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台風被害からみえてきた、災害に備えた家づくり

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台風被害からみえてきた、災害に備えた家づくり

台風15号や19号は、全国各地に大きな被害をもたらしました。神奈川県の一部や千葉県では、建物の屋根が飛び浸水するなどの事例が多数確認されています。
屋根が飛んでも一部損壊? 困難を極める罹災証明の発行作業

筆者は台風15号の後、被害の大きかった千葉県館山市に赴き、家屋の被害状況を調査し被害状況に応じて「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」等を認定・証明する「罹災証明」を発行する自治体職員に同行しましたが、その作業は困難を極めるものでした。現地に赴く役所の職員は必ずしも建物の専門家ではない中、各部位について5段階で評価を行うのですが、評価は担当者によってばらつきがありそうです。また、ただ屋根が飛んだだけでは「一部損壊」ですが、現実には屋根がなければ生活はできないため、政府が要件を緩和し、屋根が吹き飛んだといったケースでも「半壊」とみなすこととしたのは幸いでした。

1995年の阪神・淡路大震災を受け、2001年に業界団体連合会が発行した「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に準拠した建物であったかどうかが今回、屋根が吹き飛ぶといった被害の分かれ目だったことが、全日本瓦工事業連盟・全国陶器瓦工業組合連合会 合同調査チームの被害視察で分かっています。

そしていくつかの被災現地では、高額な、あるいは不要な修繕費用を請求されたり、建物が十分に乾かないまま修繕を行うことでカビが発生するなどの2次的被害も起きているようです。

タワーマンションでも発生した思わぬ被害

河川が決壊する、処理しきれない雨水で浸水するといった被害は全国各地で発生。タワーマンションの建設などで発展著しかった武蔵小杉のタワーマンション10数棟のうち2棟は、排水管からの逆流などで地下階にある電気関係設備が浸水し、各戸の電気はもちろん、エレベーターが使えない、水道ポンプが被災したことから水やトイレも利用できないといった状況が続きました。

武蔵小杉駅周辺や、多摩川周辺はハザードマップで浸水の可能性が指摘されていました。多摩川はもともと大きく蛇行しており、それを直線に付け替えつつ堤防を整備してきた経緯があります。そうしてできた土地に工場がたち、企業の廃業などで土地が売却されそこにタワーマンションが建ち並ぶといった、土地利用履歴の変遷がありました。

被害を受けやすい建物の特徴とは?

これからの不動産選びでは、ハザードマップの確認はもちろん、現状に応じた対策が必須となりましたが、ここでは、台風などで被害を受けやすい建物の特徴をあげてみます。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

●1階が「半地下」

低層の住宅が建ち並ぶ地域では、より大きな建物を建てる、階数を稼ぐといった目的で、あえて土地を掘削し、地盤面より低い半地下の部屋が設けられていることがあります。高台にあり自然に排水できればいいのですが、通常は生活排水を問題なく排水できていても、台風などの豪雨時には下水道管からの逆流や道路側からの雨水の流れ込みによる浸水被害が発生するおそれがあります。排水ポンプが設置されていたとしても、ポンプの処理能力を超える水には対応できず、万一停電になれば稼働もしません。半地下部分にトイレがあれば、排水が逆流を起こす可能性も高まります。半地下の居室であれば水圧でドアが開かなくなるといった事態も考えられます。

●屋根に「軒」がない

軒(のき)とは「外壁より外に突出している屋根部分」のことです。昨今は、デザイン上の理由から、あるいは敷地が狭いなどの理由で軒が少ない、あるいはまったくないといった「軒ゼロ建物」が散見されますが、軒がないとどうしても、横殴りの暴風雨などの場合には雨漏りしやすくなります。これといった対処方法はありませんが、屋根裏の点検口をのぞくなどして、雨漏りがないかの定期的な点検をお勧めします。

●サッシに「雨戸」がない

最近では外観上の理由から、またはコストダウンの観点から、雨戸を設置していない建物も多いのです。暴風で飛来物に遭遇した場合、雨戸があれば一定程度被害を防ぐことができますが、ガラスだけでは被害を防ぐにも限界があります。前述した工事ガイドラインに基づかない屋根瓦が周辺から飛んでくるとひとたまりもありません。シャッターや雨どいを後付けしたり、ガラスの破片が散らばりにくいフィルムを張るなどの対処方法が考えられます。

●バルコニーに「オーバーフロー管」がない

「オーバーフロー管」とは、万が一排水口が詰まったり、想定以上の雨で排水しきれないときのための2次的な排水口のこと。雨水が室内側に溢れてくるのを防ぐために、サッシより下部に設置されている必要があります。後からオーバーフロー管を取り付ける場合には、工事方法や取付位置に十分な注意が必要です。

●メンテナンス不足でバルコニーや屋上の防水機能が著しく劣化している。

バルコニーや屋上は「FRP防水」「ウレタン防水」「シート防水」「アスファルト防水」といったさまざまな手法で、雨水の浸透を防ぐ工事が行われていますが、劣化が進行したり、暴風雨などで棄損していると、そこから雨水が流れ込み建物内部を傷めます。防水の耐久年数はその工法によって10~20年とまちまちですが、定期的な点検と必要に応じた補修が欠かせないのです。

いかがでしたでしょうか。年々高まる気候変動リスクに備え、これから家を建てる方も、すでに買って住んでいる方も、万が一の備えはできる限りしておきたいところですね。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/169014_main.jpg

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奄美大島の空き家をみんなでDIY。街のみんなの夢をかなえる場になるまで

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奄美大島の空き家をみんなでDIY。街のみんなの夢をかなえる場になるまで

あるときはアロマ教室、またあるときは居酒屋や人狼ゲーム会場……。奄美大島の集落にある一軒の古民家が、世代を超えて地域の人々をつなげる場を提供している。今回は、この『HUB a nice d!』を訪問。自己実現の場を求めていた山本美帆さんが、周囲を巻き込みながら、いつしか彼らの自己実現の場にもなる地域のHUB拠点を立ち上げたプロセスを取材した。
夫の転勤でキャリアを閉ざされたママたちの声が空き家探しのきっかけに

そもそもの発端は、6年前、山本美帆さん(34歳)が夫の転勤で奄美大島のほぼ南端、瀬戸内町の阿木名集落に引越してきて、個人事業主としてベビーマッサージの講師を務める傍ら、「赤ちゃん先生」という世代間交流の事業に携わっていたころまで遡る。地域のママたちが同じ悩みを抱えていることに気づいたのだ。

「みなさん、自分のキャリアややりたいことがあるのに、夫の転勤など、自分の意思ではない要因でキャリアを閉ざされてしまっていたり、夢が実現できずにいたんです。あるいは、やりたいことに向けて勉強したり資格を取ったりしても、それを活かす場がないと。アロマ教室やハンドメイド教室などを開きたくても、公民館のようなスペースは行政が管理しているため、利益が出るような活動には使えなくて」(山本さん)

自分自身、そうした“場”を求めていたこともあり、それなら自分でつくってしまおうと、空き家や空きスペースを探し始めたのが3年前。都市部と違って、不動産会社にも空き家物件の情報はない。区長にも協力してもらいながら、内装を自分で自由に変えられる賃貸住宅を1年ほど探したが、借りられる空き家は見つからなかった。そこで、あまりに古くて候補から除外していた物件を再検討し、ようやく最終的に決断に至ったのが、昭和33年(1958年)築の古民家。空き家歴5年になる物件だった。

大工、建築家を加えた3人チームでリノベーションを開始

空き家を改装するにあたって、大工の中村栄太さん(34歳)の協力を仰いだ山本さん。少しでもコストを抑えたいこともあり、柱など使えるものはなるべく残そうと考えていたが、シロアリの被害がひどいことが判明。かなり手を入れなければならないことが分かり、「プロの目で見てもらわないと」と考え、中村さんの中学・高校通して部活の先輩だった建築家の森帆嵩さん(35歳)にもチームに入ってもらうことになった。

「奄美は同級生、同窓生のつながりが強いんです」(森さん)

こうして、同世代の3人チームが結成されたのが2年前の2017年6月。賃貸契約を結んで、8月には地域の人たちにも手伝ってもらいながら解体し、この年の11月から建築を始めた。プロでなければできない部分は大工の中村さんが担当。DIYできる部分は、山本さんはじめ地域の人たちにも手伝ってもらった。

「SNSで呼びかけて集まってもらいました。多いときで30~40人が参加してくれたのではないでしょうか」(山本さん)

「奄美は人手が少ないので、なんでも自分たちでやるんです。引越しも業者に頼まずにみんなでやるし、建物の上棟などもそう。女性たちは炊き出しをしてくれたり」(森さん)

工事やDIYと並行して、地域の人たちにも加わってもらいながら「場の使われ方」を話し合った。コンセプトは「地域のコミュニティ」「みんなで集える空間」。当初は、子育て世代にフォーカスしたサロンのようなものをイメージしていたが、やがて軌道修正をすることになる。

「2018年2月に半分出来上がったところで、資金がショートして、工事が止まってしまったんです」(山本さん)

鹿児島県の起業家スタートアップ支援金と自己資金とを併せて資金を用意していたが、それでは足りなくなってしまったのだ。

改修前の状態。昭和33年(1958年)築だったため、試行錯誤の末、建築当時の状態に回復させることで強度を確保するという考え方に落ち着いた森さん。先輩の建築家に相談したり、自身でも伝統再築士の資格を取得したりした(画像提供/HUB a nice d!)

改修前の状態。昭和33年(1958年)築だったため、試行錯誤の末、建築当時の状態に回復させることで強度を確保するという考え方に落ち着いた森さん。先輩の建築家に相談したり、自身でも伝統再築士の資格を取得したりした(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

リフォーム工事の様子。DIYしたのは、(1)床材の加工(2)漆喰壁などクロス以外の塗装(3)土間打ちのコンクリートの運搬(4)外壁や屋根の塗装など。子どもたちも遊び感覚で楽しみながら手伝ってくれた(画像提供/HUB a nice d!)

リフォーム工事の様子。DIYしたのは、(1)床材の加工(2)漆喰壁などクロス以外の塗装(3)土間打ちのコンクリートの運搬(4)外壁や屋根の塗装など。子どもたちも遊び感覚で楽しみながら手伝ってくれた(画像提供/HUB a nice d!)

集落の人たちが求めていたのは世代間をつなげる“食”の場だった

資金不足で計画が立ち行かなくなってしまった山本さんに、鹿児島県の出先機関の女性所長がアドバイスをくれた。

「集落として取り組むのであれば、国の交付金が受けられるよと教えてくださったんです。そこで、集落のミーティングに出席して、どんな使い方をしたいかと聞いてみたら、『おじいちゃんおばあちゃんから子どもまで一緒に食事ができる地域食堂があるといい』といった声があがりました」(山本さん)

飲食できる場が求められていることが分かり、山本さんたちは軌道修正を決めた。業務用のキッチンを入れるなど設計図を大幅に変更。工事を再開できるだけの資金も調達できたことから、第二期の工事を開始した。

「子どもたちにはキッズスペースを、正座がつらいお年寄りには掘りごたつ形式のカウンターをつくりました。段差を設けているので、完全バリアフリーではありませんが、いろいろな世代がちょっとずつ我慢しながら一緒に使えるような設計です」(森さん)

こうして『HUB a nice d!』は、2018年10月29日に完成した。

左から、中村栄太さん、山本美帆さん、森帆嵩さん。34歳、34歳、35歳と、奇しくもほぼ同い年の3人がそろった。建築当時の強度に復元したこの建物は、2018年9月の台風で島内が多くの被害に見舞われたときも、被害がなかったという(画像提供/HUB a nice d!)

左から、中村栄太さん、山本美帆さん、森帆嵩さん。34歳、34歳、35歳と、奇しくもほぼ同い年の3人がそろった。建築当時の強度に復元したこの建物は、2018年9月の台風で島内が多くの被害に見舞われたときも、被害がなかったという(画像提供/HUB a nice d!)

土間から上がる伝統的なつくり。「おじいちゃんの家みたいな懐かしさは失くしたくありませんでした」(森さん)(画像提供/HUB a nice d!)

土間から上がる伝統的なつくり。「おじいちゃんの家みたいな懐かしさは失くしたくありませんでした」(森さん)(画像提供/HUB a nice d!)

カウンターは掘りごたつ形式でラクに座れるようになっている(画像提供/HUB a nice d!)

カウンターは掘りごたつ形式でラクに座れるようになっている(画像提供/HUB a nice d!)

大工の中村さんのこだわりが詰まっている天井(画像提供/HUB a nice d!)

大工の中村さんのこだわりが詰まっている天井(画像提供/HUB a nice d!)

地元になかった「週末居酒屋」が中高年男性陣に大好評

完成から約1年。現在、『HUB a nice d!』は、アロマ教室やベビーマッサージ教室、スキンケア講座や子育てサロンに加えて、平日昼のカフェ、土曜の昼のカレー店、金土の夜の居酒屋と、曜日や時間帯ごとに、いろいろな使われ方をしてきた。特に居酒屋は、店主である納裕一さん(35歳)が2018年12月に始めて以来、週末ごとに大盛況なのだという。

「本業は看護師ですが、以前から居酒屋をやってみたかったんですよね。やってみて分かったのは、この場がいろいろな人をつなげているということ。島内と島外の人をつなげるだけでなく、同じ集落に住む若い世代と上の世代もつなげてくれて。そういう機会が意外となかったので、焼酎を飲みながらいい感じにゆるくつながりができるのは、とてもうれしいです」(納さん)

地元に居酒屋がなかったことから、今までは隣町に飲むに行くしかなかった一人暮らしの高齢の男性陣から絶大な支持を集めている「週末居酒屋」。一方、近所に住む高齢の女性はというと、「ずっと空き家だった家に、こんなふうに人が集まって来るようになったことで、町が明るくなった」と、こちらも大いに喜んでいるのだとか。

夫の転勤で熊本県から引越してきて以来、月に2回ほど通っている女性は、「仕事をしていないこともあり、地域とのつながりがなかったので、集落の人たちと仲良くなれる場があることはとてもありがたい」と語る。『HUB a nice d!』が、島外と島内、集落内の世代間をつなぐ役割を果たしていることが分かる。

(画像提供/HUB a nice d!)

(画像提供/HUB a nice d!)

この日のオススメは豚のアゴ肉鉄板焼とシビユッケ。納さんは豚バラ大根も得意料理だ(画像提供/HUB a nice d!)

この日のオススメは豚のアゴ肉鉄板焼とシビユッケ。納さんは豚バラ大根も得意料理だ(画像提供/HUB a nice d!)

地域食堂では家庭料理を提供。大人300円、小学生~高校生100円、未就学児は無料だ(画像提供/HUB a nice d!)

地域食堂では家庭料理を提供。大人300円、小学生~高校生100円、未就学児は無料だ(画像提供/HUB a nice d!)

カメラマンを迎えてのカメラ講座では、子どもたちをのびのび遊ばせながら参加できる。ママたちは学びに集中し、チビッコたちは遊びに熱中(画像提供/HUB a nice d!)

カメラマンを迎えてのカメラ講座では、子どもたちをのびのび遊ばせながら参加できる。ママたちは学びに集中し、チビッコたちは遊びに熱中(画像提供/HUB a nice d!)

HUB a nice d! を造る過程でアドバイスや協力をくれた阿木名まちづくり委員会のみなさん(画像提供/HUB a nice d!)

HUB a nice d! を造る過程でアドバイスや協力をくれた阿木名まちづくり委員会のみなさん(画像提供/HUB a nice d!)

地域の社会人有志が自主的に実行委員会を起ち上げた「瀬戸内町近未来会議」というイベントの事前勉強会の様子。大人に混ざって高校生たちも参加(画像提供/HUB a nice d!)

地域の社会人有志が自主的に実行委員会を起ち上げた「瀬戸内町近未来会議」というイベントの事前勉強会の様子。大人に混ざって高校生たちも参加(画像提供/HUB a nice d!)

心理ゲーム「人狼」の会場になることも。まさにやりたい人がやりたいことをする“場”となっている(画像提供/HUB a nice d!)

心理ゲーム「人狼」の会場になることも。まさにやりたい人がやりたいことをする“場”となっている(画像提供/HUB a nice d!)

完成から1年。さまざまな人にさまざまな使われ方をすることで、地域にしっかりと根づいた『HUB a nice d!』は、第36回「住まいのリフォームコンクール<コンバージョン部門>」で優秀賞を獲得した。そのタイトルは「多世代で繋がり人や情報が集まる夢の芽が花開く地域のHUB拠点」というもの。事実、『HUB a nice d!』は今も、「実験と挑戦の場」として、人々のチャレンジショップの役割を果たしていると山本さんは語る。また、DIYは、コスト削減や、参加者がその後も愛着を持ってかかわってくれることというメリットがあるが、森さんによると「自分たちで修復できるので、長期間のメンテナンスコストも抑えることができる」とのこと。事業自体のサステナビリティを高めるというメリットも再発見することとなった。

山本さん自身の自己実現が発端となり、それが周りのママたちへ、やがて地域のみんなの自己実現へと連鎖して広がったこの挑戦。その過程には、コミュニティ活動を持続させるという重要課題へのヒントがありそうだ。

●参考
HUB a nice d!元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/169033_main.jpg

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勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生を変えた「断捨離」

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勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生を変えた「断捨離」

経済評論家として、働く女性の代表的存在としても大活躍中の勝間和代さん。多忙を極める裏で、かつてはモノがあふれ収拾のつかない状態だった「汚部屋」を、「家が一番快適」というまでに蘇らせ、その体験をまとめた『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』(文春文庫)を2016年発行。2019年の文庫化を機に、勝間さんが一念発起したきっかけ、人生がガラリと変わったという劇的効果、約4年経過後の断捨離やライフスタイルの進化などを伺ってきました。
2015年秋、友人・川島なお美さんの急逝で断捨離の必然性に目覚める

――勝間さんが断捨離を始めることになったきっかけを教えていただけますか?

2007年に独立して以来、多忙を口実に、片付けに関しては放棄していました。強制的に荷物整理をするために引越しを繰り返してきましたが、今の部屋に5年以上住んだころからモノが収納限界点を超える「収納破産」状態に。部屋には使わないモノがあふれ、人も呼べない汚部屋でしたが、見て見ないふりをしていました。

そんな2015年秋、公私ともに親しくさせていただいていた川島なお美さんが急逝。同世代だけに、「死」というものが現実化して。ご主人である鎧塚俊彦さんが、なお美さんの残したものを前に辛い思いをしているのを目の当たりにして、「自分もいつ死ぬか分からない」「自分のものが多いと遺族も大変だし、何かあったときに他人を家に入れることもできない」と、スイッチが入って断捨離を始めました。

(左)同じ部屋とは思えない、汚部屋時代。デスクまわりも仕事関連のモノがあふれ、収拾のつかない状態。せっかくのルンバも床に散乱したモノで活躍の場がなかった(写真提供/勝間和代さん)(右)現在の勝間さんのお部屋。明るく広々、厳選されたものだけに囲まれた「一番快適な場所」。断捨離で床にモノがなくなり、時間セットしたルンバが毎日大活躍でさらに綺麗に(写真提供/文藝春秋)

(左)同じ部屋とは思えない、汚部屋時代。デスクまわりも仕事関連のモノがあふれ、収拾のつかない状態。せっかくのルンバも床に散乱したモノで活躍の場がなかった(写真提供/勝間和代さん)(右)現在の勝間さんのお部屋。明るく広々、厳選されたものだけに囲まれた「一番快適な場所」。断捨離で床にモノがなくなり、時間セットしたルンバが毎日大活躍でさらに綺麗に(写真提供/文藝春秋)

――断捨離の成果が出てご著書『勝間式汚部屋脱出プログラム』が出来上がるまではどれくらいの期間で?

そのときたまたま睡眠の大切さに関する本を読んでいたこともあり、試しに寝室の断捨離から始めました。するとすぐに睡眠の質が高まる効果を実感して。その相乗効果で断捨離は加速、どんどん面白くなって、毎日2~3時間片付けて、2015年末には8割のモノがゴミと化していました。ブログに書いたところ好評だったこともあり、この仕組みをまとめて、2016年に『2週間で人生を取り戻す!勝間式汚部屋脱出プログラム』の単行本を出しました。

『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』勝間和代 著、文春文庫

『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』勝間和代 著、文春文庫

片付けてスッキリすると気持ちいいし、効果を実感する、楽しくなる、どんどん捨てるべきものが目につく、という好循環で、無理はしていません。むしろ汚部屋だったころの方が、掃除をするにもモノをどかしてからでないと掃除さえもできなかったので、無理して頑張っていたと思います。

――断捨離はダイエットにも絶大なる効果があったとか?

断捨離でこまめに身体を動かすようになって、自然に体重が4~5kg落ちました。かつてはゴミを溜めておいて収集日に合わせて運んでいましたが、いまは目につけば24時間いつでもマンションの集積場所まで捨てに行きます。自然に良く身体を動かす癖がついたのだと思います。

さらに自炊に切りかえて外食が減ったこともあり、ピーク時は60kgを超えたこともあった体重はぐんぐん減って、いまは40kg台になりました。人生100年時代、人生の先輩に「体が動くのは50代のうち」と言われて、仕事ばかりでなく、意識して運動していることもあると思います。今日もゴルフ練習場に行ってきましたし、家でダンベルを使ったりして、毎日2~3時間は運動していますよ。

――家を一番快適な場所にすることによって、何が変わりましたか?

まず、モノが少なくなったことで、モノを探す無駄な時間もなくなりました。断捨離したら、ハサミやカッターが家じゅうから何セットも出てきましたからね。掃除もしやすくなりいつもきれいな状態を保て、いつ誰が訪ねてきて、どこを見られてもOKです。

家でも身体をこまめに動かすようになったので、以前は行きもしないジムに会費を払ってお金を浪費していましたが、そんな必要もなくなりました。ジムもちゃんと場所や時間帯を選んで通っていればいいのですが、たいてい入会しているだけで満足しがちですよね。

今までは家で仕事をしていても、快適とは言えない環境なのですぐ息抜きに外に行きたくなって。例えばカフェに息抜きに出かけると、その往復時間もカフェ代も無駄になります。家が一番快適でストレスもないと、外に行く必要がなく時間とお金の無駄がなくなって経済的。その時間とお金を好きなものに集中できます。

汚部屋の時代は自宅には親友くらいしか呼べなかったけれど、今は月に数回、椅子は8脚なので8名マックスのパーティーもするようになりました。以前は不意に人が来たら困っていましたが、いまはたとえ日にちを間違えていても、いつでもどこを見られても大丈夫です。

(写真提供/文藝春秋)

(写真提供/文藝春秋)

コツは捨て癖。片付けの「仕組み」で歯磨きのように習慣化

――片付けが苦手でいつも挫折しているのですが、どこから、どのように手を付ければいいでしょうか?

