎすぎてしまうといったことはないですか?

アリさん:盛り上がりすぎてしまうことは、たまにありますね(笑)。他の入居者に迷惑がかからないよう、ドアを閉める、などの配慮はしています。ただ、「少しうるさいよ」とか「テーブルの上を片付けてね」など、どうしても言いたいときは共通のライングループを使ったりしています。こまめにコミュ二ケーションを取ることは共同生活において大事なことですから。

―家事は当番制なのでしょうか?

ユイさん:前にゴミ捨てや、浴室掃除を当番制にするか話し合ったことがあります。結果、当番制にはならなかったですが、代わりに気付いた人は率先して行うこと、そして「ありがとう」と「ごめんね」はちゃんと伝えること、などのルールが決まりました。とても当たり前のことですが。共同生活では特に重要なことだと思います。

アリさん:時に怒ることもありますが、伝え方は気をつけるポイントです。「〇〇の件なんだけど、どういうこと?」って頭ごなしに言っても良い方向にはいかないですからね。怒ったときに限らず、うれしいときや悲しいときなど自分の想いを伝えるために語学を勉強するようになれば、結果的に良い循環が生まれると思います。

―たしかに。では、文化の違いで困ったりすることはないですか?

ユイさん:基本的に良い人ばかりですけど、やはり価値観は違いますよね。でも、私は国の差というより個人の差だと思っています。どこの国だからとかではなく、結局は個人の性格。どこの国でも大雑把な人も几帳面な人はいますから。ただ、ここの住人は受け入れる心や協調性を持っている方が比較的多いですね。

―多様性を知る機会にもなりそう。語学以外の面でも成長できそうな環境ですね。

アリさん:ただシェアハウスに住みたいだけなら、わざわざボーダレスハウスは選ばないと思います。家賃がめちゃくちゃ安いわけでもないですから。それでも、あえてここを選んで来ているということは、お金以外になにか価値・魅力を感じた人が集まっているんだと思います。

新しい価値観に触れ、広がる未来(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―入居する前と後で考え方が変わったことはありますか?

アリさん:1人で日本に来たときは言葉が喋れない、知り合いがいない、料理もできないなど本当に自分は暮らしていけるのか、自信がありませんでした。でも、今はいろんな人に出会い、たくさんの経験をしたことで自分に自信が持てるようになりましたよ。

ユイさん:私も人との出会いから価値観に少し変化がありました。人生はもっと肩の力を抜いて楽しむべきって思うようになりましたね。私が引越して間も無いころ、みんなでお酒を飲んでいたときのことです。私は次の日が1限目から授業だったので寝ようとしたところ「ユイ、それでいいのか? どっちが価値あると思う?」ってハウスメイトに聞かれたんですよね。もちろん、学校の授業をサボることはいけないことですが、そのときはみんなで話している時間の方が価値があるかもしれないって思えたんですよ。

―価値観が変わったり、視野を広く持てるようになったと。1人暮らしではなかなか経験できないと思います。

ユイさん:私は実家を出るタイミングでボーダレスハウスに入居しています。多分、こんなに楽しい経験をしてしまったら、1人暮らしが寂しすぎて辛いと思います(笑)。どっちの経験もしたい方は先に1人暮らしを経験した方がいいかも……。

―ボーダレスハウスのような多国籍の方が暮らすシェアハウスは、どういった方にオススメですか?

アリさん:やっぱり、コミュ二ケーションを取るのが好きな人ですかね。外国の人だけでなく、いろんな人に出会いたい、話したい人。あとは、フットワークが軽くて旅行が好きな人もいいかもしれません。

ユイさん:はじめ、両親は反対していたんですよ。外国の人という以前に、男女ですし、なにかあったら心配だって。でも、今では私が楽しんでいるのが伝わっているようで、なにかあったときは逆にみんなが守ってくれる環境なので安心したみたいです。

(写真撮影/小野洋平)

(写真撮影/小野洋平)

―大学生のユイさんは、この経験が就職活動でも役立ちそうですね。

ユイさん:就活って正解が分からないじゃないですか? でも、いろんな価値観を持っている人に出会えて、しかもグローバルな目線で教えてくれるので、アドバイスに偏りがないんですよ。それに、年齢や職業もバラバラなので、幅広い目線でさまざまな業界のリアルが聞けるのでものすごく役立っています。

―ここの生活を通して、夢や目標が新たに生まれたりはしましたか?

アリさん:やはり、自分のシェアハウスをつくりたい気持ちは一層強くなりました。以前までは漠然とした夢でしたが、少しずつイメージできるようになったのはここに住んだおかげです。今は日本だけではなく、他の国でもシェアハウスをつくり、ハウスメイト同士で行き来できるようになればいいなって考えています。

―素晴らしい夢だと思います。

アリさん:英語を話せない日本人も日本語が話せない外国人も、直ぐに馴染めるのがここの魅力です。私にとっては本当にセカンドファミリーのような、帰りたくなる居心地の良い雰囲気があります。だから、私もこのようなシェアハウスをつくりたいんです。余談ですが、前にテラスハウスのオープニングムービーを真似てつくった映像があります。こういう映像を私のシェアハウスでは展開してもいいかな(笑)。

アリさんが製作した映像(動画作成/アリさん)

アリさんが製作した映像(動画作成/アリさん)

―個人の成長としても、ビジネスの面でもアリさんにとっては大きな糧になっていますね。ユイさんはいかがですか?

ユイさん:私も英語圏に行きたい気持ちが強くなりましたね。もちろん、海外での仕事は夢ですが、現段階ではまだ選択肢の1つで決めきれてはいません。ここに住み続けることで知識はきっと、どんどんと増えていくじゃないですか? だから、住んでいる間に自分の選択肢をできるだけ増やして、やりたいことを模索していこうと思います。選択肢が多いことは幸せな悩みですもんね。……むしろ決められるかな(笑)?

ボーダレスハウスのような、多国籍の住民が暮らすシェアハウスは、お互いに交流する意欲を持って一緒に暮らすことで、語学力の向上のほか、多様な文化や価値観を学ぶことができるようだ。グローバル化が叫ばれて久しいが、スキルとしての語学だけでなく深いレベルでさまざまな国のことを知るには、またとない環境なのかもしれない。

●取材協力
ボーダレスハウス元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/01/170031_main.jpg

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