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定住先をつくらない、「やど仮(ヤドカリ)」生活がおもしろい

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定住先をつくらない、「やど仮(ヤドカリ)」生活がおもしろい

最近知り合った人に「どこにお住まいなんですか?」と何気なく聞いてみた。すると「今、家がないんですよ」と彼は言う。
そうか、可哀想に。なぜ家がある前提で話しかけてしまったのだろう。ただちに謝罪したが、よくよく聞けばべつに気の毒な話ではないらしい。
なんでも彼は決まったすみかを“あえて”持たず、いろんな街の格安宿を泊まり歩く生活をしているというのだ。家を借りられない事情があるわけでもなく、積極的にそのスタイルを選んでいる。
いったいどういうつもりで、そんなヤドカリみたいな生き方をしているのか?その一日に密着し、問い詰めてみることにした。
ヤドカリ暮らしは「本当に自分にあった街」を見つけるための下見

というわけで、とある平日の夜、仕事帰りの彼と待ち合わせた。指定された場所は「蔵前」。東京・台東区の下町で、最近はスカイツリーのおひざ元として注目度が高い。

本日はこのあたりに宿をとっているというヤドカリ氏(以下、Y氏)。そのまま外国人バックパッカーでにぎわうゲストハウスで予約の旨を告げ、手慣れた感じでチェックインを済ませる。

【画像1】この日の宿は、前から泊まってみたかったという蔵前のおしゃれゲストハウス。1泊3000円(写真撮影/榎並紀行)

【画像1】この日の宿は、前から泊まってみたかったという蔵前のおしゃれゲストハウス。1泊3000円(写真撮影/榎並紀行)

「では、飲みにいきましょう」

そう言うY氏に連れられてやってきたのは、いかにも名店ふうなたたずまいの路地裏居酒屋。事前にいい感じの飲み屋を下調べしておいてくれるあたり、じつにソツのない男である。仕事もデキるに違いない。顔もなかなかハンサムだ。それだけに、なぜこんなトリッキーな生活をしているのか解せない。変態なのだろうか?

詳しく聞いてみよう。

【画像2】Y氏。酒と散歩を愛する29歳(写真撮影/榎並紀行)

【画像2】Y氏。酒と散歩を愛する29歳(写真撮影/榎並紀行)

―― 早速ですが、なぜ家を借りずに街を転々としているんですか?
「理由はいろいろですが、一番の目的は“本当に自分にあった街”を見つけるための下見、のようなものなんです。以前、神楽坂に2年住んでいて、その後に仕事の都合で不動前に引越しをしたんですが……、不動前も嫌いではないけれど、神楽坂に住んでいたときに比べるとあまり刺激が無くて。そのときに「自分に合った街に住む=毎日がより楽しくなる」と気づき、「本当に自分にあった街」を探そうと。

ただ、実際に家を借りると2年契約だったりするので、いろんな街に住むことができない。じゃあ、もっと短いスパンでいろんな街で暮らす方法はないか、と考えて、この生活をはじめることにしました。

単純にその街が楽しいかどうか、好きか嫌いかは遊びに行けば分かると思うんですが、その街が自分にとって“暮らしやすいのか、生活に合っているのか”って、休日や昼間だけでなく、平日の朝と晩も過ごしてみないと分からないのではと思うので……気になる街に何日か『住んで』みて、自分にとって本当にベストな街を探しています」

―― 「何日か」って何日くらいですか?
「大体3日~4日くらいですかね」

―― 3日住んだだけで、暮らしやすいかどうか分かるものなんですか?
「自分も最初は短期間では分からないかな、と思い1週間くらいでスタートしたのですが、やってみると3日程度で意外と分かるもんだ、と感じました。3泊もして街を歩き回ればそれなりに土地勘も出てくるし、3日目の朝には宿から駅の場所へも何も見なくても行けるようになったり。何より平日の朝と夜の雰囲気が分かるのが大きいですね。

平日の遅い時間や出勤前って基本的にそこに住んでる人しかいないから、休日に遊びに行くのと違って、リアルな風景が見える気がするんですよね。実際にそこから会社に出勤することで経路や電車の混雑具合も体感できますし……」

―― 具体的にどんなことに気づくんですか?
「例えば、自分は仕事場の最寄駅が地下鉄だと京橋なんですけど、浅草に何日か“住んでた”ときに、銀座線だと浅草駅が始発で本数も多く座って会社まで行けて、時間帯にもよると思うのですが、想像以上にガラガラで快適でした。こういうのも、泊まってみないと気が付けなかった点かな、と思います。