まずは捨て癖を付けて、成果を実感しやすいところから始めるといいですね。例えば浴室や寝室のベッドまわり。浴室は「お風呂に入る」という目的がはっきりしている狭い空間なので、取り掛かりやすいです。入浴に関係ないものがあれば取り除き、使っているもののみ残します。私は立ってシャワーを浴びるので、桶や椅子も使っていないことに気付き、処分しました。広々と気持ちよい空間でバスタイムを楽しむことができ、さらに掃除もしやすく、すぐに断捨離効果を実感できるでしょう。

寝室も同じです。「眠る」という目的に必要なものだけを残すことで、質の高い眠りを得ることができることが実感できるはずです。寝室は、まずベッドまわりから始めて、クローゼットや物置は難易度が高いので後回しで。「捨てる物を選ぶ」という発想ではなく、「残すものを選ぶ」という感覚で、捨て癖を付けていくことが大切です。8割がたの不要なものがなくなれば、「整理整頓」とか「収納」などと考える必要もなくなります。

――具体的に、捨てる・捨てない、はどのように判断すればいいのでしょうか?

判断基準はシンプルに、「使っているか、いないか」、ということだけです。こんまりさんこと、近藤麻理恵さんの「ときめき」による片付け術が世界中で大流行していますが、ときめくか、ときめかないかって、私には分かりにくくて。季節ものは別にして、1カ月間使っていないものは、要らないのでは、という目で見ます。

例えばキッチンの調理器具は包丁3本、お玉2つ、トング、木べら、ピーラーを残し、さまざまな便利グッズや予備は捨てました。同時に使うものでない限り、すぐ洗えばストックも不要です。7~8本も出てきたラップのストックも一種一本だけにしました。ちゃんと出汁をとれば、出来合いの各種調味料類も不要になります。

買い置きは、結局使わず無駄になってしまい経済的ではないので、しません。冷蔵庫の中も、3日以内に食べる物しかはいっていません。それでも米や豆、水、カセットコンロなどがありますから、台風の3、4日分の食料は大丈夫です。

そのようにどんどん身の回りのものもシンプルにしていき、化粧品もワンセット、小さな化粧ポーチのみです。そうすれば、なくなりそうなときはすぐ分かるので在庫管理も楽。アイシャドウだって何色もあっても、結局使うのはお気に入りのブラウン系だけなので、一種でいいのです。

――難易度が高い場所はどのようにクリアしてキープすればいいのでしょう?

捨て癖がついて、断捨離の効果も実感してからだと、難易度が高い断捨離もやりやすくなります。さまざまなものがあって判断が複雑になりがちな収納スペースは、捨て癖が付いた断捨離の最後に取り掛かるのがおすすめです。クローゼットの衣類なら、値段が高く使用頻度が少ないフォーマルなものは悩みますので、まずはカジュアルな服の断捨離をしてからフォーマルに。物置もさまざまなものが混在している場所なのでやっかいですが、最終的には日常的には使わないけれど、必ず使うものだけ残すのが理想です。

捨て癖は、習慣にしてこまめに捨てることが大事です。歯磨きだって3日とか1週間に一度では、歯石も溜まって大変でしょう。歯磨きを毎食後習慣にするように、断捨離もちょこちょこ習慣化してしまえば長続きします。
無理せず、こまめに、ですね。

かつて持ってはいても、床にモノが散乱していて起動できなかったルンバは、毎日タイマーで自動で動き出すようセットし、そのために床にはモノを置きません。キッチンも片付いている方が、断然お料理の効率もいいし、楽しいです。手洗いか食器洗浄機か、ではなく、両方使った方が早いので、食器に応じて手洗い&食器乾燥機、食器洗浄機、を使いわけ、食事のときには片付けも終わっているようにします。皿や調理器具もストックは持たないので、整理整頓や収納で悩むこともありません。

モノから行動の断捨離へ。時間を生み出し自分が主役の人生に

――勝間さんが捨てにくかったモノはどんなものですか? どんな変化がありましたか?

高額なもの、他人にいただいたものや思い出のあるもの、物理的に大きなものなどが捨てにくいです。100円ショップで買ったものは誰でも気軽に捨てるでしょうが、3万円を超えるものだと悩むでしょう。頂きものや思い出のものも、送り主の立場を思うと申し訳ない気持ちになります。物理的に大きなものも、運んだり粗大ごみの手配をしたりが大変です。

コレクションしている趣味のものも捨てにくいです。一眼レフやビデオカメラ、古いPCなどもたくさんありましたが、時代とともに進化して、今どきスマートフォンで事足りるので、古いものは処分しました。

捨てるのがめんどうなものが分かってからは、なるべく家まで持ち込まないようにしています。買い物は厳選し、特に3万円以上は慎重になります。いただきものも「モノを増やしたくないので」「お酒は飲みませんので」などとその時点で断ります。そうしているうちに周囲に浸透してきましたが、それでも断り切れない場合は、事務所のスタッフに配ったりして、基本家には消えもの以外は持ち帰りません。逆に自分がプレゼントを選ぶ場合も、消えものと決めています。

――モノを増やさずキープするための、勝間流の仕組みや工夫を教えてください。

基本はモノもダイエットも同じで「出る」「入る」の仕組みです。出るが多いと痩せるし、入るが多いと太る。断捨離で綺麗になっても、人間生きている限り、モノは放っておけばまた増えていきリバウンドしてしまいます。
モノが増える仕組みを知って、増やさない仕組みをつくることが大切です。買い物はとにかく厳選し、何かを買うということは、何かと入れ替えます。現在本当に必要なもののみになっているので、それに並ぶものか、入れ替えてまで欲しいモノか熟考します。

どうしても溜まりがちなものに郵便物があります。家に持ち込んでどこかにポイと置いたら最後、そのままになって溜まっていきます。そこで「郵便物は絶対にそのまま置かない」と決めて、ポストから部屋に戻る途中、エレベーターや廊下でも中身を確認して、要るものや要返信のものなどを分けるなど処理をしたうえではじめて部屋に置きます。クリーニングに出した際のハンガーも断って家には持ち込みません。

所有に拘らず、必要なものは「エアークローゼット」などのサブスク(サブスクリプションの略称で、製品やサービスなどを一定期間利用しその代金を払うシステム)を利用しています。バッグなどは買う前にいくら吟味しても使い勝手までは分からないので、まずはレンタル。今日のバッグもレンタルで、気に入ってはいるけれど購入するほどではないかな、とか使ってみて判断できますよ。

――単行本発行から文庫化まで4年、現在の断捨離の進捗状況と読者へのメッセージを。

モノに支配されない自分が主役の暮らしが快適だ、ということを断捨離で実感して以来、常に効率化できるものはないか、捨てられるものはないか、考えています。無理をしていないので、もちろんリバウンドすることもありません。自分にとって快適でストレスのない状態を追求して、断捨離しているだけです。

いまは「モノ」の断捨離から、「行動」の断捨離に移行しています。一日は24時間と限りがあるので、自分にとって快適でないことは辞めました。例えばテレビの仕事は1時間番組の収録でも、現場への往復や事前打ち合わせなどで合計6時間前後拘束されてしまいます。自分はテレビを一切見ないし、テレビに出ている時間を楽しんでいるわけでもないことに気付き、今年の2月から一切テレビのお仕事は断っています。

「行動」を断捨離することで「時間」が生まれ、自分で自分のスケジュールを組めるようになります。先日は誘われるままに、8日間で5回ゴルフのラウンドに行きました。逆に、少しでも迷った誘いは断ります。自分の人生、自分の時間は自由に使い、自分でコントロールしたいですからね。

さっそうとインタビュー場所に現れた勝間さんは、表情キラキラ、お肌ピカピカ、スッキリ華奢なシルエット。「部屋の状態は心の状況を表す」と言いますが、お部屋もご本人も、いつ誰に見られても良い状態に整っているのだと納得。最後に仕事道具を詰め込んだ大荷物の取材陣に、「バッグも小さくして、持ち歩く荷物の断捨離を」、とアドバイスいただきました。断捨離、やらないと人生損です!!

2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』 (文春文庫) 『2週間で人生を取り戻す! 勝間式 汚部屋脱出プログラム』 (文春文庫)

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/168398_main.jpg住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル

分譲マンションのシェアリングサービス、ついに傘も登場!

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分譲マンションのシェアリングサービス、ついに傘も登場!

分譲マンション、特に居住者の多い大規模なマンションで、各種のシェアリングサービスが広がっている。そしてついに、身近な「傘」のシェアリングサービスも開始される。詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
2つの分譲マンションに新サービス導入/京急電鉄マンションで広がるシェアリングサービス

マンションで最初に広がったシェアリングサービスは、「カーシェアリング」ではないかと思う。土地の狭い都心部でマンションの敷地内に駐車場を確保することが難しかったり、若年層が車を所有しなくなったりといった背景を受けて、車をシェアするサービスが取り入れられるようになった。

同様に、「自転車」のシェアリングサービスも見られるようになった。レンタサイクルシステムを運営する企業が増えたこともあるが、2段式駐輪ラックなどでは上段の利用が面倒で使い勝手が悪いといったことも、背景にあるのだろう。買うには高額な電動アシスト自転車を利用できるのも、魅力のひとつかもしれない。

東日本大震災以降は、マンションの防災対策が強化されるようになり、防災備品を全戸分ストックしたり、炊き出し用のかまどを備えたりするマンションが、特に大規模なもので増えてきた。それにつれて、大型の工具やバーベキューセットなど、各家庭で備えるには場所を取るが、被災時には役立つような「モノ」のシェアリングサービスも見られるようになった。

そして、最新トレンドとして注目されそうなのが、「傘」のシェアだ。

マンション暮らしの筆者は、空を見上げて「まだ大丈夫かな」と思ってエントランスを出たら、パラパラと雨が降りだして、あわてて傘を取りに家に戻り、電車を1本乗り逃がすということがある。70戸程度の一般的なマンションでもそうなのだから、大規模マンションなら自宅まで往復するのにさらに時間がかかりそうだ。乗り逃がすのも2本3本となるだろう。

「傘」シェアリングサービスがマンションで登場!

さて、京急電鉄(京浜急行電鉄)が傘シェアリングサービス 「アイカサ」 とタイアップして、「プライムパークス上大岡 ザ・レジデンス」(全200戸)と「プライムスタイル川崎」(全168戸)の2物件で、マンションと最寄駅の間で傘シェアリングの無料(1時間以内)利用サービスを提供すると発表した。

これには伏線がある。マンションだけでなく、最寄駅にも傘シェアリングサービスが行われていないと実現できないからだ。

利用イメージ図(画像提供:アイカサ)

利用イメージ図(画像提供:アイカサ)

傘シェアリングサービスのアイカサに話を聞くと、鉄道沿線のサービス提供に力を入れていて、現在、JR東日本、京成電鉄、ゆりかもめ、京急電鉄、西武鉄道、小田急電鉄、西日本鉄道、福岡市営地下鉄の8社でサービスの提供をしているという。最も利用件数が多いのが、自宅やオフィスと行き来する「駅」だからだそうだ。

2物件の最寄駅である京急本線「上大岡駅」と「京急川崎駅」には、2019年度内に順次設置し、マンションの入居開始(いずれも2021年3月下旬予定)時の傘シェアリングサービスを実現することになっている。

利用方法は、LINEで場所や在庫本数を確認し、傘の持ち手のQRコードを読み取って、通知される番号でダイヤルロックを解除して傘を取り出すというもの。返却も同様だ。マンションと駅の間で1時間以内の利用なら無料だが、24時間以内の利用も70円でできるようになっている。

設置例(画像提供:アイカサ)

設置例(画像提供:アイカサ)

そもそも、この仕組みでビジネスになるのかをアイカサに聞いてみた。一度利用すると、その便利さからかリピート率が高いので、いろいろなシーンで傘を利用してくれるようになるのだという。

傘立ての中に何本か傘を常備している一般家庭が多いと思うが、急な雨でビニール傘を買い、傘立ての傘が増えていったりビニール傘がゴミと化したりすることも多いだろう。傘シェアリングは、便利なだけでなく、ゴミの減量や街の美化などにもつながると考えられる。

マンションへの傘シェアリング導入は、今後増えるかどうか注目したい。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/169031_main.jpg

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デュアルライフ・二拠点生活[22] 東京と長野県松本市。温泉街の一軒家を家族でセルフリノベ

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デュアルライフ・二拠点生活[22] 東京と長野県松本市。温泉街の一軒家を家族でセルフリノベ

向井さんは、平日は東京で仕事をし、週末は妻と息子が住む長野県松本市にある浅間温泉で築50年の家をリノベしながら過ごすという、二拠点生活を送っている。その暮らしぶり、二拠点生活を始めた経緯や、始めてからの変化を聞いた。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、さまざまな世代がデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点居住者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。「古い家を改装したい」という夢を実現

JR新宿駅から特急あずさで2時間半。長野県のほぼ中央に位置する松本市は、旧城下町らしい歴史的建造物が残る街並みが特徴だ。夏は過ごしやすいものの、冬は氷点下まで下がる厳しい気候だが、古くから温泉街も多く、とりわけ「浅間温泉」は1000年も続く歴史ある温泉街。

1000年の歴史を感じさせる浅間温泉の街並み(写真撮影/高木真)

1000年の歴史を感じさせる浅間温泉の街並み(写真撮影/高木真)

向井家の庭先には、干し柿や玉ねぎを保存。生活を大切にしている様子がうかがえる(写真撮影/高木真)

向井家の庭先には、干し柿や玉ねぎを保存。生活を大切にしている様子がうかがえる(写真撮影/高木真)

今から6年前、3年間の中国・大連での駐在生活を終え、日本に帰国した向井さん一家。帰国後に改めて拠点を考えたとき、もともとアウトドアが大好きな家族にとって「東京」は、それほど魅力的に映らなかったのだという。

「住みたい場所に住めばいい」と考え、スキーやキャンプで何度も訪れたことのある信州・松本が自然と候補に挙がった。

信州は、温泉あり、山あり、観光地としても人気のあるエリアなので、東京に住む家族や友人たちが、喜んで足を運んでくれる。またネットショッピングを使えば、買い物にも不便を感じることはない。最近ではおしゃれなカフェやベーカリーも多くできているのだとか。さらに関西出身の向井さんと、東京に実家がある妻・Sさんにとっても、信州は便のよい場所だった。

2年ほど賃貸で生活した後、定住を考えたときに出合ったのが、この築50年の一軒家だった。「ワクワク感を、この家を見たときに感じた」とはSさんの言葉だ。

街角には、温泉水を飲めるスポットが存在する(写真撮影/高木真)

街角には、温泉水を飲めるスポットが存在する(写真撮影/高木真)

広い軒先は、庭と家のつなぎ役として、とても重宝しているそう(写真撮影/高木真)

広い軒先は、庭と家のつなぎ役として、とても重宝しているそう(写真撮影/高木真)

浅間温泉は、松本駅から約4km、車で20分ほどと便がよく、向井さんの家は100坪の土地に40坪ほどの大きさの家が建っている。家も、広すぎず狭すぎずちょうどいい大きさだった。こうして、立地ありきで中古物件を手に入れることになった。

大工だった祖父と、建築関係の仕事をしていた父をもつSさんにとって、古い家を改装して住むというのは昔からの夢だった。その夢を実現するチャンスを、この家を見たときに感じたのだそうだ。なお当時2年近く売りに出されていたにもかかわらず、買い手が付かなかったこの家は、向井さん一家が購入しなければ、2週間後に取り壊しになる運命だったとか。

この家の中心的存在である広いリビングダイニング(写真撮影/高木真)

この家の中心的存在である広いリビングダイニング(写真撮影/高木真)

閃きを実現するセルフリノベ

こうして、実際に購入した家をDIYでセルフリノベーションして住むことにした向井さん一家。夫妻と、当時小学2年生だった息子の3人に加え、Sさんの父に助けを借り、一気にリノベーションを始めたのが今から4年ほど前。

「こんな風にしたいけれど、どうしたらいいだろうか、と考えているうちに、パッとひらめくのです」と話すSさん。向井さんは週末しか松本にいない。そのため、平日はSさんが1人でできる作業だけ進め、週末に家族で大きな作業を行うサイクルが出来上がっていった。

「家づくりのプロが“普通に”考えたらやらないようなことに挑戦してきた」と話す一家。例えば息子の“砦”となっている2階のロフトは、あえて天井を壊し、客間の天井を20cm下げてつくり出したスペース。また、信州らしさが感じられる「漆喰」を取り入れるため、夜な夜なネットで研究したSさんは、あちこちから必要な材料を集め、実際に漆喰の壁を見事につくりあげてしまった。

2階の中央の部屋は、押入れをなくして、息子の秘密基地につながる階段を設置(写真撮影/高木真)

2階の中央の部屋は、押入れをなくして、息子の秘密基地につながる階段を設置(写真撮影/高木真)

息子の砦となっているロフト部分は、8畳の客間と同じ広さのスペース(写真撮影/高木真)

息子の砦となっているロフト部分は、8畳の客間と同じ広さのスペース(写真撮影/高木真)

毎日がアウトドア

ところで向井家にはエアコンも暖房もない。あるのは薪ストーブと、客間に用意のある電気ストーブ1つ。冬の寒さには、この家の顔といってもいいこの「薪ストーブ」が活躍する。この薪ストーブのある生活が、一軒家を購入するきっかけになった最大の理由でもある。

この家の顔といえる信州発エイトノットの薪ストーブ(写真撮影/高木真)

この家の顔といえる信州発エイトノットの薪ストーブ(写真撮影/高木真)

薪ストーブのオーブンを利用してつくるメニューの定番はピザ(写真提供/向井さん)

薪ストーブのオーブンを利用してつくるメニューの定番はピザ(写真提供/向井さん)

まるで釜で焼いたような美味しさとのこと(写真提供/向井さん)

まるで釜で焼いたような美味しさとのこと(写真提供/向井さん)

「薪ストーブの生活は、すごく労働が求められる。毎年2~11月の間に、薪となる木材を求めてりんご園などへ出かけています。手伝いをした対価として、いらなくなった木をもらってくるんです」と話す向井さん。こうして集めた木材を、切断して庭の棚で乾燥させておき、冬の間、薪としてストーブに使うという。

すっかり薪割りの名人(写真撮影/高木真)

すっかり薪割りの名人(写真撮影/高木真)

2月から11月の間に、薪ストーブ用の薪を調達し冬に備える向井一家。これだけの薪が、ひと冬でなくなってしまうのだそう(写真撮影/高木真)

2月から11月の間に、薪ストーブ用の薪を調達し冬に備える向井一家。これだけの薪が、ひと冬でなくなってしまうのだそう(写真撮影/高木真)

またリビングの天井の角に通気口を開けたことで、2階にも薪ストーブの暖が伝わる仕組みになっている。これで寒い冬も薪ストーブの柔らかい暖かさが、家中に伝わる。「それでも密閉度が低いので、寒いときは寒いです」と笑う。そんなときは、暖かい温泉に浸かりに行けばいい。

1階の暖かいな空気は、この通気口を通して2階に渡る(写真撮影/高木真)

1階の暖かいな空気は、この通気口を通して2階に渡る(写真撮影/高木真)

「薪の火つけや火加減は息子の仕事」と話す向井さん。リノベ作業でも大活躍した息子は、家づくりから、日々の家のメンテナンスまで、積極的に自分の住む家とかかわっている。

今や薪ストーブの名人となった息子(写真撮影/高木真)

今や薪ストーブの名人となった息子(写真撮影/高木真)

「毎日がアウトドアみたいな生活なので、むしろアウトドアに出かける機会は減りました」とのこと。その代わり、引越しをしてから近所に住むアルピニストや山小屋のオーナーなどの登山にかかわる人と多く知り合い、家族で「登山」を楽しむようになったのだとか。

「入居したころは、周りの家の家主は、80代のおじいちゃんやおばあちゃんばかりでした。でも代替わりしてきて、東京から長野へ戻ってきた家族がいたり、市内から移り住んだ家族がいたり、息子の同級生も増えてきた。いろいろな世代が混ざっているこの街の雰囲気はとてもいいです」と向井さん。

ご近所付き合いも親密で、庭先で一緒にバーベキューを楽しんだり、息子は、近くのお寺でサッカーや野球、バドミントンなどをするようになったのだとか。最近では、近くに借りた小さな田んぼでもち米をつくり、年末には地域の人たちと餅つきを楽しむこともあるという。

家の近くに借りた畑では、もち米を育てている(写真提供/向井さん)

家の近くに借りた畑では、もち米を育てている(写真提供/向井さん)

中古物件の良さは、自由度が高いこと

「中古の家なので、気兼ねなく手を入れて変えられる」と話すSさん。大人3人と子ども1人だけで、梁を付け替え、壁を壊し、床を張り替えるといった作業を全てこなした向井さん家族にとって、引越してきた当初から2年間は、週末のほとんどをDIYに費やしたのだそうだ。プロの手は最低限しか借りず、家族だけで取り組んだプロジェクトゆえに、今ではすっかり愛着ある家が出来上がったという。

客間の上には息子の秘密基地が。天井を20cmほど下げてロフトスペースをつくった(写真撮影/高木真)

客間の上には息子の秘密基地が。天井を20cmほど下げてロフトスペースをつくった(写真撮影/高木真)

「まだ完成まで7割ほど」という向井邸。今は屋根瓦を塗り替えているところだという。今後は、中学生になる息子のための小屋を、庭先につくるつもりなのだとか。「どんな部屋にするか、今家族で相談しているところ」と向井さんはうれしそうに話す。

「日々の生活を大事にして生きているので、正直先のことを考えてはいません。松本の生活は、“別荘”で生活しているみたいな感覚なので、将来東京に戻りたくなったら東京に戻ればいいし、子どもの学校などで移動することになったら移動したらいい、そんな風に考えています」とはSさんの言葉だ。

住みたいところに住む「マルチハビテーション」を体現している向井家からは、日々の生活を大切にしながら、住む家のために、自分たちで考え、手を動かし、守っていることが伝わってくる。家族にとって心地いい場所が何なのか、探りながら行うリノベ作業が、家族の形をつくる上で、とても大切な時と場所なのだ。「“くたボロ”まで作業しても、かけ流しの温泉に入れるだけで生き返る」と話す向井さん。毎週末は温泉で英気を養い、平日は東京での仕事に精を出す二拠点生活は続く。

