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日本の窓は遅れている[前編]~意外と知らない「窓と健康」の関係

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日本の窓は遅れている(前編)~意外と知らない「窓と健康」の関係

暖冬と言われていても、やはり1〜2月は寒い日が多い。4月からの電力自由化で少しは光熱費が節約できるのかな…と思っている人に一つだけアドバイスを。電力会社を選ぶのもいいが、窓を変えることを考えよう。たったそれだけで光熱費は劇的に抑えられるから。今回は2回にわたり住宅の窓を変えることの大切さをお届けする。
ドイツで脱衣所の室温が10度台だったら離婚される!?

ドイツで2014年に改正された「省エネ法(EnEV2014)」。その中では家の賃貸や売買の際に「燃費」を表示することが義務づけられている。燃費とは、快適な室内にするために必要となる具体的なエネルギー消費量、つまりコストのこと。

この燃費の証明書をエネルギーパスといい、それを日本に普及しようと活動しているのが日本エネルギーパス協会だ。同協会の代表理事である今泉太爾さんにお話を伺った。

「日本の国土交通省の役人にあたるドイツ人と、仕事でよく会うのですが、彼の家では浴室や脱衣所、トイレを居室の20度より高い24度にしているそうです。居室のほうが暖かい日本とは真逆ですよね。もし日本のように、例えば『脱衣所の温度は10数度でいいよね? なんて言ったら離婚されちゃう』と笑っていました」

なぜ、脱衣所が寒いだけで離婚問題になるのか、日本人にはよく分からないだろう。それには省エネに対する日本と欧米の考え方の違いがある。

「省エネ性能を上げると環境に優しいとか、光熱費の節約になると思う方がほとんどでしょうが、もう一つ『健康で快適になる』ということを、多くの日本人が知らないのです」(今泉さん)

歴史的に、日本人の多くは健康で快適な家を知らない!?

なぜ日本人が、「省エネ性能を上げると健康で快適になること」を知らないのか。その理由は、歴史的、文化的背景の違いが大きい。

そもそも石づくりの建物が発展してきた欧米と、木造で夏の湿気を逃すために柱と柱の間を広く取った家が当たり前だった日本。例えば欧米は石に穴をあけるから「風の通る穴」でwind(風)+ow(穴)=window、日本は柱の「間」の「戸」で「まど」=窓、というように、窓の考え方まで違う。

石づくりなど閉じられた空間が基本の欧米では、冬は暖房を使って空間全体を暖める。対して開かれた空間が基本の日本は、いろりなど「火に当たる」という暖の取り方が主流だった。

「火に当たる正面は暖かいけれど背中は寒い。こたつもそうですよね、足は温かいけれど上半身は外に出している」(今泉さん)

しかし、これが健康に悪影響を与えるのだ。

「暖かいと血管が開いて血圧が下がります。しかし冷たいと血管が収縮して血圧が上がります。日本人の暖の取り方は、体に低血圧と高血圧を併存させるような行為です」(今泉さん)

さらに日本の家のように寒暖差が大きいと、伸縮を繰り返すことで血管が痛みやすい。血管が老化してくると脳梗塞や心筋梗塞などの循環器系疾患、つまりヒートショックの危険が高くなる。実際「他国に比べて日本はヒートショックで亡くなられる方が非常に多いのです」と今泉さんは言う。

【図1】主な国の75歳以上の溺死死亡率(人口10万対)。川や海などでの溺死も含めたデータなので、入浴中のヒートショックによる死亡数と同じではないが、それにしても日本の死亡率が突出している(出典:国立保健医療科学院)

【図1】主な国の75歳以上の溺死死亡率(人口10万対)。川や海などでの溺死も含めたデータなので、入浴中のヒートショックによる死亡数と同じではないが、それにしても日本の死亡率が突出している(出典:国立保健医療科学院)

ドイツで脱衣所の温度を10数度にすることは、家族の健康を脅かすことであり、離婚されるというのはあながち冗談ではないのだ。

最近今泉さんは長野県の省エネ条例づくりに携わった。この条例ではドイツのように、住宅を含むすべての建物に燃費を表示することが義務づけられている(300m2未満の住宅は2015年4月以降に着工する建物から、それ以外は2014年4月から)。

「県民が健康的に暮らせるようになるだけでなく、県としては医療費の節約にも繋がります」(今泉さん)

このように自治体レベルでも省エネ性能を高める重要性に気づき始めている。

家の熱の4割は窓から逃げる

では健康的な生活を送るためにはどうすればよいか。それには家の断熱性能を高め、暖房を効果的に使うことが必要だが、そこで重要なのが、実は窓なのだ。

「窓から家の熱が逃げる割合は全体の約4割もあります」と今泉さん。実際、窓を変えるだけで暖房の効果が下記図のように違う。

【図2】家一軒(窓面積30m2)、外気温4度のときにオイルヒーターを使って室温を20度に保とうとした場合に、窓から逃げるエネルギー量の比較。電気代は27円/kWhで計算。窓のみでの評価で、壁や換気などの熱損失を除く(出典:日本エネルギーパス協会) ※w/m2・k(熱貫流率)とは、断熱性能を表す指標で、窓の場合は0から6.51の数値で表され、6.51に近づくほど低性能、0に近づくほど高性能。温度差が1度あるとき面積1m2あたりどれくらい熱が流れるかを示す

【図2】家一軒(窓面積30m2)、外気温4度のときにオイルヒーターを使って室温を20度に保とうとした場合に、窓から逃げるエネルギー量の比較。電気代は27円/kWhで計算。窓のみでの評価で、壁や換気などの熱損失を除く(出典:日本エネルギーパス協会)
※w/m2・k(熱貫流率)とは、断熱性能を表す指標で、窓の場合は0から6.51の数値で表され、6.51に近づくほど低性能、0に近づくほど高性能。温度差が1度あるとき面積1m2あたりどれくらい熱が流れるかを示す

その上で、今泉さんはセミナーで次のような質問をするという。「穴の開いたバケツに水を溜めようと思ったら、まず何をしますか?」

誰もがまず間違いなく「穴を塞ぎます」という。「なのに、熱が漏れている窓を重視しないというのはおかしな話だというと、みなさん納得されます」

節約は確かに美徳。しかし穴の開いたバケツの状態で、節約しなきゃと蛇口を締める、つまり暖房をこま目に消したり設定温度を下げても、節約には非効率。早く穴を塞ぐほうが節約だと、きっと誰もが思うはず。まずは自宅の窓が穴になっていないか、確かめてみてはどうだろう。

次回は、実際に断熱性能の高い窓の選び方を紹介する。

●取材協力
日本エネルギーパス協会元画像url http://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2016/02/106121_main.jpg

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