上野もよかったです。JRの最寄駅の東京駅にとにかくめちゃくちゃ近くて6分くらい。ただ、朝とか酔っぱらいの方が道端で転がってたり、夜、安い定食屋さんでご飯を食べていたら、酔った隣のおじさんが『まだこねえのかよ!』って店員さんを怒鳴りつけてたりもして……けっこうカオスな街だなと。個人的にはこういう雰囲気も嫌いではないけれど、苦手な人は苦手だろうな、と思いました。
あと、茗荷谷。予想はしていたんですが、完全に幸せファミリーオーラ全開の街で、男が一人暮らしして楽しい街、というのとは少し違うかな、とか。

先日は少し郊外にも行ってみようと、府中にも泊まってみました。大國魂神社前のけやき並木が、以前住んでいたことがあって大好きな仙台の「定禅寺通り」になんとなく似ていて、好きな街だな、と思いつつも東京駅まではやや遠いなあ、など。「住む視点」でいろいろと発見がありました」

【画像3】隅田川越しのスカイツリーが美しい蔵前の夜(写真撮影/榎並紀行)

【画像3】隅田川越しのスカイツリーが美しい蔵前の夜(写真撮影/榎並紀行)

―― とはいえ、宿代もバカにならないでしょう?
「それが、決して「安い!」とは言えませんが、“案外”安上がりなんですよ。宿代は1日3000円を目安にしていて、1カ月あたり約9万円。都内で家を借りるのとさほど変わりません。通信費、電気、ガス、水道代もひとり暮らしなら1万5000円~2万円くらいかと思いますがそれはゼロですし」

―― 東京23区内で3000円の宿って、そんなにありますか?
「普通にけっこうあります。上野なんて1500円の宿もありましたよ。カプセルホテルなんですが、お風呂にジャグジーもついていて、Wi-Fiも使えるし、テレビもある。コインランドリーもある。部屋は狭いけれど、寝るだけなら十分かと。あとは、毎日宿代を財布から支払っていると出費をリアルに実感するので、なんとなく節約しようと思えるんですよね。だから無駄遣いしなくなって、かえってお金に余裕ができたと思います。

なので、先週はちょっと奮発して湯河原に泊まったんですよ。金曜日から3日間。交通費はぼちぼちかかりましたけど、奥湯河原にあった宿は1泊2800円のゲストハウス風の旅館。安いのにオシャレにリノベーションしてあって、温泉付き。しかも、源泉かけ流しです。お客さんは8割~9割近くが外国人で、けっこうシャワーで済ませちゃう人も多いようで、湯船はほぼ貸し切り状態。リフレッシュできて最高でした」

下見といいつつ、ヤドカリ生活そのものを楽しんでいるように見受けられるY氏。調査を兼ねつつ街を楽しむ。合理的かつ、日常を非日常に変えるグッドアイデアといえるかもしれない。変態呼ばわりしてごめん。

初めての街の飲み屋には必ず足を運び、地元客とふれあう

そんなY氏、ヤドカリ生活のなかで最も大事にしているのが「食」である。

「もともと食べ歩きが趣味で、日々街を歩いて見つけたおいしいものについて書くブログをやってたりもします。将来、自分で飲食店をやりたいとも思っているので、それに向けて最近の食のトレンドとか、自分が好きなお店・目指したいお店なんかが分かればいいかなと思って始めたんですけど……いろんな街のお店を開拓できるのも、ヤドカリ生活の利点ですね」

【画像4】言うだけあって、さすがに店選びの嗅覚が鋭い。下調べしてきた1軒目はもちろん、ふらっと入った2軒目も大アタリ。「たこ焼き茶漬け」が絶品だった(写真撮影/榎並紀行)

【画像4】言うだけあって、さすがに店選びの嗅覚が鋭い。下調べしてきた1軒目はもちろん、ふらっと入った2軒目も大アタリ。「たこ焼き茶漬け」が絶品だった(写真撮影/榎並紀行)

―― もともとの趣味との相性もいいわけですね。毎晩飲み歩くんですか?
「仕事が終わる時間によりますが……20時台に会社を出られたときは必ず飲みに行きます。と言うと、食費が高くつきそうに思われるし、実際安くはないのですが、安いお店と高めのお店のバランスを考えて、平均すると基本的には月6万~7万円くらいになれば、ってところだと思います。朝と昼はコンビニのおにぎりやサンドウィッチで200円~300円に抑えて、そのぶん夕食にお金をかけますね。ランチでいっぱい食べちゃうと眠くなるし、夜に楽しみがあると仕事を早く終わらせるモチベーションにもなるんですよ」