浅間温泉の街並みが見渡せるサンルームは、ゆったりとした時が流れる(写真撮影/高木真)

浅間温泉の街並みが見渡せるサンルームは、ゆったりとした時が流れる(写真撮影/高木真)

DIYセルフリノベについて書いたSさんのブログ元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169082_main.jpg

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テレワークが変えた暮らし[1] 理想の子育てと移住が叶った! 東京から山梨県北杜市へ

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テレワークが変えた暮らし[1] 理想の子育てと移住が叶った! 東京から山梨県北杜市へ

今年1月から山梨県北杜市への移住とともに、 テレワーク(リモートワーク)を始めた山本さん夫妻。テレワークって実際どう? 暮らしは移住以前と以後ではどう変わった? 経緯や暮らしぶり、今後についてインタビューした。
最初のきっかけは、単純な住み替えのはずだった

現在、山本さん夫妻は、ともに正社員として東京・南青山にある企業(取材当時・現在は本社を宮崎県西都市に移転)に在籍しながら、山梨県北杜市にある自宅の1室をオフィスにしてフルリモートで働いている。
八ヶ岳、南アルプス、富士山に囲まれた自然豊かな環境、満員電車とは無縁な生活、のんびりとした子育て環境。東京生活では得られない生活を、移住と転職で手に入れた形だ。

2歳になったばかりの息子と。「山々に囲まれた環境は東京では得られなかったものです」(写真撮影/相馬ミナ)

2歳になったばかりの息子と。「山々に囲まれた環境は東京では得られなかったものです」(写真撮影/相馬ミナ)

そもそも移住を考えたきっかけは?
「最初はよくある部屋探しだったんですよね」と山本さん夫妻。1歳の息子が歩き始め、夫婦ふたりで暮らすための40平米の1Kでは手狭に。「もっと広いところに引越さなきゃね、という話になり、通勤は30分以内で、駅からは徒歩圏で、家賃は9万円前後で……と検索するわけです。でも、決断できるほど、希望に合う物件はありませんでした」(妻)。

部屋探しは長期化。「そんななか、『そもそもどうして東京で家を探しているんだっけ』って。『仕事がそこにあるから? じゃあ、仕事さえどうにかなったら、住む場所ってもっと自由になるんじゃない?』という話になったんです」(夫)。
そこで、考えたのが「移住」という選択だ。
もともとキャンプなどのアウトドアが好きで、休日には東京を離れていたふたり。「いつか田舎暮らししてみたいなぁ、移住もアリかもな~と漠然と思っていたんです。でも、それって、別に“いつか”じゃなくて、“今”でもいいんじゃないかなって思えました」(夫)。さらに、「当時、まだ子どもが1歳で、小学校入学前の転校うんぬんの話にならない今って、実は絶好のタイミングじゃないかと考えたんです」(妻)と、移住が現実味を帯びることに。

山梨県北杜市の「保育園が近くの賃貸住宅」と出会う

そこで候補に挙がったのが、移住者に人気の街として知られる「山梨県北杜市」。東京から車で2時間程度と近いこと、自治体が移住者を積極的に誘致していること、アウトドアのスポットが豊富なことに惹かれた。
「とりあえず、一回行ってみよう」と日帰りで北杜市に。twitterや検索サイトで見つけた、実際の移住者や、別荘地専門の不動産会社などにアポを取り、話を伺うことに。さらに、市役所内にある移住者定住相談窓口に電話もしてみた。
そして見つけたのが、保育園の近くにある賃貸住宅。偶然にも趣味のキャンプで訪れたことのある キャンプ地の裏手という縁も感じて、申し込むことに。
「このあたりは待機児童もなく、保活が不要な点も魅力でした」(妻)。
運よく入居審査が通り、契約に。「移住といえばハードルが高いと思っていましたが、“あ、東京都内の引越しとさほど変わらないんだな”と、不思議な感覚になりました」(妻)。

住まいは75平米の3LDK。トランクルームと駐車場付きで家賃4万8000円と、東京では考えられない安さ。グレーのアクセントウォールはもともとの仕様でオシャレ(写真撮影/相馬ミナ)

住まいは75平米の3LDK。トランクルームと駐車場付きで家賃4万8000円と、東京では考えられない安さ。グレーのアクセントウォールはもともとの仕様でオシャレ(写真撮影/相馬ミナ)

バルコニーからの眺めも緑にあふれている。ハンモックを置き、のんびりとくつろぐことも(写真撮影/相馬ミナ)

バルコニーからの眺めも緑にあふれている。ハンモックを置き、のんびりとくつろぐことも(写真撮影/相馬ミナ)

仕事をどうするか――一番大きなハードルを転職で打破

ただし、移住の前に、一番大きなハードルがある。「仕事をどうするか」だ。
まずは、お互い、当時勤めていた会社に相談してみた。テレワーク(リモートワーク)は制度としてないものの、ネットを通じた仕事が多いため、交渉の余地があるのでは、と考えていたからだ。
その結果、マーケティング職である夫は、週に1回出社の条件付きテレワークが可能だったが、人事職であった妻は、扱う情報がデリケートなため、テレワークは困難という結論に。
「何度も話し合いの場を設けてくださり、 業務委託でライターになるという選択肢もありました。ただ、今までの経験を活かせることと、安定を重視した正社員という形態にこだわりたく、退職することにしました」(妻)。
そんななか、Twitterでたまたま見つけたのが、「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げ、働くメンバーのほとんどがテレワーカーという企業「キャスター」。 秘書、人事、経理、web運用に関するさまざまな業務をリモートで働くアシスタントに依頼できるサービスを提供している会社ゆえに、リモートが大前提の会社だ。「転職活動も独特で、面接もオンラインで受けました」(妻)。
一方、夫は普段は自宅で仕事をしながら、週に1回、朝6時の高速バスで東京へ通う生活を5カ月間続け、その後、妻の勤める企業に転職。100%テレワークとなった。
テレワークによって、家賃だけでなく、生活コストが格段に下がったことは大きなメリットだった。「東京にいたころは、週末ごとに2時間かけて郊外やアウトドアに遊びに行っていたので、その娯楽費がまず減りました。平日の外出もほぼ無くなり、洋服代やランチの外食費、飲み会代もなくなりました」(夫)。

車ですぐのキャンプ場PICA八ヶ岳明野へ友人たちと (写真提供/夫)

車ですぐのキャンプ場PICA八ヶ岳明野へ友人たちと (写真提供/夫)

移住によって、時間もコストも気持ちも余裕が生まれる

山本さん夫妻の現在の一日の過ごし方を教えてもらった。
夫は8時半~17時半、妻は8時~17時が勤務時間。2歳の息子を保育園へ、朝は夫が見送り、夕方のお迎えは妻が担当だ。
「通勤時間はゼロ。保育園もすぐ近くなので、時間に追われることがなくなりました。東京にいたころは時短勤務で16時半に会社は出るものの、通勤に1時間、保育園にお迎えに行って、家に帰って、夕食をつくって、食べさせて、お風呂に入れてと、毎日大変でした。夫も協力的でしたが、やはり帰ってくるのは20時ごろ。お迎えからのルーティンは1人だったので、いつも疲れていましたね」(妻)。
今は、時短勤務ではなく、フルタイムのテレワークに。それでも夕方18時には家族みんなで夕食をすませ、近所の温泉に出かけることもできる。突然の子どもの発熱も、夫婦で協力しあいながら看病できる。

暖房効率を考え、1部屋を夫婦共有の仕事部屋に。デスク、イス、PCモニターはテレワーク開始とともに購入したもの(写真撮影/相馬ミナ)

暖房効率を考え、1部屋を夫婦共有の仕事部屋に。デスク、イス、PCモニターはテレワーク開始とともに購入したもの(写真撮影/相馬ミナ)

テレワークはフリーランスと社員のイイトコ取り

同じ会社に在籍はしているが、職種やクライアントがそれぞれ異なるため、夫婦で会話することは少ない。自宅だが、仕事部屋を1室別に設けることで、自然と仕事モードに。「テレワーク=楽と思われるかもしれませんが、それは間違い。いわゆるプロセスが評価されることがなく、“何をやったか”という結果が重視されます。そういう意味では意外とシビア。フリーランスで働くのと同じかもしれません」(夫)。
ちなみにテレワークを推進する企業だけあって、「会わない」ことが大前提。毎日1度はある会議もWeb上で行う。「南青山のオフィスに行くことはないし、同僚はいますが、いわゆる職場の人間関係のストレスはありません。物足りない人もいるかもしれないけど、決して関係性が希薄なわけではないし、職場とは別のリアルなコミュニティもあるので十分です」(夫)。
さらに、オンとオフの切り替えを明確にするため、「18時以降は連絡してはダメ」というルールにしてある。申請すれば残業も可能だ。「ただ、残業をしなくても終えられる仕事量に調整してくれていると思います。こうした対応はフリーランスでは難しいとは思うので、“社員”としての業務形態にこだわったのは正解だったと思います」(夫)。

テレワークで新たに購入したのはコーヒーメーカー。仕事中の息抜きのための必需品となった(写真撮影/相馬ミナ)

テレワークで新たに購入したのはコーヒーメーカー。仕事中の息抜きのための必需品となった(写真撮影/相馬ミナ)

移住×テレワークは現在の自分の選択に過ぎないのかも

移住して良かったですか? と尋ねると、「もちろん。メリットしかないです」と答えたお二人。とはいうものの、当初は不安もあったそう。
例えば友人。それまでの東京での人間関係をゼロにすることに戸惑いがあったのも事実だ。「けれど、意外にも、私たちが田舎暮らしを始めたことで、それがきっかけで友人たちと遊ぶ機会が増えた気がします。離れていても会う人は会うし、近くに住んでいても縁が切れてしまう人もいる。それに、この北杜市は移住者が多く、似たような価値観の方が多いため、同じ年ごろの子どもをもつご近所さんなど、新たな友人が増えました」(妻)。

東京から遊びに来た友人たちと清里テラスへ。「私たちの友人らが来ると、いろんな観光地を訪れるきっかけにもなります」(妻、写真提供も)

東京から遊びに来た友人たちと清里テラスへ。「私たちの友人らが来ると、いろんな観光地を訪れるきっかけにもなります」(妻、写真提供も)

ただし、将来のことは未知数だというお二人。「もしかしたら、息子のよりよい教育環境を求めて、違う場所に暮らすかもしれないし、逆に、田舎ならではの仕事を始めるかもしれない。先のことは分かりません」(妻)というように、田舎暮らしもテレワークも、永続的な決断ではないそう。「ただ、いずれは田舎暮らしをしてみたかったし、子どもが小学生になって身動きが取れなくなったころに”あのとき移住してみればよかった”と後悔したくなかったんです。だから、”田舎暮らししてみたいけど、ハードルが高い”と尻込みしている人には、”案外、簡単だよ。単に引越しと変わらないよ”と言いたいですね。仕事は一番大きなハードルだけど、今後社会が変わっていくはず、変わっていってほしいと思っています」(夫)

四季の移り変わり、自然の不思議な力を目の当たりにする環境に魅了されているとか。「今の会社は副業OKなので、いつか地元のためになるような仕事にもチャレンジしたいです」(妻) (写真撮影/相馬ミナ)

四季の移り変わり、自然の不思議な力を目の当たりにする環境に魅了されているとか。「今の会社は副業OKなので、いつか地元のためになるような仕事にもチャレンジしたいです」(妻) (写真撮影/相馬ミナ)

●取材協力
山本さん夫妻
・夫のツイッター元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169145_main.jpg

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家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念

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家賃がマイホームに変わる?! 「家賃が実る家」がつくる住まいの新概念

以前、住宅購入を勧められたときに「家賃はお金をドブに捨てているようなもの」と言われたことがある。家賃を払い続けても、最後に何も手元に残らないと言いたいのだろう。でも、もしその家賃でマイホームが手に入るとしたら……? 今回は、毎月、家賃を払い続けると、借りていた家が自分のものになるという新しい不動産システムを紹介。そんな夢のような仕組み、本当にあるの?
家賃を払い続けたあとに“家”が残る、賃貸と分譲のハイブリッド

例えば月々10万円の家賃だと、1年で120万円。10年で1200万円になり、20年で2400万円、25年で3000万円になる。敷金礼金や更新料などを含めるとさらに出費は増えるだろう。3000万円と言えば、エリアや立地、広さなどにもよるが、新築の一戸建てが買える額だ。だから、「25年間、家賃を払い続けても、25年後には何も残らない」という理由で、賃貸よりも購入に軍配をあげる人がいるのもうなづける。

だが、家賃を払い続けた後に、「家」が残る賃貸がある。それが”家賃が実る家”だ。その上、エリアが選べたり、間取りや内装なども自分で選んでカスタマイズできる。いわば賃貸と分譲のハイブリッドなのだ。
仕組みはこうだ。まずは、建物の間取りや設備を選んで、内装や外装のカラーを選択しプランニングを済ませたところで支払う期間や家賃を決定する。その後、通常の賃貸と同様に身分証明書などにもとづいた入居審査を受ける。続いて土地の選定に取り掛かる段階で、登録事務手数料5万円(税別)と保証料等20万円(うち5万円は信用保証料、15万円は契約時の仮登記費用に充当)を支払う。希望の土地が決定し、大家(賃貸人)が確定してから建築を開始。約6カ月の工期を経て完成、入居となる。

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

審査は賃貸借契約の入居審査のみなので、金融機関の住宅ローン審査に通らなかった人でも、申し込みが可能。原則として三親等内の親族が連帯保証人となる必要があるが、親族以外の方の連帯保証人でも申し込みはできる。

入居後、あらかじめ決めた期間、家賃を払い続けると、期間終了後にその土地と建物の所有権が自分に移り、自分の所有物となる。所有権移転までの賃貸契約期間は10年~28年の範囲で設定が可能。北海道と沖縄を除く全国の希望エリアで建築できるが、東京23区内など地価が非常に高いエリアや、地方政令指定都市の駅前の商業系、工業系地域は選定できない。賃貸経営ができないエリア、中古住宅の市場(需要)がないようなエリアも同様だ。

なお、途中で退去する場合は、手続きを踏むことで途中解約が可能。建物の原状回復費用と「譲渡を受ける権利」を保全するために設定した仮登記の抹消費用を負担することになる。原状回復費用は間取りや建物の使用状況により異なるが、ハウスクリーニング費用と借り手の故意・過失により損耗した修繕費用を負担することになっている。

地方の人口流出を食い止め、移住定住を促すために考案

そもそもどのような経緯でこのような仕組みが出来上がったのだろうか。“家賃が実る家”を手掛ける株式会社Minoru代表取締役の森裕嗣さんに聞いた。

「私は秋田県内では賃貸管理・仲介、売買、建築業を営んでいますが、秋田県は、日本で最も速いスピードで人口が減少しているエリア。それだけに、人口流出に歯止めをかけ、移住定住を促進できないかと、その方策を模索していました。そんな中、『持ち家を購入する人は、基本的に定住する覚悟を持っている。だから、賃貸入居者が賃貸感覚で簡単にマイホームを取得できる仕組みがあれば、持ち家のハードルが下がり、定住性が高まるのではないか』という考えが浮かんだのです」(森さん)

このビジネスモデルを構想してからというもの、森さんは法務や税務、システム開発等、事業を実現するためのさまざまな課題解決に奔走、「最後に家が借り手のものになる」という仕組みも、入居時の契約や手続きによって可能にした。

「入居の際に、『賃貸契約』と『贈与予約契約』を締結して仮登記します。この二つの『賃貸契約』と『仮登記』をすることで、入居期間が終了した後の所有権移転を担保しています」(森さん)

こうして秋田で事業を開始、さらに構想から5年後の2018年12月には、事業を全国にリリースすることとなった。会員数は7355人に上っている(2019年12月現在)。

株式会社Minoru代表取締役の森裕嗣さん。大学卒業後、デベロッパー勤務、都内での不動産会社設立を経て、妻の故郷である秋田県でリネシス株式会社を設立。後に譲渡型賃貸住宅ネットワーク事業を新設分割し、株式会社Minoruに継承した(画像提供/Minoru)

株式会社Minoru代表取締役の森裕嗣さん。大学卒業後、デベロッパー勤務、都内での不動産会社設立を経て、妻の故郷である秋田県でリネシス株式会社を設立。後に譲渡型賃貸住宅ネットワーク事業を新設分割し、株式会社Minoruに継承した(画像提供/Minoru)

住宅ローンが借りられなくても持ち家が手に入る

秋田県・Aさん(家族構成:母、子2人))の場合

すでに“家賃が実る家”に入居して4年になる秋田県のA(41歳)さんは、「家賃が最終的に自分の資産となる」という点を大いに評価している。

「離婚して子どもたちとアパートに引越すところだったのですが、”家賃が実る家”のことを知って、こちらを選びました。アパートに住んでいたら、家賃は” ただ出ていくだけ”になるわけですが、このシステムだと捨てずに済む。それがとても良いと思いました」(Aさん)

それまで住んでいたところの近所という希望がかなったので土地勘もあり、子どもは転校させずに済んだ。リビングとキッチンがゆるく区切られていることや、リビングから階段で2階に上がる間取りも希望通りだったし、好みの茶系のインテリアでまとめられた点にも満足している。

Aさん宅の内装。建具がAのさん好みの茶系ベースとなっている(画像提供/Minoru)

Aさん宅の内装。建具がAさん好みの茶系ベースとなっている(画像提供/Minoru)

(画像提供/Minoru)

(画像提供/Minoru)

入居後4年経った今、「外壁を汚れが目立たない濃い色にして良かった」と実感しているそう(画像提供/Minoru)

入居後4年経った今、「外壁を汚れが目立たない濃い色にして良かった」と実感しているそう(画像提供/Minoru)

間取りは現在80種類から選べるようになっている(画像提供/Minoru)

間取りは現在80種類から選べるようになっている(画像提供/Minoru)

「住宅ローンの審査に通るかどうかは分からなかったので、賃貸契約の審査だけで家が持てるのは、女性一人で2人の子どもたちを育てる上で、とてもラッキーだったと思います。家賃は約7万円で、入居期間である30年間(*1)支払い続けられるかどうか、多少の不安はありますが、所有権が自分に移るまでは大家さんがメンテナンスをしてくれて(*2)、固定資産税なども払わなくて済む点は助かります」(Aさん)

*1:Aさんの契約時は最長入居期間が30年だった。現在は10~28年の範囲で設定することになっている
*2:入居してから15年間の修繕は、入居者の故意過失でない限り、電球や蛍光灯の交換等の軽微な修繕以外は賃貸人(大家)が負担。16年目以降の修繕費は入居者(所有権移転が済んでいる場合は所有者)が負担することになる

Aさん宅の間取図。リビングから廊下を経ずに階段で2階に上がれるつくりがAさんのお気に入り。2階の洋室はコンパクトながらも間仕切りで3つに仕切られているので、家族全員が個室を持つことができた(画像提供/Minoru)

Aさん宅の間取図。リビングから廊下を経ずに階段で2階に上がれるつくりがAさんのお気に入り。2階の洋室はコンパクトながらも間仕切りで3つに仕切られているので、家族全員が個室を持つことができた(画像提供/Minoru)

貸し手たちは安定的な投資先として評価している

茨城県・Bさん(父、母、子2人)の場合

一方、茨城県のBさん(40代)は、現在、建物のプランを確定したところだ。

「賃貸に住みながら、最後に自分のものになるという手軽さが魅力でした。実家の近くという希望エリアに土地を見つけてもらった上、私たち4人家族に合わせたプランを提案してもらえたので、希望通りの仕様の家が建てられそうです」(Bさん)

Bさんが建築を予定している一戸建ての完成予想イメージ。外壁はインパクトのあるブルーで、内装は白とベージュを基調とした明るいトーンにまとめている(画像提供/Minoru)

Bさんが建築を予定している一戸建ての完成予想イメージ。外壁はインパクトのあるブルーで、内装は白とベージュを基調とした明るいトーンにまとめている(画像提供/Minoru)

予定している家賃は11万円で、現在の家賃14万円よりも月々の支払いは減少する見込み。入居期間は20年としてあるので、入居後20年経ったときに所有権が移転することになる。所有権移転後は、固定資産税や都市計画税などの税金や修繕費などの維持費は自分で負担することになる(修繕費は入居後16年目から自己負担が発生)。

「大家さんが決まらないので、いつ家が完成して入居できるのかがまだ分からない点が不安ではありますが、住宅ローンを借りなくても良いことや、固定資産税・火災保険料などがかからない点がお得だと思います」(Bさん)

”大家さん”、つまり貸し手である賃貸人は、Minoruの取引相手である不動産投資経験者のオーナーだ。入居者が決めた土地・プランに対して、投資する価値があると判断した投資家が、資金を投資して”大家”となる。人口減少時代に危機感を持つ不動産投資家にとって、今後、どれだけ賃料が低下して、空室リスクが高まるのかが不透明な状況は不安なもの。”家賃が実る家”のように、住み続けることを前提とすることで賃料低下のリスクがなく、原則として空室も生じないシステムは、不動産投資家から、不動産投資の一策として評価されているのだという。

なお、賃貸人が破産した場合は、賃貸を続けられなくなった場合は、破産管財人からの任意売却を活用して、次のオーナーへの売却を進め、権利関係の承継を行うとのことだ。

Bさんが建築を予定している一戸建ての間取図。1階に20.4畳のLDK、2階に7畳の洋室を3室確保。主寝室にはウオークインクローゼットも備えている(画像提供/Minoru)

Bさんが建築を予定している一戸建ての間取図。1階に20.4畳のLDK、2階に7畳の洋室を3室確保。主寝室にはウオークインクローゼットも備えている(画像提供/Minoru)

入居希望者の約7割は30~40代のファミリー

対して、賃借人、つまりこのシステムでマイホームを手に入れようとしている入居希望者は、9割以上が家庭を持つ世帯。年齢層で言うと、45~49歳が最多で24.0%。40~44歳が17.5%で続き、40代だけで4割強を占めている。次いで、35~39歳が13.9%、30~34歳が13.4%と、30~40代が全体の7割弱。世帯年収では、200万~400万円が33.4%と全体の約3分の1で最多であり、400万~600万円の19.7%と合わせて半数以上が世帯年収200万~600万円の層に集中している。

「通常、賃貸物件では、間取りや内装を自分で選んだり、賃料を設定することができませんが、”家賃が実る家”なら、スマートフォンで新築一戸建てのプランニングが可能。自分の収入に応じて賃貸期間と賃料を選択することができます。勤務先に家賃補助や住宅手当などの制度がある場合、持ち家や実家住まいでは補助が受けられないことが多いのですが、”家賃が実る家”ならこうした補助も受けられるので、そうした点も入居を希望する動機のひとつとなっているようです」(森さん)

不動産業界にとっても、このシステムは画期的だったようだ。全国宅地建物取引業協会連合会の不動産総合研究所が年1回発行する「Renovation2019」という研究報告書で「新しい不動産業」として取り上げられたのをはじめとして、不動産業界誌など80以上のメディアで紹介されたという。賃貸と分譲のいいとこ取りをしたこの仕組みに、業界全体が注目しているのだろう。

地方自治体との官民連携事業も始まっている。宮城県大郷町では、指定の農業法人に勤めることでマイホームが手に入るという、「職」と「住」を同時に提供する職住一体型移住定住促進事業が、同社との提携で実現しているのだ。地方が抱える問題解決という目的のもと、同社の取り組みが周囲を巻き込みながら広がりつつあることを示す一例といえそうだ。

月々支払う家賃がそのまま住宅の代金になるという、一見、夢のようなシステムだが、人口減少時代を背景に、不動産投資家のニーズや社会の課題解決なども包括する現実的なビジネスモデルであることが分かった。入居者と大家の両者がWin-Winの関係でないと成立しないこのシステム。賃料の設定方法などがまさにこのビジネスモデルの肝になるのだろう。この「新しい不動産業」が、人口減少時代の課題解決に寄与するかどうか。今後の展開を注視したい。

●参考
・家賃が実る家元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169186_main.jpg

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森林調査、2割が農山村に定住意向あり、7割が木造住宅を選びたい

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森林調査、2割が農山村に定住意向あり、7割が木造住宅を選びたい

森林の存在や木材の利用は、私たちの生活に深くかかわっており、その効用にも注目されている。内閣府が「森林と生活に関する世論調査」の令和元年版(全国の18歳以上の3000人を対象に個別面接形式で実施、有効回収率51.5%)を公表した。そのなかから、「農山村での暮らし」や「木造住宅」に関する結果について、詳しく見ていこう。【今週の住活トピック】
「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」を公表/内閣府約2割が農山村に定住意向あり。農山村での森林浴や景観は魅力

まず、「農山村に定住してみたいと思いますか」と聞いたところ、「定住してみたい」(定住してみたい8.6%+どちらかといえば定住してみたい12.2%)という回答が20.8%と、約2割が定住の意向があることが分かった。また、「既に定住している」割合は14.1%だった。

定住意向のある人に「定住する場合に就いてみたい職業」を聞いたところ(複数回答)、「農業」を挙げた割合が最も高く56.4%で、次いで「第3次産業(農業以外の小売業、飲食サービス業、医療業など)」の22.1%となった。一方、「就いてみたい職業はない」の割合が15.6%と3番目に多くなった。定住する場合に、どんな仕事をしていくかは課題になりそうだ。

次に、「農山村に滞在して休暇を過ごす場合、どのようなことをして過ごしてみたいと思いますか」(複数回答)と聞いたところ、「森林浴により気分転換する」が43.1%、「森や湖、農山村の家並みなど魅力的な景観を楽しむ」が41.4%となり、4割以上が森林浴や景観に魅力を感じていることが分かった。

農山村に関する企画への参加意向(複数回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

農山村に関する企画への参加意向(複数回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

政府は「定住人口」「関係人口」「交流人口」で地域創生を狙う

さて、地域創生を掲げた政府だが、就労などのハードルが高い「定住人口」や観光目的の短期的な「交流人口」の創出に加え、「関係人口」の創出を打ち出している。関係人口とは、地域に関心をもち、地域や地域の人々と多様にかかわっていこうとする人々のことだ。

「農山村に関する企画への参加意向」の調査は、関係人口の可能性につながるものだろう。選択肢にあるような「地域の特産品購入」を定期的に行うことや「自然と触れ合う体験」、「伝統的な文化の体験」などで頻繁に地域を訪れることも、関係人口に該当する。

定住意向の有無にかかわらず、こうした企画に参加意向のある人が多いということが、将来的な関係人口へとつながることを期待したい。

木造住宅を選びたい人が7割超、ただし若年層では約6割に

調査では、木造住宅に関する項目もある。「仮に今後、住宅を建てたり買ったりする場合、どのような住宅を選びたいと思うか」を聞いたところ、「木造住宅(昔から日本にある在来工法のもの)」の割合が47.6%、「木造住宅(ツーバイフォー工法など在来工法以外のもの)」の割合が26.0%で、木造住宅の合計が73.6%になった。「非木造住宅(鉄筋、鉄骨、コンクリート造りのもの)」の23.7%に比べると、木造住宅を選びたいという回答が多いことが分かる。

木造住宅か非木造住宅かの意向(単一回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

木造住宅か非木造住宅かの意向(単一回答)(出典/内閣府「森林と生活に関する世論調査(令和元年10月調査)」)

前回調査(2011年10月調査※20歳以上に調査)と比べると、「木造住宅(在来工法)」で8.4ポイント減少、「木造住宅(在来工法以外)で1.3ポイント増加という違いが見られたが、依然として木造住宅の意向が高いことが分かる。

ただし年齢別に見ると、若い世代ほど「非木造住宅」を選びたいと回答する割合が高くなり、18~29歳では、「非木造住宅」(39.4%)、「木造住宅(在来工法以外)」(37.9%)、「木造住宅(在来工法)」(21.2%)の順で、木造住宅の合計は約6割だった。マンションなどの非木造住宅がマイホームとして定着し、現在マンションで暮らしている人などが多いという背景もあるのだろう。

では、「様々な建物や製品に木材を利用すべきと思いますか」と聞くと、「利用すべきである」(利用すべきである53.8%+どちらかといえば利用すべきである35.2%)が89.0%と9割近くを占めた。

「利用すべきである」と回答した人に、「木材を利用すべきと思う理由」(複数回答)を聞くと、「触れた時にぬくもりが感じられるため」(62.7%)、「気持ちが落ち着くため」(57.8%)、「日本らしさを感じるため」(49.5%)、「香りが良いため」(40.7%)が上位に挙がった。

一方、「利用すべきない」と回答した人に、「木材を利用すべきではないと思う理由」(複数回答)を聞くと、「森林破壊につながる印象があるため」(63.0%)、「火に弱い印象があるため」(35.3%)、「地震に弱い印象があるため」(30.3%)が上位に挙がった。

また、「どのような施設に木材が利用されることを期待するか」(複数回答)を聞いたところ、「保育園などの保育施設や幼稚園、小・中学校などの教育施設」が75.6%と最多だった。

木材は二酸化炭素を吸収してくれるし、繰り返し生産できる循環型の資源でもある。自然環境に優しいことに加え、調査結果からも分かるように、森林には森林浴や自然美あふれる景観などの魅力があり、木材の利用には木のぬくもりを感じたり、気持ちを落ち着けたりする効果が期待できる。

木材を活用してきた日本社会では、木造住宅を選ぶ意向も高い。半面、火災や地震に弱いことへの懸念もある。最近では、RC造(鉄筋コンクリート造)などと同等の防火性能を有する木造建築物が認められるようになり、設計上の工夫や技術開発などによって、木造建築物の安全性を高められるようになっている。木材活用の可能性が広がることに期待したい。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169189_main.jpg

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【カップル&ファミリー編】新橋駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

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【カップル&ファミリー編】新橋駅まで30分以内・中古マンション価格相場が安い駅ランキング 2019年版

さまざまな企業がオフィスを構え、「サラリーマンの聖地」とも呼ばれる新橋駅。仕事後の憩いの場である居酒屋も豊富にあり、新橋で働く人のなかには「家が近ければ飲んでから帰宅するのも楽なのにな……」と夢想したことがある人もいるのでは。そこで、新橋駅から30分以内にある中古マンションの価格相場を調査した。今回は専有面積50平米以上~80平米未満の物件をランキング。価格相場が安い駅TOP20をご紹介しよう。●【カップル&ファミリー編】新橋駅まで30分以内の価格相場が安い駅TOP20
順位/駅名/価格相場(沿線/所在地/新橋駅までの所要時間)
1位四ツ木 2588万円(京成押上線/東京都葛飾区/25分)
2位お花茶屋 2730万円(京成本線/東京都葛飾区/29分)
3位京成高砂 2980万円(京成本線/東京都葛飾区/29分)
3位綾瀬2980万円(JR常磐線/東京都足立区/29分)
3位西新井 2980万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/30分)
3位京成立石 2980万円(京成押上線/東京都葛飾区/27分)
7位国道3074.5万円(JR鶴見線/神奈川県横浜市/29分)
8位船橋3120万円(JR総武線/千葉県船橋市/30分)
9位青砥3180万円(京成押上線/東京都葛飾区/29分)
10位小菅3200万円(東武伊勢崎線/東京都足立区/30分)
11位尾久3380万円(JR東北本線/東京都北区/15分)
11位新子安3380万円(JR京浜東北線/神奈川県横浜市/29分)
13位大鳥居3394万円(京浜急行空港線/東京都大田区/29分)
14位葛西臨海公園3480万円(JR京葉線/東京都江戸川区/28分)
15位小村井3580万円(東武亀戸線/東京都墨田区/30分)
15位八広3580万円(京成押上線/東京都墨田区/22分)
17位八丁畷3590万円(JR南武線/神奈川県川崎市/28分)
18位町屋3615万円(東京メトロ千代田線/東京都荒川区/25分)
19位曳舟3680万円(東武伊勢崎線/東京都墨田区/26分)
20位新小岩3690万円(JR総武線/東京都葛飾区/19分)

葛飾区に位置する京成押上線の駅が1位、3位、9位にランクイン

1位は京成押上線・四ツ木駅で価格相場は2588万円。今回調査の基点駅にした新橋駅の価格相場は6520万円だったので、その2分の1以下という結果だ。

四ツ木は人気サッカー漫画『キャプテン翼』の作者の出身地という縁から、2019年3月より駅構内が『キャプテン翼』の特別装飾に彩られている。駅の周辺には『キャプテン翼』の主人公・大空翼の像が立つ「四つ木つばさ公園」をはじめ公園が点在。また、駅西側を流れる荒川の河川敷は自然を感じる環境で、子育てファミリーにもよさそう。50店舗ほどが軒を連ねる「まいろーど四つ木商店街」やスーパーもあり、生活しやすい街だろう。

3位は四ツ木駅から1駅の京成押上線・京成立石駅。この京成立石駅も1位・四ツ木駅も、都営浅草線直通の電車に乗れば、乗り換えせずに新橋駅まで行くことができる。駅周辺には商店がひしめく「立石仲見世商店街」やちょっとディープな「呑んべ横丁」が広がり、昭和レトロな街並みに惹かれて訪れる人も。どこか懐かしく親しみやすい雰囲気が魅力の一方で、街の再開発が計画されている。今後、駅の北側に35階建て、南側に34階建ての高層ビルが着工予定で、街並みが大きく変わっていく。現在の価格相場は2980万円だが、これも上昇していきそうだ。

呑んべ横丁(写真/PIXTA)

呑んべ横丁(写真/PIXTA)

9位の青砥駅(あおと)は、京成押上線の始発駅。四ツ木駅や京成立石駅よりも千葉寄りではあるが、快速、特急などすべて停車、京成本線も利用でき座って通勤できるメリットも。駅周辺には、親子カフェが併設されている駅から徒歩15分の子ども総合センター(「健康プラザかつしか」内)やスーパーもあり、子育てしやすい環境といえる。

隣接する駅なのに価格相場に900万円以上の開きがある場合も!

葛飾区と隣接する荒川区で唯一ランキングに入ったのは、18位の東京メトロ千代田線・町屋駅だ。京成本線も乗り入れているほか、都電荒川線・町屋駅前停留所もあり3路線が利用できる。駅前にはスーパーやドラッグストア、そして3フロアにわたり飲食店や服飾・雑貨店などが並ぶショッピングセンター「サンポップマチヤ」がある便利な環境だ。

町屋駅(写真/PIXTA)

町屋駅(写真/PIXTA)

さて、1位・四ツ木駅、3位・京成立石駅、9位・青砥駅と同様に15位・八広(やひろ)駅も京成押上線の駅。そして青砥駅~京成立石駅~四ツ木駅~八広駅の順に連続しており、この4駅は電車で5分ほどしか離れていない。にもかかわらず、15位・八広駅の価格相場は3580万円で1位・四ツ木駅よりも900万円以上高い。この2駅は荒川を挟んで隣り合う各駅停車の駅で、1駅遠くに行くだけで価格相場の開きが大きい結果となった。

その他注目の駅としては、7位はJR鶴見線・国道(こくどう)駅。高架にある無人駅で1930年の開業以来、そのままの雰囲気を残す時が止まったかのようなレトロな雰囲気だ。駅東側に鶴見川が流れ、川を少し南下すれば東京湾という海が近いロケーション。そんな立地からか、駅近くには鮮魚店が連なる「生麦魚河岸通り」がある。魚好きにはたまらない環境だが、昼前には営業終了なので早起きして買い物に出かけたい。また、駅から5分ほど歩くと京急本線・花月園前駅があるので、行先に応じて路線が使い分けられるのもうれしいところだろう。

東京の東側の区が上位を占めた今回のランキング。20位までで約1000万円の価格の開きがあった。今回ランキングに上げた駅の条件はすべて乗り換え2回以内で新橋に行けることだが、物件探しをする際は「新橋駅からの近さ」といった距離のみならず、停車する列車のタイプや本数なども考慮し譲れる部分を見つければ予算にあった街が見つけやすいだろう。

●調査概要
【調査対象駅】新橋駅まで電車で30分圏内の駅(掲載物件が11件以上ある駅に限る)
【調査対象物件】駅徒歩15分圏内、築年数35年未満、物件価格相場1500万~1億円、専有面積50m2以上80m2未満、敷地権利は所有権のみ
【データ抽出期間】2019/5~2019/7
【物件相場の算出方法】上記期間でSUUMOに掲載された中古マンション価格から中央値を算出
【所要時間の算出方法】株式会社駅探の「駅探」サービスを使用し、平日の日中時間帯の検索結果から算出(乗換時間を含む)
※駅名および沿線名は、SUUMO物件検索サイトで使用する名称を記載している
※ダイヤ改正等により、結果が変動する場合がある
※乗換回数が2回までの駅を掲載
※ランキングで掲載している駅は、「駅探」サービスで、7時30分以降に出発し、8時30分までに30分以内で到着できることが確認できた駅を採用元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169254_main.jpg

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「勝間和代さんに聞く“汚部屋“ 一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」「サブスクリプション型住宅サービスの違い」【11月人気記事まとめ】

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「勝間和代さんに聞く“汚部屋“ 一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」「サブスクリプション型住宅サービスの違い」【11月人気記事まとめ】

新元号が変わり最初の年末が訪れようとしています。節目のタイミングを意識してか、SUUMOジャーナルで11月に公開した記事では「勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」や 「”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用」などが人気でした。TOP10の記事を詳しく紹介します。
11月の人気記事ランキングTOP10はこちら!

1位 勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」
2位 団地から「街」へ。温浴施設などを備えた相武台団地の取り組み
3位 ”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用
4位 シングルマザー向けシェアハウスは母子家庭支援として成功する? リアルな生活事情も
5位 アドレスホッパーに聞いた「Hostel life」「ADDress」「HafH」の違いって?
6位 団地はどう変わっていく?「ハラッパ団地・草加」に見る新しい暮らし
7位 4割が住宅ローン選びに後悔!注意点はある?
8位 「名古屋駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版
9位 サブスク型住居サービス「ADDress」を体験。暮らしの新たな価値を見た
10位 あなたは「旧耐震マンション」の建築時期を知っていますか?
※対象記事:2019年11月01日~2019年11月30日までに公開された記事
※集計期間:2019年11月01日~2019年11月30日のPV数の多い順

1位 勝間和代さんインタビュー:“汚部屋“が一転、一番快適な場所に! 人生が変わったきっかけとは」

(写真提供/文藝春秋)

(写真提供/文藝春秋)

著名な経済評論家の勝間和代さん。かつては多忙さによる「汚部屋」「収納破産」な生活を送っていましたが、断捨離を決心したきっかけや、思い切った断捨離から約4年経過後の現在の生活、ライフスタイルの進化を伺いました。

2位 団地から「街」へ。温浴施設などを備えた相武台団地の取り組み

(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

(写真提供/神奈川県住宅供給公社)

近年、魅力が見直されつつも、さまざまな課題も抱える団地。衰退の危機にさらされていた、相模原市の築50年を超えた相武台団地は、高齢者や子育て世帯などサポートの必要な人にとって暮らしやすい場所にするため、温浴施設を開設しました。新しい団地のあり方を紹介しています。

3位 ”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用

(画像提供/JR中央ラインモール)

(画像提供/JR中央ラインモール)

大規模な高架下スペースの再開発が進む昨今、JR東日本が手がけたのは初の高架下賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」。鉄道アクセスの良い商業施設だけでなく、コミュニティ空間としても活用されている高架下の今を探ります。

4位 シングルマザー向けシェアハウスは母子家庭支援として成功する? リアルな生活事情も

(写真/水野浩志)

(写真/水野浩志)

収入の不安定さが、シングルマザーの家探しの大きな課題になっています。それを支える手段として注目されているのがシェアハウス。彼女たちを対象にしたシェアハウスにお邪魔し、入居者や家主へのインタビュー。その必要性や日常の課題、運営のヒントまで伺いました。

5位 アドレスホッパーに聞いた「Hostel life」「ADDress」「HafH」の違いって?

(写真提供/野口福太郎さん)

(写真提供/野口福太郎さん)

音楽や動画だけにとどまらず、暮らす場所にもサブスクリプション型サービスが広がっています。それぞれのサービスの違いを、3つのサービス全てを利用した、家を持たない生活を送る「アドレスホッパー」に聞いてみました。

6位 団地はどう変わっていく?「ハラッパ団地・草加」に見る新しい暮らし

(写真提供/ハラッパ団地・草加)

(写真提供/ハラッパ団地・草加)

1971年築の社宅をリノベしたハラッパ団地・草加は、全55戸が満室なだけでなく、40組以上も入居待ちがある人気物件。その理由は、敷地のゆとりなど団地ならではの設備面の魅力だけでなく、人とのつながりにあるようです。

7位 4割が住宅ローン選びに後悔!注意点はある?

(画像提供/PIXTA)

(画像提供/PIXTA)

家選びは人生最大の買い物と言われていますが、その費用である住宅ローンは、数十年にもわたる人生最大の「借金」です。「借金」で後悔している人のアンケート調査結果から、住宅ローン選びについて深掘りします。

8位 「名古屋駅」まで電車で30分以内、家賃相場が安い駅ランキング 2019年版

名古屋駅(写真/PIXTA)

名古屋駅(写真/PIXTA)

リニア中央新幹線の設置へ再開発が進む名古屋駅へアクセスの良い駅の家賃相場ランキングから、オススメの駅をご紹介。車社会・愛知の中で電車移動にトコトコ注目したら、子育て向けの駅や学生に人気の駅など、さまざまな駅がピックアップされました。

9位 サブスク型住居サービス「ADDress」を体験。暮らしの新たな価値を見た

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

全国のゲストハウスやシェアハウスに滞在し放題のサブスクリプション型住居サービス「ADDress」を利用し、多拠点生活を実体験。実際に利用出来る物件の詳細や、会員と地域をつなぐスタッフとの話ともに、働く場所と住む場所の垣根を超えた未来を覗き見しました。

10位 あなたは「旧耐震マンション」の建築時期を知っていますか?