―― 飲むときは、一人で?
「だいたい一人です。でも、誰かが話しかけてくれることも多かったりします。小さなお店だと店員さんが間に入って、常連さんと会話をつなげてくれたりもする。こないだも一人で飲んでいたら、常連さんと店員さんと仲良くなって、6時から深夜1時のラストオーダーまで話し込んで、気づいたら一緒に店の後片付けとかしてて(笑)。きっと、常連でもないのに一人で飲んでるヘンなやつがいると、みんな気になるんでしょうね」
【画像5】そんな引きの強さをこの日も発揮。2軒目で隣り合わせたこちらの紳士。よくよく話を聞いてみると、地元有名企業の元重役で、現在は近辺にビルをいくつも所有。こうした、街のフィクサーみたいな人とたまたま知り合えてしまうのも、この生活の魅力だという(写真撮影/榎並紀行)

【画像5】そんな引きの強さをこの日も発揮。2軒目で隣り合わせたこちらの紳士。よくよく話を聞いてみると、地元有名企業の元重役で、現在は近辺にビルをいくつも所有。こうした、街のフィクサーみたいな人とたまたま知り合えてしまうのも、この生活の魅力だという(写真撮影/榎並紀行)

早朝の風景に表れる、住人のマナー意識

ちなみに、この日は筆者も蔵前のゲストハウスに泊まることにしたのだが、慣れない相部屋、見知らぬ人の気配に、しばらく寝付けなかった。Y氏のやっていることには全面的に賛同するが、個人的にヤドカリ生活は肌に合わないらしい。やはり家のベッドが一番落ち着くし、僕には家が必要だ。

【画像6】恥ずかしながら、ベッドが変わると寝られないタイプです(写真撮影/榎並紀行)

【画像6】恥ずかしながら、ベッドが変わると寝られないタイプです(写真撮影/榎並紀行)

「正直、デリケートな人や女性にはおすすめできないので、誰にでも合う生活だとは思いません。自分はどこでも寝られるし、同じ空間にいろんな人がいても気にならない。朝は強く、前の晩に遅くまで飲んでいてもパっと起きて出勤できるので、この生活に向いているのかなと思います。ただ、自分のようにがっつりとやど仮(ヤドカリ)みたいなことは無理でも、「住んでみたいなあ」という街がある方には、2泊くらいその街のホテルに泊まってみる、というようなことはぜひおすすめしたいです。イメージだけでなく、実際に泊まってみると分かることって本当に多いので。すごく合うのが分かってから引越したほうが、街とのミスマッチもないのかと」とY氏。デリケートな36歳のおっさん(筆者)とは対照的に、たくましい青年である。

【画像7】8時にチェックアウトし会社へ向かう。「せっかくなので浅草まで歩きましょう」とY氏。朝からバイタリティが凄い(写真撮影/榎並紀行)

【画像7】8時にチェックアウトし会社へ向かう。「せっかくなので浅草まで歩きましょう」とY氏。朝からバイタリティが凄い(写真撮影/榎並紀行)

「このあたりの方々はすごくマナーが良さそう」と、その視線の先にはしっかりと分別された資源ごみ。なるほど、そういうのも見るのか。将来自分が住むかもしれない街だけに、お姑さん並みにチェックが細かい。

【画像8】ゴミ出しの状態から住人の高いマナー意識をプロファイリング。確かにこれは早朝しかチェックできない(写真撮影/榎並紀行)

【画像8】ゴミ出しの状態から住人の高いマナー意識をプロファイリング。確かにこれは早朝しかチェックできない(写真撮影/榎並紀行)

ほかにも、駅に向かう人の姿から住人像を分析。「意外と学生っぽい人が多いなとか、女性が多いから治安が良いのかなとか、通学・通勤タイムだからこそ、実際にその街に住んでいる人の姿が見えてくるんです」。なるほど、なるほど、だんだん意味が分かってきた。

最後に蔵前の感想を聞くと「かなり気に入って、住みたくなりました。会社からも近いし、街の雰囲気も落ち着いていてよくて。チェーン店ではない、個人経営の居酒屋さんもちらほら。銭湯もあるし、おしゃれな文具店なんかも楽しい。歩いてすぐの浅草まで行けば、おいしいお店もたくさん」と高評価だ。これまでヤドカリしてきた街のなかでも、かなり上位に食い込んだようである。

なお、彼はもうしばらくこの生活を続けるという。最終的にどの街が1位に輝き、Y氏はどこに住むのか。じつに興味深い。

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