(写真/PIXTA)

(写真/PIXTA)

近い将来の大規模地震の可能性が指摘される中、誰もが気になるマイホームの耐震性。マンションの旧耐震と新耐震について、改めて確認。これからマンションを買う人も、すでにマンションを所有している人も参考にしてみてください。

リノベ団地の工夫とサブスクリプション型住宅サービスの詳細が、ともにランキング内に2本登場しているのが印象的でした。その根底でうかがえるのは、地域と、人どうしのつながりの重視。家を選ぶことは、人とのつながりを求めることと同義であるのかもしれません。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169249_main.jpg

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テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦

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テレワークが変えた暮らし[2]千葉から石川県金沢市へ。移住先で始めた複業で新たな夢に挑戦

近年、テレワーク(リモートワーク)できる企業が増えつつある。ITを活用した場所にとらわれない働き方だが、遠隔で働くことが、自分たちの暮らしにいったいどんな作用をもたらすのだろうか。今回は4年前に千葉県から石川県金沢市の移住をきっかけにテレワークを始めた須田麻佑子さんに経験談とメリット・デメリットを語っていただいた。
子育て環境を求めて社内フルタイム・テレワーカー第1号に

2015年5月に長男を出産。産休を経て、翌年5月には東京都内の職場へ復帰を控えていた須田さんは、家族の住まいと生活について真剣に向き合いはじめる。当時は千葉県津田沼市のマンションに3人暮らし。待機児童問題も我が身に振りかかり、保育園入園のハードルの高さを肌身に感じた。それに加えて夫妻そろって東京都内のオフィスまで通勤時間が1時間近くかかる環境に、子育てと仕事の両立への不安は増すばかりだった。

自然があり教育環境も良く、夫妻の出会ったきっかけの場所でもある石川県金沢市で子育てがしたい。とりあえず長い目でと夫が転職活動を始めてみると、思いのほかトントン拍子で話が進み、移住を検討しはじめて2、3カ月で内定が出た。担っていた業務内容が対面業務だったこともあり、須田さんは復職後の面談で会社に退職の意を申し出た。

自宅近くの犀川。金沢は自然が身近に感じられる環境である(写真撮影/イマデラガク)

自宅近くの犀川。金沢は自然が身近に感じられる環境である(写真撮影/イマデラガク)

金沢移住が決まったのは育休から復帰する二週間前だったが、子育て環境を優先し、須田さんは一度、退職を会社に申し出る(写真撮影/イマデラガク)

金沢移住が決まったのは育休から復帰する二週間前だったが、子育て環境を優先し、須田さんは一度、退職を会社に申し出る(写真撮影/イマデラガク)

職場復帰して半年後の退職が決まった須田さんだったが、日々チーム内にはたくさんの業務があり、そのなかで自分一人分が抜けてしまう……という状況に、居ても立ってもいられなくなり、どうにかこのまま会社を続けるという選択がないかと、自らテレワークの提案をしたところ、「やってみよう!」とマネージャーからも賛同を得ることができ、社内初のフルタイム・テレワーカーとして働くこととなった。

須田さんの所属する「特定非営利活動法人フローレンス」は、待機児童問題など子育てにまつわる社会問題の解決に取り組むNPO団体。組織としての働き方に対しても意識を向けており、須田さんのこれまでの業務や仕事への姿勢を加味したときにテレワークでも業務上支障がないと判断。社内でも特例としてフルタイムのテレワーカーへ移行した。須田さんは本社にて保育者の面接を含むスタッフの採用業務を担っていたが、金沢移住後は面接以外の入社手続き業務や代表の秘書としてスケジュール調整などを兼任することになった。

須田さんのご自宅は、築80年以上の町家をリノベーション。階段下にワークスペースを構えて仕事をしている(写真撮影/イマデラガク)

須田さんのご自宅は、築80年以上の町家をリノベーション。階段下にワークスペースを構えて仕事をしている(写真撮影/イマデラガク)

WEB会議システムを通じてミーティングに参加する須田さん(写真撮影/イマデラガク)

WEB会議システムを通じてミーティングに参加する須田さん(写真撮影/イマデラガク)

仕事の効率が向上し、社内にも良い変化が

「テレワークを経て一番の変化は、仕事にかけられる時間です。通勤時間がないので、家から徒歩5分の保育園に子どもを送り出せば、すぐに仕事が始められます。業務のやり取りもチャットがメインになったので、オフィスだとどうしても発生してしまう電話や会議の時間が減った分、業務効率は上がりました」と話す須田さん。仕事への集中度合いが大きく変化したようだ。

また社内でもテレワーカーの誕生で良い変化がおきた。須田さんの移住をきっかけのひとつにしてどんな場所に居ても働けるよう、組織全体で体制を整えたのだ。社内でも業務に支障が出ないよう、WEB会議システム用のマニュアルを作成したり、スピーカーフォンをそろえたりと、テレワーク環境が急ピッチで整備された。おかげで須田さんもすんなりと業務に取り組むことができたそうだ。

ただ、もともと人と話すことに抵抗のない須田さんが一番感じたデメリットとしては「雑談」がテレワーカーにはないこと。同僚の旅行の思い出話を聞いたり、ふとしたときに話しかける相手がいなかったりするのは寂しく感じるそう。その分、チャットツールで本社にいる社員とやり取りしたり、WEB会議システムを使った飲み会を開催したりなどして、業務外に積極的にコミュニケーションをとっている。

不定期開催のリモート飲み会。WEBを通じてオフタイムの社員同士の会話にも参加。他愛もない会話はここで満喫。須田さんは子育ての近況報告や金沢移住の状況などを話す(写真提供/須田麻佑子さん)

不定期開催のリモート飲み会。WEBを通じてオフタイムの社員同士の会話にも参加。他愛もない会話はここで満喫。須田さんは子育ての近況報告や金沢移住の状況などを話す(写真提供/須田麻佑子さん)

また都会ではなかなかできなかった自然とともに暮らす子育てができるようになり、人との距離が近い地方で一軒家を構えて生活しはじめたことで、自分も家族も、近所との距離感が年々近くなり、心がよりオープンになっていったと満面の笑みで話してくれた。

4歳の息子さんとともに図書館で本棚をつくるワークショップに参加(写真提供/須田麻佑子さんご友人)

4歳の息子さんとともに図書館で本棚をつくるワークショップに参加(写真提供/須田麻佑子さんご友人)

 町内会のイベントの様子。自宅の近所に流れる犀川で消防車の放水体験(写真提供/須田麻佑子さん)

町内会のイベントの様子。自宅の近所に流れる犀川で消防車の放水体験(写真提供/須田麻佑子さん)

地元で仲良くなった家族を招いてホームパーティー。都会だと知り合いも埼玉、千葉、横浜……と点在していてなかなか自宅に招きづらいが、金沢だとエリアが狭いので家族同士での集まりも声をかけやすくなったそう。人づきあいがしやすくなったのも魅力のひとつだと語る(写真提供/須田麻佑子さん)

地元で仲良くなった家族を招いてホームパーティー。都会だと知り合いも埼玉、千葉、横浜……と点在していてなかなか自宅に招きづらいが、金沢だとエリアが狭いので家族同士での集まりも声をかけやすくなったそう。人づきあいがしやすくなったのも魅力のひとつだと語る(写真提供/須田麻佑子さん)

地域とつながりができても、本業を辞めない理由

テレワークとして働くことにより仕事も子育ても充実した須田さんだが、なんと現在は週に1日、金沢で簡易宿所を運営する地元企業でも複業をしている。いわゆるパラレルワーカーだ。

複業として働いている「こみんぐる」のオフィス。ここで地域のイベントも積極的に行っているという(写真撮影/イマデラガク)

複業として働いている「こみんぐる」のオフィス。ここで地域のイベントも積極的に行っているという(写真撮影/イマデラガク)

須田さんは、金沢で簡易宿所を運営する「株式会社こみんぐる」運営メンバーとして、フローレンスでも使用していた管理システムを宿泊予約管理に導入した。これに伴い、スタッフの手間が大幅に軽減されたという。

「地元企業で複業することで、これまでは知り得なかった人脈がどんどん広がっていきました」と、そう熱っぽく話すのにはわけがある。須田さんはもともと地域ぐるみでの暮らし・子育てに興味があり、地域の助け合いによって子育てができるまちづくりをすることが夢だったのだ。フローレンスへの就職もその想いが背景にあった。

そのため、地元に直接関わる会社で働けることもうれしいが、さらに複業をきっかけに福井県の在宅医療のクリニックと縁ができ、医療的ケアが必要な子どもたちとの関わりを持つようになったことは大きな変化だったという。現在は、医療的ケアの必要な子どもたちやその家族が安心して旅行に出かけられるように、医療的ケア児の旅行ガイドラインを作成中だ。テレワークと複業を通じて、さらに新しい挑戦へと駒を進めている。

地元の会社に勤めることで人脈が県を超えて広がり、この地域でやりたいことも見出せた(写真撮影/イマデラガク)

地元の会社に勤めることで人脈が県を超えて広がり、この地域でやりたいことも見出せた(写真撮影/イマデラガク)

地元とのつながりもでき、地域でやりたいことも見つかった須田さんだが、それでも本業を辞めない理由は何故なのか? ふと湧いた疑問に、須田さんはこう答えてくれた。

「もともとフローレンスの仕事が好きだという気持ちもありますが、本業にも複業にもどちらにもいい影響があるからです。フローレンスは東京のNPO団体ですが、北陸でも保育や社会福祉、医療の領域で働く人の間ではフローレンスの認知度は高いと感じています。子育て中であることや、NPO団体で働いているということから、有識者として市から子育てと教育を考える懇話会に呼ばれることもあります。市の子育てや保育の環境について意見を求められることもあり、私自身も良い経験が積めています。こうして金沢で得た人脈や地域の特性を本社に共有することによって、フローレンスのビジョンの達成に貢献できるのでは、と思っています」

なるほど。地域に社員がいれば、支社機能がなくても組織のビジョンや取り組みが広がる場合もあるのだ。

時にはリスクヘッジ対策にも

「これはあくまで個人的な意見ですが、都心が災害に遭ったときのことを考えると、全ての本社機能が1カ所に集中しているのはリスクだと思います。特に都内だとインフラが駄目になると会社機能がストップしてしまうことが考えられます。業種や事業内容にもよりますが、テレワーカーを増やし、業務を分散して一時的でも他地域で経営を回せるようにしておくのは、会社にとってリスクヘッジになるのではないでしょうか。そういった目線でも分散型にしておくのは、これからの時代に必要な働き方になっていくと思います」(須田さん)

会社としても個人としても金沢にいる価値をフローレンスや地元住民の方々にもたらしたいと須田さんは照れ臭そうに笑った(写真撮影/イマデラガク)

会社としても個人としても金沢にいる価値をフローレンスや地元住民の方々にもたらしたいと須田さんは照れ臭そうに笑った(写真撮影/イマデラガク)

働く場所や社員同士が物理的に離れていると、お互いの心理的な面や作業効率などが見えないことが懸念となり、テレワークの導入を踏みとどまっている会社や個人も少なくない。しかし長い目で見れば、視野が広がるきっかけにもなりうる。テレワークは、個人の働き方や暮らし方を変えるだけではなく、新たに拠点とする街に住まう人たちの文化を知り、新たなビジネスにもつなげるチャンスにもなる。須田さんの話を通じて、そんなことを感じた。

思い入れのある犀川にて(写真撮影/イマデラガク)

思い入れのある犀川にて(写真撮影/イマデラガク)

●取材協力
・特定非営利活動法人フローレンス
・株式会社こみんぐる元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169291_main.jpg

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日本一の「自転車のまち」へ。サイクリストが集う茨城県土浦市の暮らし

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日本一の「自転車のまち」へ。サイクリスト達が集う茨城県土浦市の暮らし

日本で二番目に大きな湖である霞ヶ浦。そのすぐほとりに位置する茨城県土浦市では、今日本各地からサイクリストが集まりつつある。官民一体となってのまちづくりが功を奏している証拠だ。一体、どのような取り組みが成されているのか、土浦市へ向かってみた。
サイクリングロードをきっかけとして始まった取り組みとは

土浦市が、本格的にサイクリングに特化したまちづくりを始めたのは、2016年のこと。土浦市政策企画課の東郷裕人さんが教えてくれた。
「それまで、主なサイクリングロードは2つありました。筑波山方面の一本と、霞ヶ浦を回るルートです。それが茨城県の事業として合体することになり、全長180kmになる『つくば霞ヶ浦りんりんロード』として生まれ変わりました」

霞ヶ浦周辺をぐるりと楽しめるサイクリングロード。車の往来はそれほどないので、安心して自転車も走行できる(写真撮影/相馬ミナ)

霞ヶ浦周辺をぐるりと楽しめるサイクリングロード。車の往来はそれほどないので、安心して自転車も走行できる(写真撮影/相馬ミナ)

筑波山の麓まで行ってもよし、霞ヶ浦をぐるり一周するもよし、もちろん全てのルートを回ってもいい。茨城県を代表する風景を楽しめるサイクリングロードができたことで、土浦市はサイクリストが集う街への道を走り始めたというわけだ。

まず、環境整備としては、つくば霞ヶ浦りんりんロードに限らず、周辺の道は県道もあれば市町村それぞれが管理する道もある。各自治体で話し合い、統一のデザインで自転車走行の場所や方向を示すように整備された。サインクリングロードには、どこにも青い矢羽根が描かれている。

ちなみに霞ヶ浦の一周は約140km。アップダウンが少ない平坦な道ゆえに風景を楽しみながら、途中の温泉に寄ったり、道の駅で買い物をしたりと、ゆっくり走るのもいいだろう。しかし、子連れにはちょっと長い距離かもしれない。

商工観光課の中村良さんが話を続ける。

「一周するのが大変という方は『霞ヶ浦広域サイクルーズ』もおすすめです。自転車を乗せることができる遊覧船でショートカットする方法もあるので、そちらを利用してもらってもいいですね」

小さな子どもがいる人にも、さらには途中で雨が降ってきて早く戻らなくてはならなくなっても、遊覧船があれば安心だ。あらゆる状況を想定してサイクリングを楽しめるように考えられていることが分かる。

商工観光課の中村さん。自らも自転車に乗る機会が増えたという(写真撮影/相馬ミナ)

商工観光課の中村さん。自らも自転車に乗る機会が増えたという(写真撮影/相馬ミナ)

さまざまなニーズに対応すべく考えた施策

このように多角的な視点から「サイクリング」に取り組んでいることが伝わってくる。レンタサイクルは、市が運営するものもあれば、民間のものもあり、それぞれしっかり差別化されている。

例えば、貸出場所と返却場所は別でも大丈夫という乗り捨て可能なレンタサイクルもあれば、事前予約をするとレンタルできる今人気のスポーツタイプの電動アシスト自転車などの最新機種がそろうお店もある。さらには、専用アプリに会員登録をすれば早朝や深夜に借りたり返したりできる無人のステーションも。

一面ガラス張りで開放感のある「りんりんポート土浦」。自転車に特化した施設は、市として初めての試み(写真撮影/相馬ミナ)

一面ガラス張りで開放感のある「りんりんポート土浦」。自転車に特化した施設は、市として初めての試み(写真撮影/相馬ミナ)

「特徴を分かりやすくお伝えすることで、使い道にあった場所で借りていただければ、と考えています。さらに、サイクリストの憩いの場として、拠点となる施設である『りんりんポート土浦』もつくりました。トイレやシャワールーム、更衣室もあれば、自転車のメンテナンスができる道具やスペースもあります」(中村さん)

施設内にある自動販売機は、エネルギー補給のスイーツのほか、メンテナンス用の道具も販売されている(写真撮影/相馬ミナ)

施設内にある自動販売機は、エネルギー補給のスイーツのほか、メンテナンス用の道具も販売されている(写真撮影/相馬ミナ)

この『りんりんポート土浦』以外にも、まちなかの店舗や施設に『サイクルサポートステーション』というのぼりが立っている。そこではサイクリストに休憩場所を提供していたり、トイレを貸し出したり、空気入れや工具を用意していたりする。

休憩しながら、ルートを考えたり、他のサイクリストとコミュニケーションをとったりできるスペースになっている(写真撮影/相馬ミナ)

休憩しながら、ルートを考えたり、他のサイクリストとコミュニケーションをとったりできるスペースになっている(写真撮影/相馬ミナ)

「こうして少しずつ施設が増えることで、市全体でサイクリングを盛り上げようという意識が高まってきています。カフェメニューに自転車をかたどったスイーツをつくっていたり、パンクや鍵の紛失などに対応する自転車のロードサービスもできてきました」(中村さん)

ベースキャンプとなる駅ビルの開発

その流れの拠点となっているのが、土浦駅に直結している駅ビルである「PLAYatré TSUCHIURA」だ。

駅直結の「PLAYatré TSUCHIURA」は、市外からの玄関口になっている(写真撮影/相馬ミナ)

駅直結の「PLAYatré TSUCHIURA」は、市外からの玄関口になっている(写真撮影/相馬ミナ)

「日本最大級のサイクリングリゾート」をコンセプトに立ち上げたという。主任の髙梨将克さんに話を聞いた。

「土浦駅はサイクリングコースの『つくば霞ヶ浦りんりんロード』のスタート地点であり、首都圏からの玄関口でもあるので、ここをベースキャンプとしてみなさんに楽しんでもらえたら、という考えでサイクリングに特化した施設になっています」

「PLAYatré TSUCHIURA」の1階にある「りんりんスクエア土浦」内に店舗を構える「le.cyc土浦店」。レンタサイクルや販売のほか、修理や情報発信、さらにはサイクルイベントも行っている(写真撮影/相馬ミナ)

「PLAYatré TSUCHIURA」の1階にある「りんりんスクエア土浦」内に店舗を構える「le.cyc土浦店」。レンタサイクルや販売のほか、修理や情報発信、さらにはサイクルイベントも行っている(写真撮影/相馬ミナ)

「PLAYatré TSUCHIURA」の1階と地下にある「りんりんスクエア土浦」は、茨城県が事業主体となり、JR東日本、アトレが連携して管理運営を行っている施設。先ほど説明した最新モデルのロードバイク等が借りられるレンタサイクルのほか、アプリ連携での無人のレンタサイクル、コインロッカーやシャワールームなど、手ぶらで来てもサイクリングを楽しめるような設備が整っている。

地下1階にある無人のレンタサイクルのエリアにも、シャワー室がある。入り口には防犯カメラもしっかりついていて安心して使える(写真撮影/相馬ミナ)

地下1階にある無人のレンタサイクルのエリアにも、シャワー室がある。入り口には防犯カメラもしっかりついていて安心して使える(写真撮影/相馬ミナ)

ここを拠点にしてほしいという思いの表れとしての情報発信スペースもあり、ここからどう回ればいいか、さまざまなルートのパンフレットがそろっている。

「le.cyc土浦店」内の情報発信スペース。それぞれの能力や希望に合わせたルートを提案している(写真撮影/相馬ミナ)

「le.cyc土浦店」内の情報発信スペース。それぞれの能力や希望に合わせたルートを提案している(写真撮影/相馬ミナ)

日本初のサイクリストに向けた駅ビルとは

見てください、と髙梨さんが指差した足元にはブルーのラインが描かれている。

「館内はどのフロアも自転車の持ち込みが可能なんです。そのルートを表しているのがこのライン。館内の店にはサイクルスタンドが設置されているので、自身の自転車のそばで安心して過ごしてもらえるようになっています」

青いラインが館内の各フロアに敷設されている。手前にある「PLAYatré」の刻印の入ったサイクルスタンドはビル内に設置されている(写真撮影/相馬ミナ)

青いラインが館内の各フロアに敷設されている。手前にある「PLAYatré」の刻印の入ったサイクルスタンドはビル内に設置されている(写真撮影/相馬ミナ)

サイクリストは、自分の自転車に愛着を持っているものだ。お金をかけている人も多いだろう。外の駐輪場よりも、そばのスタンドに置けることで安心というわけだ。サイクリストの心理に寄り添って細やかな配慮がされている施設であることが分かる。

「TULLY’S COFFEE」はイタリアの自転車メーカー「Bianchi」とコラボレーションした内装で、チェレステカラーを使ったサイクルスタンドがある(写真撮影/相馬ミナ)

「TULLY’S COFFEE」はイタリアの自転車メーカー「Bianchi」とコラボレーションした内装で、チェレステカラーを使ったサイクルスタンドがある(写真撮影/相馬ミナ)

館内にはカフェやレストラン、学習スペースのほか、茨城の良さを広く知ってもらおうと、地元で人気のベーカリーショップやスイーツを扱う店や、ワークショップを開催する書店が並ぶエリアもある。スタンドに自転車を置いて店内へ行く人もいれば、広いスペースで折りたたんで颯爽と駅構内へ向かう人もいる。

「従来、サイクリストが電車に乗るには、自転車を折りたたんだり広げたりするスペースがなくて大変だったんです。そういうサイクリストの声を一つ一つ拾って、どんな施設が必要かを考えてできた施設なんです」(髙梨さん)

レストランフロアも充実していて、自転車にまつわるディスプレーが目を引く(写真撮影/相馬ミナ)

レストランフロアも充実していて、自転車にまつわるディスプレーが目を引く(写真撮影/相馬ミナ)

「通り過ぎるのではなく、滞在する場所にしたくて」という髙梨さんの言葉通り、飲食店でも書店でも、学習スペースでも、たくさんの人がゆったりと過ごしているのが印象的だ。さらに2020年3月には、サイクリングや観光を楽しむためのホテル「星野リゾート BEB5 土浦」も完成する。

土浦市がサイクリングへ特化した取り組みを始めて2年。地元で自転車を利用する人や、首都圏からサイクリングに訪れる数もかなり増えてきている。官民一体となって走り続けてきた取り組みが、しっかりと根付いている証しだ。

●取材協力
土浦市
PLAYatré TSUCHIURA元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169334_main.jpg

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年末大掃除シーズン到来!床拭きの頻度はどの程度?二極化する掃除実態

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年末大掃除シーズン到来!床拭きの頻度はどの程度?2極化する掃除実態

年末の恒例行事といえば一家総出の「大掃除」か思い浮かぶが、最近では年末に大掃除をしない家庭も増えてきた。しない理由は、年代によって多少異なるようだ。大掃除の実態や二極化している様子を、アイロボットジャパンの調査結果から見ていくことにしよう。【今週の住活トピック】
「年末の大掃除に関する意識調査」結果を公表/アイロボットジャパン恒例ではなくなる!?家族で年末に大掃除をするのは約半数

お宅では、年末に大掃除をするだろうか?

実はこの時期に、年末の大掃除に関する調査結果が公表されることが多い。花王が実施した「『2018年の年末大掃除』に関する調査」では、2018年の年末大掃除の実施率は58%だった。また、ダスキンが実施した「第15回 ダスキン 大掃除に関する意識・実態調査」では、2018年の年末大掃除の実施率は55.9%で、過去3番目に低い実施率だったという。

一方、アイロボットジャパンが「年末に家族で大掃除をしますか?」と聞いたところ、「家族で大掃除をする」が50.3%と半数に達し、「家族では行わないが自身で行う」の28.7%と合わせると、79.0%が年末に大掃除をすると回答している。

Q:年末に家族で大掃除をしますか(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:年末に家族で大掃除をしますか(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

さきほどの花王の調査で、「2019年の年末に大掃除をする予定があるか」を聞いたところ、77%が実施予定だと回答していることから考えると、質問の仕方が「昨年に実施したか?」と「年末に大掃除をするか?」とでは、回答が多少異なるのだろう。

ただ、家族で年末に大掃除をする恒例行事的な習慣は、薄れつつあると言えそうだ

大掃除をしない理由は、年代によって異なる?

では、年末に大掃除をしない理由は、どういうものだろう?
アイロボットジャパンの調査結果によると、48.8%が「年末は忙しいので別の時期に掃除をする」と、42.9%が「日常定期的に掃除をしているので大掃除はしない」と回答し、理由は大きく2つに分かれた。「大掃除は業者に頼むので自分ではやらない」は4.8%だった。

2大理由ともいえる、「日常掃除で済ます」と「年末以外に行う」については、年代によって傾向が異なる。20代・30代では「日常掃除で済ます」派が多く、40代・50代では「年末以外に行う」派が多い。

Q:年末に大掃除をしない理由(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:年末に大掃除をしない理由(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

実は、最近は「秋掃除」や「春掃除」が効果的だと言われている。理由はいくつかある。
・油汚れなどが緩んで落としやすい
・水が冷たくない、お湯の温度を維持しやすい
・寒くないので窓を開けたままにできる
・洗ったものが乾きやすい
そう考えると「年末以外に行う」派は合理的といえるだろう。

普段おろそかにしている玄関まわりや窓まわり、カビ取りなど、日常の掃除だけでは手が回らないことも多い。日常の掃除に加えて、気になったときに小まめに“小掃除”するのが効果的だ。まとめてやるとなると億劫になるので、小掃除を習慣化することで効率アップを図る人も多いだろう。

「年末に大掃除をしない」背景には、それぞれの年代で、自分たちのライフスタイルに応じた合理的な掃除の仕方を工夫しているから、という見方もできる。

床拭きの頻度に大きな違いがあった!年1回程度VS週1回以上

さて、SUUMOジャーナル編集部と調査結果を見ていて注目したのは、「床拭きの頻度」だ。
この調査でいう床拭きが、水拭きを指すのか、から拭きだけでも床拭きというかは分からないが、床拭きの頻度はかなり二極化していた。

「日常の床拭きの頻度」を聞いたところ、最多は「週1回以上」の33.6%で小まめに床拭きをしている様子がうかがえる。次いで多かったのは、「月に1回程度」の29.1%だった。一方で、「大掃除の時や年に1回程度」が15.3%、「まったくしない」が15.5%と床拭き消極派が約3割もいることが分かった。

Q:日常の床拭き掃除の頻度(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

Q:日常の床拭き掃除の頻度(出典/アイロボットジャパン「年末の大掃除に関する意識調査」)

また、「自宅内で最も拭き掃除が必要と思われる箇所」を聞くと、1位が「リビング・ダイニング」(38.3%)、2位が「キッチン」(35.9%)だった。

敬遠されることもある床拭きだが、目には見えないホコリや汚れが床には残っているもの。消極派の方には、見直してほしい。掃除機をかけた後に水拭きでしっかり汚れを取り、水分を残さないように乾かすことがポイントだ。

ところで、江戸時代には、大掃除ともいえる“煤払い(すすはらい)”をした後、胴上げをしたということをご存じだろうか?

筆者の「連載:江戸の知恵に学ぶ街と暮らし」に執筆したが、江戸時代には電気はないので火を使うために室内に煤がたまり、その煤を払い落とす習慣があった。大掃除というだけでなく、正月を迎えるお清めの儀式でもあったので、大きな商店では煤払いの後に、食事や酒がふるまわれ、時には胴上げをするなどのお祭り騒ぎになった。『東都歳事記』にもそうした絵が描かれている。

年末に大掃除をしないとしても、新年を気持ちよく迎えるために、正月の準備はきちんとしたいものだ。

●取材協力
花王
ダスキン元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169347_main.jpg

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リトル・コリアだけじゃない! “ごちゃ混ぜ”多国籍タウン、新大久保の最新事情

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リトル・コリアだけじゃない!“ごちゃ混ぜ”多国籍タウン、新大久保の最新事情

リトル・コリアとして有名な新大久保。しかし、東京には西葛西の「リトル・インディア」、高田馬場の「リトル・ヤンゴン」、竹ノ塚の「リトル・マニラ」など、「リトル〇〇」と呼ばれる街がいくつもある。

しかも、新大久保はもはや韓国人だけでなく、さまざまな国から人が集い、コミュニティを形成している“ごちゃ混ぜ”タウンになっている。今回は、そんな新大久保に深く潜入し、取材を続けている室橋裕和さん(45歳)に街の最新事情を教えてもらった。

新大久保駅の北口、日本語はほとんど聞こえない室橋裕和さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

室橋裕和さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

室橋さんは今年5月、日本で暮らす外国人のコミュニティを取材し、彼らの暮らしに迫ったルポ、『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)を出版している。

練馬の「リトル・モンゴル」、池袋の「リトル・ダッカ」など、意外な街の意外なコミュニティも紹介(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

練馬の「リトル・モンゴル」、池袋の「リトル・ダッカ」など、意外な街の意外なコミュニティも紹介(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

集合は新大久保駅の北口。日本語はほとんど聞こえない。目を閉じて音だけ聞いていると、アジアのどこかの街を旅行で訪れたような気になる。

室橋さんが歩き出す。

「来年春に大久保エリアのことを書いた本を出版する予定でして、その取材も兼ねて2年前にこの近所に引越したんです。今はネパール系、ベトナム系の方がずいぶん増えましたね」

冒頭の、通りに室橋さんが立っている写真は、室橋さんが「新大久保の中でもごちゃごちゃ感がある通りのひとつ」と称する一角。最近できた中国料理屋の店頭には水槽が置かれ、ザリガニが元気に泳いでいる。もちろん、食用だ。

食べ方は茹でたり蒸したりといろいろ。中国の中でも東北地方の方が多く進出してきているという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

食べ方は茹でたり蒸したりといろいろ。中国の中でも東北地方の方が多く進出してきているという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「通りの奥に専門学校や語学学校がいくつかあって、若者はそこにみんな通っています。夕方の今ごろは学校が終わってアルバイトに行く時間帯ですね」

ネパール人の夫とベトナム人の妻が切り盛りする「新大久保アジア屋台村」。外から店内が見えるため、入店しやすい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ネパール人の夫とベトナム人の妻が切り盛りする「新大久保アジア屋台村」。外から店内が見えるため、入店しやすい(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ここで、室橋さんがアジアンフード店の前に置かれた袋麺を手に取った。

「これは『ハオハオ』といって、ベトナムで売り上げナンバーワンのインスタント麺。最近、日本への輸入が始まったんです」

製造元は日本の食品メーカー、エースコック。いわば、逆輸入という形だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

製造元は日本の食品メーカー、エースコック。いわば、逆輸入という形だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

さらに、なぜか日本食の弁当も。「売れるなら何でも売ってやろう」という貪欲さを感じる。

ランチの売れ残りだろうか、値下げがうれしい。漢字の間違いはご愛嬌(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ランチの売れ残りだろうか、値下げがうれしい。漢字の間違いはご愛嬌(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

500円ランチはこの辺りの相場、ギリギリで価格競争をしている

今日は2軒の飲食店を回る。1軒目はネパール料理店の「ラトバレ」。

2015年12月にオープン。「リトル・カトマンズ」のシンボル的存在だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

2015年12月にオープン。「リトル・カトマンズ」のシンボル的存在だ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店内に入ると、BGMはしっとりとしたネパール音楽。

「ランチが安くて美味しいので時々食べに来るんです。この辺で働いているネパール人も『ここがいちばんおいしい』と言います。日本人客はほとんどいなくて、異国情緒が味わえるお店」

ランチメニューは16時まで。間に合った。さて、何をいただこうか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ランチメニューは16時まで。間に合った。さて、何をいただこうか(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

注文したのはチキンカレー、ダルカレー、タルカリ、ライス、アチャルが付いた「Aセット」(500円)とネパール風蒸し餃子の「モモ」(600円)。

「ネパール語で豆は『ダル』、ご飯は『バート』。このセットは『ダルバート』というあちらの定食です」

おっと、ずいぶん安くないですか?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

おっと、ずいぶん安くないですか?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「500円ランチはこの辺りの相場ですね。ギリギリの採算で価格競争をしているんだと思います」

先述したように「リトル〇〇」は各地にある。なぜ、その街に外国人のコミュニティが生まれたのか。室橋さんによれば、「いろんなケースがありますが、確実に言えるのは誰か一人、頼れる人物がいるということ」

新大久保のネパール人コミュニティでいえば、ネパール語新聞『ネパリ・サマチャー』の編集長、ティラク・マッラさんだという。この辺りのネパール人の父親的存在で、「彼がいるなら俺らも安心して暮らせるな」と人が集まってくる。

大久保エリアの食材店に置いてある『ネパリ・サマチャー』。以前は週刊だったが、現在は隔週刊に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大久保エリアの食材店に置いてある『ネパリ・サマチャー』。以前は週刊だったが、現在は隔週刊に(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

こんな話も聞けた。

「一時期、技能ビザの中のコックという資格でネパール人がたくさん入って来ました。しかし、さすがに多すぎるだろうというのと、書類を偽造する業者がネパールでたくさんいることが発覚したんです」

こうした余波で、ここ1、2年はネパール人に対してコックとしての入国ビザは下りていない。

百人町は下級武士の屋敷の区割りが当時のまま残っている

本場のネパール料理に舌鼓を打ったところで、再び散策スタート。室橋さんが立ち止まる。

「ここはタイの弁当屋で美味しい。手づくりのスイーツも人気で、すぐに売り切れます」

ボリュームがある上に、ここも安い。そして、タピオカはタイでも大流行中なのだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ボリュームがある上に、ここも安い。そして、タピオカはタイでも大流行中なのだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

今、我々が歩いている百人町は、かつて「鉄砲百人組」と呼ばれる下級武士の屋敷が並んでいた。その区割りが当時のまま残っているため、道は細くて狭い。

「この辺はネパール、ベトナムゾーンで、台湾と中国が少し。韓国はあまりない。ベトナム料理屋では、そろそろ『山羊鍋始めました』という貼り紙が出る時期ですね」

東京媽祖廟の前を通りかかった。これは航海と経済の女神様を祀る建物で、台湾華僑にとっては心の拠り所だ。

残念ながら入れなかった。「たしか、日曜日は入れるはず」と室橋さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

残念ながら入れなかった。「たしか、日曜日は入れるはず」と室橋さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ペルー人のシェフがいる「ペルー南米酒場」もオススメだという。

「ちょっと高いけど美味しいですよ。このビルのテナントもごちゃごちゃで、上階には住んでいる人もいて、コインランドリーがあります」

カラオケ、和食、ショットバー、そしてペルー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

カラオケ、和食、ショットバー、そしてペルー(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「戦争で焼け野原になった大久保エリアの土地を買い始めたのが韓国人や台湾人。ほどなくして、ロッテのガム工場もできて労働者が集まる場所になった。戦後の復興の中、新宿で働く韓国人や台湾人の後背地として栄えた街なんです」

ベトナム人の女の子たちも来ているから味も保証付き

大久保通りを渡ったところで、テイクアウトのケバブ屋を発見。そう、トルコもアジアの一員だ。

23時まで営業している「SARAY 大久保店」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

23時まで営業している「SARAY 大久保店」(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「人気のケバブ屋です。美味しいし、店員がものすごくフレンドリー。トルコ人とネパール人が日本語でずっと喋っているんです」

歩くごとに、さまざまな人種と料理の匂いが混じり合う。

「長年ニューヨークで暮らしていた日本人の知人を連れてきたら、『ニューヨークみたい』だと言っていましたね」

お次はバインミー専門店。ベトナムのサンドウィッチだ。

ハノイの実家もバインミー専門店だというオーナーが開いた「BAMI OISHI」。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ハノイの実家もバインミー専門店だというオーナーが開いた「BAMI OISHI」。(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「とにかく、量がすごい。現地でもこんなに多くないですよ。ベトナム人の女の子たちも来ているから味も保証付きでしょう」

実家のバインミー専門店の味を忠実に再現している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

実家のバインミー専門店の味を忠実に再現している(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

勢いで購入したのは具がぎっしり詰まった特大サイズの「たっぷり」(700円)。

見よ、圧倒的なボリュームを。パテやハムも厨房内で手づくりしている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

見よ、圧倒的なボリュームを。パテやハムも厨房内で手づくりしている(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

最終目的地の「イスラム横丁」は雑多な外国人エリア

さらに、散策は続く。

タマネギもジャガイモも安すぎやしませんか?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

タマネギもジャガイモも安すぎやしませんか?(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「土地柄、外国人専門の不動産屋も多いですね。家賃は決して安いわけじゃないけど、新宿駅の隣なのでそこそこの値段。でも、この大久保エリアですら外国人に貸してくれる大家さんは全体の2割ぐらいしかいないのが現状です」

しかし、最近は外国人にも貸す賃貸オーナーも少しずつだが増えてきているという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

しかし、最近は外国人にも貸す賃貸オーナーも少しずつだが増えてきているという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

大久保エリアをぐるりと一周した。最終目的地はディープな「イスラム横丁」だ。

「イスラムオンリーというわけではなく、要するに雑多な外国人エリア。インド人オーナーの食材店、『グリーンナスコ』が中心的なスポットです。品ぞろえが豊富でラマダンの期間は特売セールで安くなります」

1階は食材売り場、上階にはモスクもある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1階は食材売り場、上階にはモスクもある(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「イスラム教徒はお酒禁止だけど、日本ではみんなバンバン飲んでいますね。でも、ここのモスクのボスは厳格なので1階でお酒は売っていません」

1階の食材売り場では日本語がほとんど見当たらない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1階の食材売り場では日本語がほとんど見当たらない(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

路地の奥には鮮魚店があった。

ネパール人に人気の「大間水産」。ネパールには海がないため、淡水魚の味に近いボラが人気だという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ネパール人に人気の「大間水産」。ネパールには海がないため、淡水魚の味に近いボラが人気だという(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ちょっと、これ見て」と室橋さんから声がかかる。指を指す先を見ると、赤魚の粕漬け16枚が800円で売られていた。

安すぎる謎の価格設定(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

安すぎる謎の価格設定(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「ちなみに、大久保エリアでは送金業者がコンビニより多いんです。一気に増えたのは、ここ5年間ぐらい。日本の銀行経由で送るより手数料がずっと安い。それ以前は非合法の地下送金を利用するしかなかった」

店によってネパール特化、バングラディシュ特化など、専門分野があるそうだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

店によってネパール特化、バングラディシュ特化など、専門分野があるそうだ(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

1カ月前に来日したばかりの店員と日越交流が始まった

新大久保ツアーのゴールは「ベトナムフォー」という名のベトナム料理店。

「ベトナム料理店は当たり外れが激しいけど、ここは一番のおすすめ。ランチタイムはベトナム人の学生であふれ返って学食みたいになるんですよ」

本場のベトナム料理が楽しめる有名店(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

本場のベトナム料理が楽しめる有名店(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

階段を上って入店すると、メロウでスローテンポな歌声が聴こえてきた。今回のツアーでは国ごとのご当地ソングが流れるBGMもムードを高めてくれる。

かなり広い店内。窓からはイスラム横丁を見渡せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

かなり広い店内。窓からはイスラム横丁を見渡せる(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ベトナム風お好み焼きの「バインセオ」(1100円)、「豚肉のレモングラス巻き焼き」(870円)、そして「ハス茶」(500円)を注文。

運ばれてきた「バインセオ」を見て、室橋さんが「おお、こんなにでかかったか」と声を上げる。

「豚肉のレモングラス巻き焼き」はベトナムの定番料理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

「豚肉のレモングラス巻き焼き」はベトナムの定番料理(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

室橋さんがベトナム語で女性店員に話しかけると、「おお、すごいねえ」という反応。

ここから日越交流が始まった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ここから日越交流が始まった(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ひとしきりの会話が終わって、室橋さんに「何を話していたんですか?」と聞いた。

「最初、ベトナム語で『ありがとう』と言いました。彼女はちょっと前にイオンモールができたホーチミン近郊の街の出身で、1カ月前に日本に来たばかりだそうです」

いろんな国の人たちとの関係ができたから、正直、離れづらい

心温まる交流を目にしたところで、濃密な新大久保ツアーは終了。

2015年の調査によれば、大久保・百人町エリアに住む外国人人口は約1万3000人。外国人比率は3割を超えている。もちろん、これに別の街からやってくる外国人を加えれば、相当な数になるはずだ。そんな新大久保は姿を変えながら、常に新しいコミュニティが生まれている街だった。

今回ガイド役を引き受けてくれた室橋さんは、埼玉県入間市の出身。大学時代からバックパッカーとしてアジア全域の旅を続けてきた。自身では「入間が何もない街だったから世界を見たいと思ったんでしょうね」と振り返る。

さらに、2005年にはタイに移住。10年間住んだのち、4年前に帰国した。来年の春には新大久保取材の集大成としての書籍が出る。ひと区切り付くわけだが、またどこかに移住するのだろうか。

タイに住んでいたころの室橋さん(写真提供/室橋さん)

タイに住んでいたころの室橋さん(写真提供/室橋さん)

「そういう気持ちもありますが、この街でのいろんな国の人たちとの関係がだいぶできちゃって。毎週月曜日はヒンズー教徒の集まりに誘われたりとか。気を使わないで暮らせる街だから居心地がいい。正直、離れづらいです」

ベトナムの旧正月にはベトナム人の女性がアオザイを着て街の風景を彩る。ネパールのダサインというイベントの時期にはネパール人が浮き足立つ。新大久保で暮らすということは、日本にいながらにしてアジアを旅しているようなものなのかもしれない。

●取材協力
室橋裕和さん
アジア専門の記者、編集者。元週刊誌記者で、元タイ在住10年。現在は新大久保に住み、アジア関連、日本の中のアジア関連、新大久保情報を発信している。著書に晶文社刊「日本の異国」がある。新聞やWebメディアでの連載も持つ。
Twitter元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169394_main.jpg

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「恩送り基金」を創設し次世代へ託す。終活を楽しむ暮らし あの人のお宅拝見[15]

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「恩送り基金」を創設し次世代へ託す。終活を楽しむ暮らし あの人のお宅拝見[15]

今回お宅訪問したのは、元リクルートワークス研究所の名物研究員で筆者の大先輩の角方正幸さん。今年古希(70歳)を迎えた角方さんから『謝縁会』と名付けられた会への招待状が届き、「これはもしやいわゆる生前葬?」と不安なまま会に赴くと……。その件も交えて今に至る人生話を、プライベートな暮らしぶりを拝見しながら伺いました。連載【あの人のお宅拝見】
「月刊 HOUSING」編集⻑など長年住宅業界にたずさわってきたジャーナリストのVivien藤井繁子が、暮らしを楽しむ達人のお住まいを訪問。住生活にまつわるお話を伺いながら、住まいを、そして人生を豊かにするヒントを探ります。「意志のある寄付で社会を変える」を自ら実践

角方さんは熱狂的な横浜DeNAベイスターズファン。もちろんお住まいは横浜市、駅前ながら遊歩道の緑を望む好立地にある一戸建て。

取材日は生憎の雨でどんよりですが、緑豊かな遊歩道に面した高台に建つお宅(写真撮影/相馬ミナ)

取材日は生憎の雨でどんよりですが、緑豊かな遊歩道に面した高台に建つお宅(写真撮影/相馬ミナ)

お部屋に招き入れていただくと「見て見て、コレ!」と、角方さんがうれしそうに手招きし、見せてくださったのがこちら。

バンダイ社がケンウッドと協力して開発されたエンターテイメント・オーディオ・ロボット(写真撮影/相馬ミナ)

バンダイ社がケンウッドと協力して開発されたエンターテイメント・オーディオ・ロボット(写真撮影/相馬ミナ)

ジャズの音楽が流れると、演奏しているかのように動きだした人形たち。ピアノ・ギター・ドラム・サックスなどのバンドマンと、よく見ると……歌手が美空ひばりだ!

『美空ひばりジャズを唄う』バージョン。音響は6.1chシステムの本格サウンド(写真撮影/相馬ミナ)

『美空ひばりジャズを唄う』バージョン。音響は6.1chシステムの本格サウンド(写真撮影/相馬ミナ)

「家に帰ってチョッと一杯やるときにこれをかけると、雰囲気のいいBarにでも居る気分だよ。こういう手づくり感のある物が好きなんだ」と、ご満悦。
DIYはじめ何事も手づくりが得意な角方さんらしい、お気に入りの一品です。

さて6月に開催された『謝縁会』のお話に。これも手づくり感たっぷりの素敵な会でした。
『謝縁会』は、寄付文化の創造を目指すパブリックリソース財団の理事でもある角方さんが考えた“新しい形の生前葬”。

「元気なうちに、ご縁のあった方々へ感謝を伝えたかったのと、『恩送り基金』を設立したので、その紹介もしようと思ってね」
“元気なうちに”というのも、角方さんは60代でガンなど3度も大病を経験したことから、古希70歳のタイミングで実施を決意されたそう。

会場の前方演壇に、角方夫妻がそろって着席。参加者は家族から仕事関係者、ご近所さんなど約150人が20テーブルに分かれて座り、これから何が起こるのかと興味津々。

演壇に飾られていた絵は、若き角方さんが描いた当時の“将来の妻”、今の奥様です! 油絵を描いていたことが、お二人の馴れ初めのよう(写真提供/角方さん)

演壇に飾られていた絵は、若き角方さんが描いた当時の“将来の妻”、今の奥様です! 油絵を描いていたことが、お二人の馴れ初めのよう(写真提供/角方さん)

会場には絵のほかにも、お仕事の軌跡や家族・友人たちとの思い出の写真など、角方さん作の数々が展示されていました。
昨今、お葬式でも故人を偲ぶものが飾られたりしていますが、ここは生前葬的『謝縁会』。華やかな飾り付けを前に、参加者とご本人が一緒に当時を懐かしみ、笑い声が響いていました。

縁ある方々からのスピーチ、色とりどりのお料理も縁あるものをチョイスされていて、心のこもったおもてなしをたくさんいただきました。
角方夫妻の歩みを紹介するビデオを一同感慨深く見入り、角方さんが恩送り基金として『角方基金』を創設した思いを知ることができました。

『謝縁会』当日参加者に配られた、プログラムと150人にもなった参加者の一覧表(写真提供/角方さん)

『謝縁会』当日参加者に配られた、プログラムと150人にもなった参加者の一覧表(写真提供/角方さん)

「若い人たちの教育支援が私のライフワーク。これまで皆さんからいただいた恩を、次世代に送る仕組みとして基金をつくることにしたんだ」
ご自身が1000万円を寄付して基金を設立。基金が支援する目的や活動団体に共感すれば、誰でも、いくらからでも、“意志のある寄付”をこの基金へできるのです。

感謝の気持ちを一番伝えたかったのは、やはり奥様。全員集合の写真撮影にて3時間強の会を締めくくった(写真提供/角方さん)

感謝の気持ちを一番伝えたかったのは、やはり奥様。全員集合の写真撮影にて3時間強の会を締めくくった(写真提供/角方さん)

「『謝縁会』参加者からも寄付をいただきましたが、全く知らない方からも支援目的を知って寄付があり驚いています」。そんな寄付文化を日本にも根付かせようと自ら実践されています。
基金からの支援先には、教育の格差是正や障害者教育などの活動をしているNP0をいくつか選定しているそうです。

企業人、地域人、家庭人としての「三位一体」の人生

『謝縁会』に招かれた方々には、仕事関係者である私が知らない角方さんの縁者がたくさんいらっしゃいました。
常々、角方さんがモットーに掲げている ~企業人、地域人、家庭人としての「三位一体」の人生~ を垣間見た気がします。

今のお住まいへは、2001年に同じニュータウン内のマンションから転居されたそう。
3人の子育て中だったマンション時代も管理組合理事長に始まり、『みどりの会』なるものを設立して竹炭づくりを夜通し楽しむなど、住民のコミュニティーづくりを“地域人”として率先されてきたようです。
「この家を買ったのも、面白い縁があってねー!」と、今に至る話を聞かせてくれました。

庭の向こうに見える隣家を指して
「実は分譲時に、私たちが申し込んだのは隣の家なの。ただ、妻が子ども3人に個室が欲しいと5LDKを希望していたのに、残っていたのは4LDK。この家に申し込んだのは偶然、知人だったんだけど、反対に知人家族は大きな和室を希望。4LDKの方が広い和室だったので、お互いの要望が一致。余分な費用がかかったけれど交換できる手続きを取り、めでたく入居したという経緯(笑)」

リビングに面してウッドデッキのあるお庭の向こうが、入居前から懇意のお隣さん。もちろん『謝縁会』にもご出席(写真撮影/相馬ミナ)

リビングに面してウッドデッキのあるお庭の向こうが、入居前から懇意のお隣さん。もちろん『謝縁会』にもご出席(写真撮影/相馬ミナ)

お話を伺っていると、愛猫ココちゃんがニャオニャオ「外へ行きた~い」とアピール。

とっても人懐っこいココちゃん(12歳)角方さんに似て、ご近所付き合いが良く、あちこちでオイシイ思いをしているらしい(写真撮影/相馬ミナ)

とっても人懐っこいココちゃん(12歳)角方さんに似て、ご近所付き合いが良く、あちこちでオイシイ思いをしているらしい(写真撮影/相馬ミナ)

ドアを開けるとココちゃん、まずはお隣へご挨拶に?

ココちゃんが渡っている橋は、フェンスを切ってお隣の勝手口に直結してる!(写真撮影/相馬ミナ)

ココちゃんが渡っている橋は、フェンスを切ってお隣の勝手口に直結してる!(写真撮影/相馬ミナ)

「当初は子どもも3人いたし、お互い物のやりとりやら行き来が多かったので、玄関回るより早いでしょ。これも全部、私がDIYでつくったんだけどね」
えっ?ウッドデッキも、パーゴラもテーブルセットも全部、角方さんの手づくりとは驚きです!

なんと!立派なピザ窯も手づくり。レンガを積んで本格的。水道栓までつくり付け、余った木材で緑のラティスもつくってしまった角方さん(写真撮影/相馬ミナ)

なんと!立派なピザ窯も手づくり。レンガを積んで本格的。水道栓までつくり付け、余った木材で緑のラティスもつくってしまった角方さん(写真撮影/相馬ミナ)

「これも見て」と扉を開けた中からは、ダーツのボードが現れました。

「ちゃんと競技用の距離から、投げられるようにセットしてあるんだよ」。人が集まっても飽きさせない遊び心満載のガーデンテラス(写真撮影/相馬ミナ)

「ちゃんと競技用の距離から、投げられるようにセットしてあるんだよ」。人が集まっても飽きさせない遊び心満載のガーデンテラス(写真撮影/相馬ミナ)

私は“企業人”角方さんを調査研究のプロとして尊敬してきましたが、今回DIYガーデンを拝見して“家庭人”角方さんの一面に驚くばかり。

DIYの工程を写真と共に「2002年手作りガーデン日記」としてファイリング。これは角方さんらしいシステマチックな記録(写真撮影/相馬ミナ)

DIYの工程を写真と共に「2002年手作りガーデン日記」としてファイリング。これは角方さんらしいシステマチックな記録(写真撮影/相馬ミナ)

その工程は、土台づくりから始まっていました。設計図もご自分で書いた様子(社会工学科卒なのに)。
「子どものころから絵より図工が上手かったんだ、親父の影響かな……」。
その創作力が角方さんの息子さんにも受け継がれていく、家庭人としての“恩送り“。

庭にウッドデッキ用の土台をコンクリートで打った基礎。息子さんもホームセンター通いからお手伝いされたそう、今となっては素敵な思い出になっていることでしょう(写真提供/角方さん)

庭にウッドデッキ用の土台をコンクリートで打った基礎。息子さんもホームセンター通いからお手伝いされたそう、今となっては素敵な思い出になっていることでしょう(写真提供/角方さん)

手にはパソコンを刷毛に変え、デッキを塗装中の角方所長(笑)。

お手入れもされているだけあって、18年経っても頑丈でツヤツヤのウッドデッキでした(写真提供/角方さん)

お手入れもされているだけあって、18年経っても頑丈でツヤツヤのウッドデッキでした(写真提供/角方さん)

このウッドデッキで、ご近所さんや家族親戚を招いてBBQやピザパーティーを楽しまれるそう。

同時に新築入居した5軒の家族が、持ち回りで毎年催すパーティーの様子。今年で19回目だそう!(写真提供/角方さん)

同時に新築入居した5軒の家族が、持ち回りで毎年催すパーティーの様子。今年で19回目だそう!(写真提供/角方さん)

予想外なDIYの実力に圧倒されてしまいましたが、角方さんの全ての原動力は周りの皆が喜ぶ顔なのだと感じました。素晴らしい“家庭人” “地域人”の姿を初めて拝見しましたが、そこは“企業人”角方さんのスタンスと変わらぬ姿。~企業人、地域人、家庭人としての『三位一体』の人生~、そのものです。

角方基金で次世代の社会に“恩送り”、家族・孫には“愛情送り“

70歳今なお現役で、リアセック キャリア総合研究所所長の角方さん。ご自宅でもお仕事をされるようで、寝室には大きなデスクの書斎コーナーが。

「この椅子は姿勢が良くなるんだよね」と、バランスチェアに腰掛けてお仕事(写真撮影/相馬ミナ)

「この椅子は姿勢が良くなるんだよね」と、バランスチェアに腰掛けてお仕事(写真撮影/相馬ミナ)

背後も全面書棚でしたが、正面の棚には独立された3人の息子さん家族との写真などが並べられています(写真撮影/相馬ミナ)

背後も全面書棚でしたが、正面の棚には独立された3人の息子さん家族との写真などが並べられています(写真撮影/相馬ミナ)

「3時ころには、妻が孫を連れて帰ってくるはず」と、おっしゃっていた矢先にお孫さんが学校から帰宅。

「お帰り~!」近居のお孫さんは共働きの両親が帰宅するまで、祖父母宅で過ごすのが日課。お孫さんも第二のわが家のようにリラックス(写真撮影/相馬ミナ)

「お帰り~!」近居のお孫さんは共働きの両親が帰宅するまで、祖父母宅で過ごすのが日課。お孫さんも第二のわが家のようにリラックス(写真撮影/相馬ミナ)

実は角方さん宅の窓からは、小学校の通学路になっている遊歩道を眺めることができます。

取材日も朝の通学時に、お孫さんを見つけて手を振る奥様。孫育てを楽しんでおられます(写真撮影/角方さん)

取材日も朝の通学時に、お孫さんを見つけて手を振る奥様。孫育てを楽しんでおられます(写真撮影/角方さん)

「子どもたちが下から眺めると面白いだろうと思って、風見鶏を飾ってるんだ。毎年、新しいものを買ってきてね」
一年くらいで壊れるため毎年行く軽井沢で購入されるらしく、これまた手づくりクラフト感のある風見鶏。

通学路からこれを見つけて笑う子どもの顔、素敵な情景が目に浮かぶ(写真撮影/相馬ミナ)

通学路からこれを見つけて笑う子どもの顔、素敵な情景が目に浮かぶ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

古希の『謝縁会』を終え、次にやりたいことは何ですか?と尋ねると
「ゴルフでエイジシュート(※)を達成したいんだよね」と、これまた違う角度から答えが返ってきて驚き(笑)。
※ゴルフの1ラウンド(18ホール)を、自身の年齢以下の打数でホールアウトすること

「元気なうちにやらないと意味が無いんだよ!」と、病気や認知症など判断力を失う前に人生のしまい方を考えるべきと教えてくれました。『謝縁会』や『角方基金』、高齢社会の新しい選択肢を見せてくれる団塊の世代は、いつもわれわれのロールモデルです。

角方正幸
株式会社リアセック キャリア総合研究所所長。
1949年東京生まれ。1972年東京工業大学社会工学科卒業後、三井情報開発株式会社総合研究所を経て1984年株式会社リクルート入社。リクルートリサーチ、ワークス研究所で教育・労働分野を調査研究。2009年リクルート初の男性定年退職者に。同年より現職、神奈川県参与、株式会社大学改革代表取締役に就任。2012年パブリックリソース財団理事、NPO「まちと学校の未来」監事、桜美林大学大学院客員教授
株式会社リアセック キャリア総合研究所
公益財団法人パブリックリソース財団
角方基金(オンライン寄付サイト「GiveOne」内)元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169459_main.jpg

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”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用

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”デザイナーズ学生寮” JR中央線高架下に来春登場!ここまで進んだ遊休地活用

幅400mという超横長の敷地の食事付き賃貸住宅が2020年春に完成を予定している。学生を対象としていて、食事と管理人付きなところは、さながら“学生寮”。横長なのは、JR中央線の高架下を敷地としているためだ。騒音や振動も気になりそうなこの立地にJR東日本が住宅をつくるのはなぜなのか? 初の高架下賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」の詳細を探ってみた。
商業空間や保育園…高架下スペースは、もはや”遊休地“ではない

「高架下」と聞いてすぐにガード下の居酒屋を連想してしまった私だが、最近の高架下は、とてもそんな枠に収まる空間ではないらしい。

例えば、東急東横線中目黒駅と祐天寺駅の間に2016年11月にオープンした商業施設はその名も「中目黒高架下」。おしゃれなショップやレストランが軒を連ね、行列のできる人気店もあるというし、JR御徒町駅と秋葉原駅の間の高架下に展開する「2k540 アキオカ アルチザン」には、「ものづくり」をテーマに工房やショップ、カフェなどがそろっている。2020年初夏には、JR有楽町駅~新橋駅間の高架下に「日比谷OKUROJI」がオープンを予定。さまざまなスタイルのバーなどが充実した新しい商業空間が誕生することになる。

また、JR東日本が進める「HAPPY CHILD PROJECT」では、子育て支援を通じた沿線活性化事業に取り組んでおり、駅型保育園のバリエーションとして、すでに高架下に複数の保育園を誕生させている。高架下は、すでに鉄道アクセスの良い商業空間やコミュニティ空間としての地位を確立しているのだ。

住居専用の用途地域だったことが高架下住宅誕生につながった

そんな高架下スペースに、今度は学生向け賃貸住宅「中央ラインハウス小金井」が建設される。東京都による三鷹・立川間の連続立体交差事業で生じた長大な高架下スペース。中央ラインハウス小金井は、その一部であるJR東小金井駅とJR武蔵小金井駅間のスペースを利用する予定だ。

JR武蔵小金井駅とJR東小金井駅の間の高架下には、すでに「nonowa東小金井」「nonowa武蔵小金井」という商業施設や保育園があるが、住宅はなかった。なぜ、今回、住宅が誕生することになったのだろうか。JR中央線三鷹~立川間エリアの開発を行う株式会社JR中央ラインモール開発本部の関口淳さんに聞いた。

「これまで、中央線三鷹駅~立川駅間の線路高架化にあわせ、当社では、駅周辺部を中心に商業展開を行うほか、子育て支援施設や福祉・医療施設、地域交流を促す施設、広場・公園など沿線にお住まいの方々に対し、日々の暮らしをサポートするさまざまな施設の設置を進めてきました。そのような背景がある中、今回の建設予定地に関しては、大半が住居専用の用途地域(第一種低層住居専用地域)であったことから、都市計画との整合性と当社の使命とする中央線沿線の価値向上につながる計画を検討してきました。その結果、学生向けの住宅という切り口に至ったのです」(関口さん)

住宅を学生向けとしたのは、中央線沿線に大学キャンパスが多く、住んでいる学生も多いこと、また駅からの道が分かりやすく夜道が明るいことで、学生寮に求められる立地条件を満たしているととらえたからだとか。

東京都による三鷹・立川間の連続立体交差事業が行われ、2010年11月に約9kmに及ぶ長大な高架下スペースが生まれたJR中央線。武蔵小金井駅と東小金井駅の間にはすでにショッピングモールや保育園がある(画像提供/JR中央ラインモール)

東京都による三鷹・立川間の連続立体交差事業が行われ、2010年11月に約9kmに及ぶ長大な高架下スペースが生まれたJR中央線。武蔵小金井駅と東小金井駅の間にはすでにショッピングモールや保育園がある(画像提供/JR中央ラインモール)

高架下での生活に問題がないことは保育園が実証済み?!

ただ、高架下となると、ついつい気になってしまうのが振動や騒音。果たして住宅にふさわしいものなのだろうか…?

「振動や騒音については、現地を確認した上、高架下で開発した別の物件の状況を踏まえ、日常生活に支障がないと考え計画いたしました。また、今回の計画地の隣地(高架下)には保育園が既に設置されており、問題なく運営されています」(関口さん)

なるほど。住宅として初の試みではあるものの、すでに保育園の園児たちが高架下の空間で生活しているという実績があるわけだ。園児たちは、午後にはお昼寝だってしているはず。赤ちゃんも安眠できる環境と考えると、納得がいく。

なお、この物件の特色は、高架下という立地だけにとどまらない。北山恒、谷内田章夫、木下道郎という3人の建築家がL棟、C棟、H棟、それぞれの設計を担当することで、共用空間と居室のつながりやバランスについてコンセプトの異なるプランを展開。住み手である学生が、他学生とどのようにかかわるか、プライバシーにどの程度こだわるかといった志向に応じて、自分にふさわしいプランを選べるようになっている。

また、中央に位置する専用カフェテリアでは、平日の朝・夕の2回、食事を提供。栄養バランスのとれた食生活をサポートするとともに、異なる棟の学生との交流も促す。カフェテリアに隣接する多目的ホールは、地域住民との交流も視野に入れた運営が予定されている。

L棟のコモンスペース(共用スペース)として、1階にはキッチン、2階にはライブラリーが。それぞれを経由して居室に入るつくりになっており、居室はごくごくコンパクトな空間となっている(画像提供/JR中央ラインモール)

L棟のコモンスペース(共用スペース)として、1階にはキッチン、2階にはライブラリーが。それぞれを経由して居室に入るつくりになっており、居室はごくごくコンパクトな空間となっている(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟は、外部テラス(アウトサイド・コモン)を共用スペースとすることで、各居室の独立性を確保。居室内には、キッチン、バス(乾燥機付き)、洗濯機、電子レンジなどが備え付けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟は、外部テラス(アウトサイド・コモン)を共用スペースとすることで、各居室の独立性を確保。居室内には、キッチン、バス(乾燥機付き)、洗濯機、電子レンジなどが備え付けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟は、大型ダイニングテーブルのあるラウンジ・コモン、ライブラリーのあるキッチン・コモンをvペースとして、中央のキッチン・コモンにつながる廊下から各居室に入るつくり。天井の高さを活かしたロフトも設けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟は、大型ダイニングテーブルのあるラウンジ・コモン、ライブラリーのあるキッチン・コモンを共用スペースとして、中央のキッチン・コモンにつながる廊下から各居室に入るつくり。天井の高さを活かしたロフトも設けられている(画像提供/JR中央ラインモール)

中央に設けられた専用カフェテリアで、朝食と夕食を提供(食事代1万6000円/月・税別)。多目的ホールは地域との交流にも利用される予定だ(画像提供/JR中央ラインモール)

中央に設けられた専用カフェテリアで、朝食と夕食を提供(食事代1万6000円/月・税別)。多目的ホールは地域との交流にも利用される予定だ(画像提供/JR中央ラインモール)

管理人付きの安心感と新築の希少価値、リーズナブルな家賃設定が好評

受付を開始した9月は、問い合わせも基本情報の確認といったものが多かったが、それでも9月21日~23日の3連休だけで15件の問い合わせがあったそう。

「大学入学を控えた学生さんの部屋探しが本格化するのは、入試の結果が出る春がピークなので、今は、推薦の合格者や専門学校に入学する学生さんと親御さんが部屋探しに動き出している時期。他物件と比べてびっくりするほどの反応があるわけではないのですが、それでもすでに予約済みの学生さんがいます」(株式会社学生情報センター経営企画部広報室・寺田律子さん)

一番人気は、L棟のAタイプ。10平米強というコンパクトな間取りではあるが、新築で5万円台(共益費別)であることが決め手になっているのではないかとのこと。

「中央線沿線には新築物件が少ないので、新築という点は大いに魅力があるようです。加えて、日勤の管理人が居て安心という面も。自転車で通学できる距離に大学や学校が多い上に、離れた学校に通う学生さんにも、中央線沿線ならではの広域アクセスの良さが評価されています」(寺田さん)

なお、学生も親も、高架下の騒音や振動はさほど気にしていないのだとか。

「『それなりにうるさいんだろうなあ』ぐらいには思っていらっしゃるようですが、それがネックになるということはないようです」(寺田さん)

電車の本数が多い日中、学生は大学に行っていて部屋には居ないという理由もあるのだろう。隣に保育園があるという点で安心する親や学生もいるのではないだろうか。

L棟 Aタイプは、10平米台の空間に家具を効率よく配置。月額賃料5.2万円~5.3万円、共益費1.5万円/月と、周辺よりリーズナブルな家賃設定だ(設備維持費400円/月、入館料[再契約料]12万円/年も必要・以下同様)(画像提供/JR中央ラインモール)

L棟 Aタイプは、10平米台の空間に家具を効率よく配置。月額賃料5.2万円~5.3万円、共益費1.5万円/月と、周辺よりリーズナブルな家賃設定だ(設備維持費400円/月、入館料[再契約料]12万円/年も必要・以下同様)(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟 e4・e'4タイプは、専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米。月額賃料が7万円で、共益費1.5万円/月。最大3.5mの天井高を活かしたロフトがあり、大きめのワークデスクや収納力のある本棚、乾燥機付きのバスルームが特徴(画像提供/JR中央ラインモール)

C棟 e4・e’4タイプは、専有面積15.94平米、ロフト面積4.93平米。月額賃料が7万円で、共益費1.5万円/月。最大3.5mの天井高を活かしたロフトがあり、大きめのワークデスクや収納力のある本棚、乾燥機付きのバスルームが特徴(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟Aタイプは、10.44平米という専有面積ながらも、4.35平米のロフトを設けたことで、ワークデスクの空間などゆとりを確保。月額賃料5.9万円 ~ 6.2万円、共益費1.5万円/月という設定になっている(画像提供/JR中央ラインモール)

H棟Aタイプは、10.44平米という専有面積ながらも、4.35平米のロフトを設けたことで、ワークデスクの空間などゆとりを確保。月額賃料5.9万円 ~ 6.2万円、共益費1.5万円/月という設定になっている(画像提供/JR中央ラインモール)

鰻の寝床とは真逆の超横長な敷地という点だけでもユニークな上に、間口が広くて明るい空間は、学生用賃貸住宅の新しい形を提示しているように思える。ここに入居すれば、カフェテリアで朝晩、栄養バランスの整った食事ができるし、ライブラリーにある本を読み漁ったり、ラウンジでほかの学生たちと語らったり、多目的ホールでイベントを開いたりと、実に楽しい学生生活が送れそうな気がする。ああ、あとウン十年、若かったら私も……!

●参考
・中央ラインハウス小金井
・ナジック学生マンション元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/168671_main.jpg

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「ワーケーション」がJALを変えた。地域と出合い、自分を見直す働き方

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「ワーケーション」がJALを変えた。地域と出合い、自分を見直す働き方

テレワークの新しい形として広がっている「ワーケーション」。「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、休暇を兼ねて出かけた先でリモートワークを行う新しいワークスタイルであり、ライフスタイルである。2019年11月18日には「ワーケーション自治体協議会設立総会」が実施され関心が高まっている。2010年に経営破たんした日本航空株式会社(JAL)はそこから回復するために社内の働き方改革にも着目した。ワーケーションを社内制度として取り入れたのがその一例だ。そこで、人事分野を担当し、自らもワーケーションを実践し続けている東原祥匡さんに取り組みと体験談を伺った。
ワーケーションで人も土地もwin-winの関係に

ワーケーションは基本的に休暇だが、「この日は仕事をします」として休暇先でPCにログインし、テレワークすることで勤務日とみなされる制度だ。JALのワーケーション実績は、2017年夏期推奨期間の利用はわずか11人だったが、翌年の2018年夏期推奨期間には78人と、なんと7倍にも増加した。2018年は年間を通してのべ174人がワーケーションを利用したことになる。また、ここから派生して、商品として「ワーケーション」を組み込んだツアープランの販売も始まった。この一連の動きの立役者が人事担当の東原さんだ。

ワーケーションを通じてその土地を訪れることで、お互いがwin-winの関係になると東原さんは考えている。「地域の方々と一緒に何かを『生み出す』こと、つまり『共創』を実現したいです。ワーケーションは地域活性にもつながると思います」と東原さんは言う。2018年11月から12月にかけて実施した鹿児島県徳之島町とのワーケーション実証事業において、ワーケーションがもたらす地域との結びつきの魅力を実感し、荒らされていない自然が存在する徳之島への愛も同時に芽生えた。

鳴子温泉(宮城県大崎市)でのワーケーションに利用した旅館(写真提供/JAL)

鳴子温泉(宮城県大崎市)でのワーケーションに利用した旅館(写真提供/JAL)

現在、JALの勤怠システムでは「ワーケーション」という項目が「休暇」などと並んで選択できるようになっている。また、社内で閲覧できるイントラネットでは、東原さんが自作した、全国のオススメのコワーキングスペースを紹介している。とても整理されていて情報量も豊富、イントラにとどめておくのは惜しいほどの出来栄えだ。「ほとんど趣味ですけれど」と東原さんははにかむが、なかなかできるものではない。

この夏は北海道、愛媛、オーストラリアでワーケーションとアクティビティを融合した試みも行った。働き方や休み方を社員自身がマネジメントでき、さらに付加価値を実感できるようにするのも人事担当としての目的のひとつだ。

「ワーケーションの伝道師」が生まれるまで

いまやワーケーションの伝道師(エバンジェリスト)ともいえるほど、熱心にメリットを語る東原さんだが、会社としては休暇取得の促進が喫緊の課題であった着任当時、なんでもいいからすがりたいという気持ちもあった。シフト勤務者は残業がほとんどない環境であるが、間接部門の社員は経営破綻後人員が減った中、業務は増加傾向にありワークスタイル変革の実施は急務であった。

白浜町でのワーケーションでは、道普請(みちぶしん)も行った(写真提供/JAL)

白浜町でのワーケーションでは、道普請(みちぶしん)も行った(写真提供/JAL)

ワーケーションを浸透させるため、受け入れ先のひとつ和歌山県の南紀白浜に話を聞きに行き、社内モニターツアーの企画につなげた。そして、2017年12月と2018年2月の2回にわたって10~15人の社員とともに体験ツアーを行った。評判は上々で、手ごたえを得たように思った。

そのほか、一般社員がワーケーションを行いやすいようにと役員自らがワーケーションを実施したり、家族を同行させてのワーケーションをしたりしてみたこともある。また、若手社員帯同してのワーケーションをしたりしてみたこともある。また、若手社員からの声をもとに、滞在先で集中討議を行う「合宿型ワーケーション」を徳島県神山町、宮城県鳴子温泉、福岡市、富山県などで行った。
担当業務の一環として始めたワーケーションだったが、東原さん自身も、ワーケーションで働き方がガラッと変わった社員の一人である。温泉地なら湯治場で地元の人たちとコミュニケーションをとるのも楽しいなど、場所によって異なる魅力がある。2018年のゴールデンウイークには海外でのワーケーションを体験しようと、シンガポールへ出かけた。「次はあえてハワイ島に行き、パワースポットで仕事をしてみたいと思っています」(東原さん)

シンガポールでワーケーション中の東原さん(写真提供/JAL)

シンガポールでワーケーション中の東原さん(写真提供/JAL)

現在の人事の仕事に就く前は、社外に出向していた東原さん。社外での経験は、会社や自分自身を俯瞰してみることができ、自身の働き方について見つめなおす良い機会となった。「残業が多く、有給休暇も取れない環境は良いのだろうか」と、これからの人生や働き方について考えることも多かったと言う。今は心から仕事を楽しいと思えている。「ワーケーションのおかげかもしれません」(東原さん)。例えば徳之島に行くと「おかえりなさい」と言ってもらえる。「自分が関係人口の増加にも寄与しているのではないかと実感できるんです。それをうれしく思います」。連休の合間にワーケーションを使って、地方にいる友人に会いに行くのも楽しみとのこと。

(写真提供/JAL)

(写真提供/JAL)

ワーケーション普及に立ちはだかる壁

「仕組みさえできればワーケーションはどの会社でも導入しやすいと思います」と東原さんは言う。しかし、休暇をベースにした制度の理解ができる素地が、いまの日本社会にはまだない。「本当に仕事しているのか?」と疑ってしまう「性悪説」の蔓延がワーケーションやテレワークの普及を遠ざけている。しかし働き方を変えるために労使双方に大切なのは「性善説」であり、お互いが信頼、理解し合うことなのかもしれない。

ワーケーション導入後のJALでは、有給取得率が高くなったという。時間外労働も月7時間まで削減できた。ワーケーションにおいても、PCのログオンやログオフを見ることで、社員をきちんと管理できている。「次の目標は今年5月に導入した出張時に休暇をとれる『ブリージャー』の浸透です」(東原さん)と、すでに見据えるのはワーケーションのその先だ。

東原祥匡さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

東原祥匡さん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

ワーケーションのためのコワーキングスペースを提供したり、テレワークのためのインフラづくりをしたりしている企業は登場しているが、自社へのワーケーションの導入には至っていないところが多いのが実情である。導入に向けて社員一人ひとりの働き方について対面で話すことを重要視する企業もあるだろうし、JALのようにワーケーションの勤怠管理をできるシステムを整えることを検討する企業もあるだろう。しかし、システムの整備にはコストもかかるし、セキュリティの担保といった面でも万全とは言えないかもしれない。

ワーケーションの取り組みは日本社会全体を見るとまだ始まったばかりで、その可能性は未知数。今回、取材先としてワーケーション実践者を探す中で、言葉は広がっても実践はあまり進んでいないことを感じた。また、ベンチャーやスタートアップのような小規模の会社に比べ、大企業ほど制度面の整備などが難しく、導入の壁は高いだろう。しかし、さまざまなライフスタイルが広まる中で今後の選択肢となってくることは間違いない。PCひとつでリゾート地からリモート出勤――ワーケーションはこれからが本当のスタートだ。

●取材協力
日本航空株式会社元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/11/168732_main.jpg

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「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

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「災害対策」「マンション管理の重要性」「住まい選びの多様化」…2019年不動産市場を5つのキーワードで振り返る

2019年も残りあと数日となりました。今年の不動産界隈ではどのような出来事がおこったのでしょうか。さくら事務所会長の長嶋氏に、5つのキーワードで2019年の不動産市場を振り返っていただきました。今年は以下の5つのキーワードをピックアップしました。

【今年の注目5大キーワード】
キーワード1:災害とその対策
キーワード2:マンション管理の「質」に焦点
キーワード3:省エネ義務化 見送り
キーワード4:住まい選びはますます多様に
キーワード5:不動産価格は今がピーク?

詳しくみていきましょう。

●キーワード1:災害とその対策

台風15号や19号は国内各地に甚大な被害をもたらしましたが、浸水が発生したのはおおむね被害が想定されていた地域も多く、あらためて「ハザードマップ」の有効性がクローズアップされました。現在は不動産を売買・賃貸する際にハザードマップの説明をすることは必ずしも義務化されておらず、浸水可能性の有無を知らずに買ったり借りたりしているケースも。しかし今後の気候変動の趨勢(すうせい)を考えれば、法改正でハザードマップの説明が義務化される可能性は高く、また金融機関の担保評価項目に織り込まれることとなれば、資産価格への影響も必至だとみておいたほうが良いでしょう。

災害大国ニッポン。自身や家族の安全・安心のためにも、また不動産の資産性を守るためにも、ハザードマップの確認は必須。万一の際の避難場所の確認や防災グッズの準備も欠かせません。また、各地で大型地震の予測がされているほか、昨今は想定していなかった地域でも大型の地震が発生しています。「地理院地図」(国土地理院)などで、地盤の性質について確認しておくこともマストといえます。

●キーワード2:マンション管理の「質」に焦点(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

主に1990年代後半から建設されてきたタワーマンションが続々と大規模修繕の時期に差しかかったこともあり、マンションの「持続可能性」に注目が集まりました。マンションの大規模修繕はおおむね15年ごとに行われますが、その原資となる修繕積立金の設定は、新築時に低めに設定されていたり、段階的な値上げを予定しているケースが多く、長期的な視野に立った修繕計画が大切です。一般的なマンションでは専有面積平米あたり200円程度の積立金が必要です。例えば60平米なら1万2000円程度の積み立てができているかということ。豪華な共用施設があるマンションやタワーマンションなどではもっとかかります。マンションへの永住意識が年々高まる中、購入者もマンションの持続可能性を見極め、所有者は管理組合運営に積極的にかかわるといった風潮が強まり始めています。

●キーワード3:省エネ義務化 見送り

2020年に一定の省エネ基準が義務化される予定であったところ、住宅などついては2015年に続いて見送りが決定されました。義務化された省エネ基準のない国は先進国では日本だけであり、世界的に見ればかなり後れを取っているといっていいでしょう。

しかし長期的に見れば、気候変動対策として、または「ヒートショック」などを防ぎ健康寿命を延ばすことを目的とした住宅省エネの追求は、やがて前進することになるはず。現行耐震基準にくらべて耐震性が低いいわゆる「旧耐震」の建物が、不動産取引や金融機関の融資、税制などで待遇に差があるように、やがて省エネ性の行程で、住んでいての快適性はもちろん、資産価格にも差がつく時代が来るでしょう。

●キーワード4:住まい選びはますます多様に

これまで住まいといえば「賃貸か持ち家か」といった2択でしたが昨今では、特定の住居を持たず定期的に居住地を移動する「アドレスホッパー」や、都心や地方といった複数の拠点を居住地とする「複数拠点居住」といった、新しいライフスタイルが台頭し始めています。

また「新築か中古か」といった2択も、ガス・電気・水道などのライフラインや構造躯体の性能を必要に応じて更新・改修したり、ライフスタイルに合わせ間取りや内外装を刷新する「リノベーション」の普及によってその境目もあいまいになってきました。

従来の常識や価値観にとらわれない多様な暮らし方は、今後もますます広がっていくでしょう。

●キーワード5:不動産価格は今がピーク?(画像/PIXTA)

(画像/PIXTA)

国内最高価格を誇る銀座4丁目の交差点周辺の地価上昇率は2017年にピークを迎え2018年、2019年とその上昇率が鈍化。このペースでいくと2020年のその上昇率はほぼゼロないしはマイナスに転じそうです。2012年12月の民主党から自民党への政権交代以降、株価が上昇するのと同様に、都心部・都市部を中心に上昇を続けてきた国内不動産価格も潮目が変わる可能性が高いでしょう。

「不動産投資家調査」(日本不動産研究所)においても、2020年が不動産価格のピークとみる向きが多いようです。

また東京より不動産価格の高いロンドンや香港・上海・ニューヨークなどの米主要都市も、米中貿易戦争やブレグジット、香港デモといった世情を受けピークから下落が鮮明。東京都心部から始まった不動産価格の上昇は転換期を迎えそうです。

【最後に】

歴史を振り返れば、元号の変わり目には大きな社会変化が起きてきました。大正から昭和に変わった翌年には最大商社(鈴木商店)が破綻、2年後に世界大恐慌へ。昭和から平成となった年末に株価は4万円近くのピーク、翌年の大発会で大崩れし、その後戻ることはありませんでした。数年たち「あれがバブル崩壊だった」と気づきます。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」というマーク・トウェインの言葉がありますが、1990年バブル崩壊から衰退の30年を経過した今、社会には30年サイクルがあるように思えます。1960~1990年はいわゆる戦後を脱し「モーレツ」な高度経済成長。1930~1960年は恐慌から戦争へと突入し敗戦とその処理。1900~1930年は日清・日露戦争に勝利し先進国の仲間入り。さらに30年前は明治維新です。

いま、世界の債務は2京円を超え過去最大。ブレグジットで揺れるEU、多額のデリバティブ商品を抱えるドイツ銀行、米中貿易戦争、香港デモなど、世界の金融システム、ひいては政治経済を大きく揺るがす可能性のある火種はいくらでも転がっています。

思えば1990年のバブル崩壊、2000年初頭のITバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、金融ショックはおよそ10年ごとに起きてきました。前回リーマン・ショックの際には、米国政府がファニーメイやフレディーマックといった住宅系金融機関に公的資金を投入したところ批判が相次ぎ、民間金融機関であるリーマンブラザースを放置したところあのような事態となりました。リーマン・ショックから10年あまり、2020年以降の金融システムに変調があるか、着目しておきたいところですね。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169530_main.jpg

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賃貸住宅の訳あり物件・事故物件については、どこまで知らされる?

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賃貸住宅の訳あり物件・事故物件については、どこまで知らされる?

日管協(日本賃貸住宅管理協会)総合研究所では、年に2回、賃貸住宅景況感調査を実施している。今回の調査では、「心理的瑕疵物件における重要事項説明」に関する質問項目を新たに追加した。心理的瑕疵のある物件は、いわゆる訳あり物件や事故物件などといわれているが、その実態について見ていこう。【今週の住活トピック】
第22回賃貸住宅景況感調査「日管協短観」(2019年度上期)を発表/日管協総合研究所心理的に嫌悪するような傷のある物件

まず、「心理的瑕疵物件における重要事項説明」に関する調査の背景について説明しておこう。

「重要事項説明」とは、宅地建物取引業法で定められたもので、賃貸住宅の賃貸借契約を結ぶときには、仲介する不動産会社は借りる人に対して、どんな物件をどういった取引条件で借りるかについて、重要な項目を説明する義務がある。中古住宅を売買の場合も同様だ。

説明すべき項目の中に「心理的瑕疵(かし)」が含まれる。瑕疵とは隠れた欠陥のことなので、心理的瑕疵は「心理的に嫌悪するような傷」のことになる。

一般的に該当する事例としては、自殺や他殺、孤独死など人が亡くなったり、暴力団事務所などの嫌悪・迷惑施設が近隣にあったりといったことが挙げられる。仲介会社がそのことを知っていながら、借りる人に告げなった場合は責任を問われることになる。

ただし、どういった場合に心理的瑕疵に該当するのかについては、明確な基準がない。特に、人が亡くなった場合では、老衰や病気で亡くなってすぐに葬儀が執り行われた場合と、孤独死で長期間それに気づかなかった場合では、心理的な抵抗感や部屋に与える影響の度合いも変わってくる。

借りる人によって心理的に嫌悪する程度が異なったり、仲介する不動産会社の判断基準に違いがあったりなどで、どこまで告知されるかはケースバイケースというのが実態だ。心理的瑕疵に明確な基準を設けるべきだ、という声も強くなっている。

室内の自殺や他殺、病死などがあれば告知される場合が多い

さて、日管協の会員会社に調査した結果を見ていこう。人が亡くなった場合の亡くなり方で、どういった場合に心理的瑕疵として重要事項説明を行うかを聞いた結果が、画像1だ。

心理的瑕疵物件(事故物件等)において重要事項説明を行う範囲(出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)より転載)

心理的瑕疵物件(事故物件等)において重要事項説明を行う範囲(出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)より転載)

「室内で自殺」(74.6%)や「室内で他殺」(64.9%)の場合は、借りる人に告知する割合が高い。「室内で病死や事故死」の場合も59.7%が告知しているが、病死の場合は、それによって部屋が損傷したり臭いが染みついたりした場合に告知する割合(69.4%)のほうが高くなっている。また、室内ではなく共用部などであれば、自殺や他殺の場合でも、告知される割合は半数近くまで下がってくる。

つまり、借りようとする住戸内で自殺や他殺、病死などが起きた場合に、重要事項説明で告知されるケースが多いが、そうした場合でも必ずしも告知されるわけではないというのが実態だ。

入居者の入れ替えがあれば、告知されないケースも

次に問題になるのは、どこまで告知し続けるか、ということだ。こちらも明確な基準はない。
死亡事例があった後に誰かが入居して特段問題がなければ、次の入居者に対しては告知をしない、というのが最も短い期間になるだろう。

この告知期間について聞いた結果が、画像2になる。最も短いと考えられる「入居者1回入れ替え」が最多の35.1%で、「入居者2回入れ替え」(14.9%)や「一定年数」たったら(11.2%)という場合もある。一方で、「半永久的」という回答も14.9%あり、自殺や他殺、孤独死などが大きく報道された場合など「認知度合、インターネットへの閲覧等の要素」で判断するという回答も9.7%あった。

心理的瑕疵物件(事故物件等)において重要事項説明を行う告知期間(出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)より転載)

心理的瑕疵物件(事故物件等)において重要事項説明を行う告知期間(出典/日管協総合研究所「日管協短観」(2019年度上期)より転載)

この結果を見ると、入居者が1回または2回入れ替わったり、一定年数がたったりすれば、心理的瑕疵が重要事項説明で告知されないケースも多い実態が分かる。

事故物件、訳あり物件なら入居しない?

心理的に嫌悪する傷のある賃貸には住みたくないと思うのは、今に始まったことではなく、江戸時代にもあったようだ。筆者の連載「連載江戸の知恵に学ぶ街と暮らし」の「お化け長屋」に見る 江戸時代の引越し事情にも書いたが、落語にも「泥棒に殺されたお上さんの幽霊が出る」と嘘をついて、入居希望者を退散させるという「お化け長屋」という噺がある。店賃はいらないと聞いて、それでもかまわないといって押しかけてくる輩が現れ、事態は二転三転という落語だ。

今の時代にも、事故物件なら賃料が安くなるので、あえて探すという人もいる。試しに、不動産情報サイト「SUUMO」で、キーワード検索に「事故物件」と入力してみると、いくつか物件が見つかった。詳細は問い合わせないと分からないが、「事故物件のため、2年間賃料ダウン・敷金礼金ゼロゼロ」という記載がある賃貸もあった。

心理的瑕疵の程度は借りる人によっても異なる。筆者のように霊感があまりなく、賃料が安くて室内がリフォームされているなら気にしないという人もいれば、霊感が強くて、絶対住みたくないという人もいるだろう。住みたくないという人は、仲介する不動産会社に過去に死亡事例などがないか、心理的瑕疵といわれるものがないかを確認して、それを契約書に記載してもらうといった方法で、確実に告知してもらうようにするとよいだろう。

元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169532_main.jpg

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テレワークが変えた暮らし[3]引越し先の「共用部」がもう一つの仕事場に。働く意味を再発見

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テレワークが変えた暮らし[3]引っ越し先の「共用部」がもう一つの仕事場に。働く意味を再発見

昨今、オフィス以外の場所で仕事をするテレワーク(リモートワーク)を導入する企業が増えていますが、テレワークしやすい「住まい」も登場し、支持を集めています。今回はワーキングラウンジなどが充実した「ソーシャルアパートメント」で暮らし、テレワークに取り組む人とそのリアルな声をご紹介します。
寮をリノベ。144世帯が暮らす「ソーシャルアパートメント」

2019年9月、完成したばかりのソーシャルアパートメント「ネイバーズ武蔵中原」に引越してきた前田彰さん。東京都・渋谷のIT企業勤務で、現在週1回、リモートワークをしています。

2019年9月に誕生した「ネイバーズ武蔵中原」。全144世帯)、現在満室(写真撮影/片山貴博)

2019年9月に誕生した「ネイバーズ武蔵中原」。全144世帯)、現在満室(写真撮影/片山貴博)

「以前は板橋のシェアハウスから毎日、満員電車に乗って通勤していました。転居を考えていたほぼ同時期に、会社でもリモートワークを導入することになり、自分もテレワークをはじめてみようと。共用部が充実したソーシャルアパートメントの存在は以前から気になっていたので、本当にタイミングがよかったです」と振り返ります。

「ソーシャルアパートメント」は、通常のシェアハウスと異なり、共用部での入居者同士の交流を楽しめる「仕掛け」がなされている住まいのこと。トイレやバス、キッチンは定期的に清掃が入り、清潔に保たれています。
また、こちらの物件は、キッチンに加えて、シアタールームやバー、防音室などの共用設備も充実しています。なかでも、前田さんのお気に入りはワーキングラウンジ。

ワーキングラウンジで。このソファのすみっこが前田さんのお気に入り(写真撮影/片山貴博)

ワーキングラウンジで。このソファのすみっこが前田さんのお気に入り(写真撮影/片山貴博)

「僕が仕事しているのはこのスペース。まさにこのソファです。仕事終わりでも部屋に帰らず、ココに立ち寄ってブログを書いたりしているので、自分の指定席のような感じですね」と笑います。この「ネイバーズ武蔵中原」は144世帯と大所帯なので住人全員と交流があるわけではありませんが、ここにいると知っている人を介して、会話がはずむこともあるそう。

「ワーキングラウンジにも2種類あるんですが、自分はこのソファ派です。部屋にソファがないというのもありますし、部屋にいるとダラダラしてしまうので、ほどよく人の目があるココが落ち着くんですよね」といいます。

もう一つのワーキングラウンジ。こちらは椅子席が中心。自習室のようなたたずまいで仕事もはかどりそう(写真撮影/片山貴博)

もう一つのワーキングラウンジ。こちらは椅子席が中心。自習室のようなたたずまいで仕事もはかどりそう(写真撮影/片山貴博)

バーラウンジにはダーツやビリヤード台も。奥にはシアタールームもある(写真撮影/片山貴博)

バーラウンジにはダーツやビリヤード台も。奥にはシアタールームもある(写真撮影/片山貴博)

調理や食は入居者同士の交流を生み出す大切なポイント。大型キッチンにはレアな調理家電が並び、自然と距離を縮められるような配慮も(写真撮影/片山貴博)

調理や食は入居者同士の交流を生み出す大切なポイント。大型キッチンにはレアな調理家電が並び、自然と距離を縮められるような配慮も(写真撮影/片山貴博)

心地よい場所があることで、「テレワークのほうが作業に集中できる」

前田さんがテレワークをはじめてみて3カ月あまり。率直な感想を聞いてみました。

「現在、会社では週1回のテレワーク、11時~16時のコアタイム制を導入しています。会社までの通勤は乗り換え1回、時間にして片道40分程度なのですが、通勤の義務がなくなるだけでも、ストレスは軽くなるなと思いました。テレワークをしてみると、オフィスで働く意味ってなんだろうって考えるようになりますよね(笑)」と心地よいよう。

ワーキングラウンジでは、前田さん以外にも仕事をする人の姿も(写真撮影/片山貴博)

ワーキングラウンジでは、前田さん以外にも仕事をする人の姿も(写真撮影/片山貴博)

特に前田さんはお気に入りの「ワーキングラウンジ」はオフィスよりも集中でき、仕事が捗ると感じることも。

「作業が詰まっているときは、僕はテレワークのほうがよいと思いました。会社だとどうしても話しかけられたりするので、集中できない。でも、自分の部屋だとだらけてしまう。一方で、例えばカフェなどだと、他人の声や仕草が気になってしまって気が散ってしまう。このワーキングラウンジは音や椅子、周囲の人も含めて、ちょうどよいのだと思います」

ほかにも、オフィスではよいアイデアが思いつかなかったものの、仕切り直しで持ち帰り、ワーキングラウンジで仕事を終わらせた、なんていうこともあったそう。一回休憩をはさむことでリフレッシュでき、持ち帰り仕事も負担にならないといいます。これも会社と自宅にほどよい「場所」がある良さと言えそうです。

大型のラウンジ。カウンター席やテーブル席、ソファ席などが用意され、気分にあわせて使いわけることができそう(写真撮影:片山貴博)

大型のラウンジ。カウンター席やテーブル席、ソファ席などが用意され、気分にあわせて使いわけることができそう(写真撮影:片山貴博)

暮らすのも働くのもシームレス。だから心地よいことが大事

一方で、週5日を完全にテレワークにしてしまうのは、ちょっと不安もあるといいます。

「仕事が詰まっていないとき、余裕がある時期はオフィスで働くほうがいいと思いました。やっぱりリモートワークは自分次第なので、少しでもゆるさがあるとだらけてしまう怖さがあります。あと、雑談から次のアイデアが生まれることもありますし、スタッフ同士の温度感など、得られるものは多い。リモートワーク可能な日を週2日~3日ともう少し増やすかもしれませんが、今はほどよいペースを見極めている状態かもしれません」(前田さん)。

心地よい屋上。開放的な空間で気持ちもリフレッシュできる(写真撮影/片山貴博)

心地よい屋上。開放的な空間で気持ちもリフレッシュできる(写真撮影/片山貴博)

前田さんが出社するときは朝9時30分に自宅を出て、帰宅はおよそ20時。とはいえ、前述の通り、自室に帰らず、ラウンジで作業していることが多いそう。
「働くのも暮らすのもシームレスで、分かれていない。すべて延長線上にあります。そういう意味で、今の暮らしがちょうどいい。心地よい場所があるって、とても大事だと思っています」

暮らすことも働くことも、「どれも毎日の一つ」と考える前田さん。ゆえに、どこで暮らすか、どのように働くかが同じくらい大切なのかもしれません。

「私の勤める会社でもテレワークの満足度は高いようですし、今、探りながら進めているところです」と話す通り、「ネイバーズ武蔵中原」は、今140世帯超の部屋が満室で、テレワークをする人も少なくないといいます。

また、友人にリモートワークやフレックスタイム制の話をすると、たいていの人が「いいな~」と返ってくるそう。自宅や会社以外の場所があり、そこで柔軟に働くことができれば、より仕事にも打ち込める。こうした働き方、住まい方は着実に社会に広がっていくことでしょう。

●取材協力
ネイバーズ武蔵中原元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2019/12/169582_main.jpg

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